早期膵臓がん発見に遺伝子とタンパクによるリキッドバイオプシー

・研究者らが早期膵臓がん発見に血液中の遺伝子/タンパク質マーカーを使用

・血液中の遺伝子/タンパク質マーカーが早期膵臓がんを発見するのに役立つ

ジョンズホプキンスの研究者たちが早期膵臓がんを発見するために腫瘍特異的遺伝子とタンパク質バイオマーカーを検出する血液検査を開発したと述べた。この複合型「リキッドバイオプシー(血液検査)」は、膵臓がん初期ステージの患者221人の血液からマーカーを同定した。 この試験結果は、遺伝子と遺伝子のタンパク質産物の両方を用いてマーカーを同定する方が、遺伝子から同定するより2倍正確であることを示した。この結果は9月4日の週にオンライン版米国科学アカデミー紀要に掲載された。

これらリキッドバイオプシー(血液検査)の目的は、血液中に循環する大量の正常な遺伝子の中から、がんに特異的な遺伝子の分子を探索することである。腫瘍は変異した遺伝子を血流に放出する傾向があるため、ゲノム配列解析ツールを使用すれば血液を探索してがん関連遺伝子を見つけることが可能である。

初期段階の膵臓がんは、ほとんどの場合画像検査で偶然発見され、一般に症状を伴わない。しかし、大抵の場合、切除や手術が一次治療の選択肢ではない程かなり進行した遅い段階で膵臓がんは発見されている、とジョンズホプキンス大学メディカルスクールの外科助教であるJim He医師は言う。「これまでの30年間、われわれは切除可能ながんの発見に向けてあまり進歩できていません。この検査の結果がより大きな研究で検証されれば、早期で無症状のうちに膵臓がんを発見できるようになるかもしれません」とHe医師は語った。

この検査が研究環境外で使用される段階には至ってないが、腫瘍から放出されて血液から検出されるタイプの変異した遺伝子は、がんに「非常に特異的」であると研究者らは言う。「がん関連遺伝子がある方の血液中に見つかれば、その方ががんにかかっている可能性が非常に高い」とジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター、Ludwigセンターの共同センター長であるBert Vogelstein医師は言う。Vogelstein医師らの研究によると、進行がん患者85%以上の血液から遺伝子が検出できることが示されている。しかし、今回の研究が行われるまで、がんの遺伝的状態に関する事前知識がない状況下で、早期がん患者の血液から少量の遺伝子を検出できる感度がどの程度なのか、わかっていなかったと研究者らは述べる。

彼らの新しい研究では、オーストラリア、韓国、インディアナ州、ピッツバーグ州、メイヨークリニック(ロチェスター)、スローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)とジョンズホプキンス病院で膵臓摘出手術を受けたステージIおよびIIの膵臓がん男性および女性患者221人(主に白人)から血液および腫瘍組織試料を採取した。がん、自己免疫疾患または慢性腎臓病の既往歴のない182人からも研究のために血液の提供を受けた。

研究者らは、血液検査ツールを使ってKRAS遺伝子の変異のみを探索する方法により、221人の患者のうち66人、(30%)から早期膵臓がんを同定することができた。KRAS遺伝子変異は膵臓がん発生の早期マーカーである。

しかし、目標は同定率30%を向上させ、早期により多くのがんを発見し、疾患にかかってない人の偽陽性結果を避けることだ、と研究に携わったVogelstein医師の研究室の博士研究員であるJoshua Cohen医学博士は述べた。

そこで彼らは血中循環タンパク質バイオマーカーに着目した。この血中循環タンパク質マーカーは、糖尿病や心臓発作による心筋損傷のような疾患の同定およびモニタリング、ならびにがん既往歴のある患者のモニタリングのためにすでに臨床で使用されている。

研究者にとって特に興味深かったのは、タンパク質バイオマーカーCA19-9であった。CA19-9は、膵臓がん患者の再発をモニタリングするために使用されている。ただ、再発モニタリングに使用されるCA19-9のレベルは低い(37 units/mL)。これは医師が、がんの再増殖を迅速に突き止めたいためである。

がんに罹患していなくても、胆石がある場合など、低いレベルのタンパク質を検出する場合がある。がんのスクリーニングのためには、CA19-9のレベルははるかに高く設定(100 units/mL)する必要があった。

「検診には高い信頼性が必要です。受診者に余計な心配をさせたり、陽性結果後の精密検査による不利益を避けるためです」と、ジョンズホプキンスのLudwigセンターのもう一人の共同センター長、Kenneth W. Kinzler氏は言う。

研究者らが研究参加者の血液中のCA19-9のみを調べた場合、221人の患者のうち109人(49%)でCA19-9が陽性であった。しかし、KRAS遺伝子変異、CA19-9およびその他3つのタンパク質バイオマーカーの検出を組み合わせた場合、研究者らは、221人の患者のうち141人(64%)において膵臓がんと判定できた。対照的に、がんに罹患していない182人の対照群のうち1人だけが、5つのバイオマーカーのうちの1つに高値を呈した。

「1つのマーカーだけでは、ほとんどの場合、早期がんを発見することはできません」と、ジョンズホプキンス大学メディカルスクールの准教授であり、Multidisciplinary Pancreatic Cyst Program(集学的膵臓嚢腫プログラム)の代表であるAnne Marie Lennon医学博士は言う。「この研究は、複数のマーカーを使えば、血液検査でも確実に早期膵臓がんを発見し、より早く、より良く治療できる可能性を示唆しています」。

Vogelstein医師のチームは、検出したKRAS遺伝子変異の1つ1つが本物であってアーチファクト(*サイト注:実際には存在しない)ではないことを確実にするために、自ら開発した分子バーコードシステムを使用した。例えば、血液から検出された遺伝子変異と、腫瘍から検出された遺伝子変異が完全一致していることを示した。研究者らは、検出した遺伝子変異が肺がんや大腸がんでもよく認められるといい、タンパク質とDNAのバイオマーカーを組み合わせて利用することで複数のがん種を早期発見する計画であると述べた。

ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの腫瘍学教授であるNick Papadopoulos氏は、この研究で説明されている方法を使った検診費用について、乳がんや大腸がんの検査として広く利用されているマンモグラフィの費用と大腸内視鏡検査の費用の中間程度になると見積もっている。 Papadopoulos氏は以下も述べている。「DNAとタンパク質マーカーは患者を一度採血すれば分析できます。タンパク質バイオマーカー検査やDNA配列解析などの検査に必要な技術も、すでに病院や民間の検査機関で広く使われているものです」。

研究に貢献した他の研究者は以下のとおり。
Ammar A. Javed, Christopher Thoburn, Fay Wong, Matthew J. Weiss, Nita Ahuja, Martin A. Makary, Marco Dal Molin, Yuxuan Wang, Lu Li, Janine Ptak, Lisa Dobbyn, Joy Schaefer, Natalie Silliman, Maria Popoli, Michael G. Goggins, Ralph H. Hruban, Christopher L. Wolfgang, Alison P. Klein and Cristian Tomasetti of Johns Hopkins; Jeanne Tie and Peter Gibbs of the Walter and Eliza Hall Institute of Medical Research, Australia, C. Max Schmidt and Michele Yip-Schneider of the Indiana University School of Medicine; Peter J. Allen and Mark Schattner of Memorial Sloan-Kettering Cancer Center; Randall E. Brand and Aatur D. Singhi of the University of Pittsburgh; Gloria M. Petersen of the Mayo Clinic, Seung-Mo Hong and Song Cheol Kim of the Asan Medical Center, Seoul, Korea; Massimo Falconi and Claudio Doglioni of the IRCCS San Raffaele Scientific Institute, Milan, Italy; and Anirban Maitra and Samir M. Hanash of the The University of Texas MD Anderson Cancer Center.

この研究は以下団体からの資金提供を受けた。

Pancreatic Cancer Research, the Virginia and D.K. Ludwig Fund for Cancer Research, the Conrad N. Hilton Foundation, the Sol Goldman Center for Pancreatic Cancer Research, the Michael Rolfe Pancreatic Cancer Research Foundation, the Joseph L. Rabinowitz Fund for Pancreatic Cancer Research, Susan Wojcicki and Dennis Troper, the Benjamin Baker Scholarship, The Commonwealth Foundation, NHMRC grant APP1060804, The John Templeton Foundation, and the National Institutes of Health (P30-CA006973, CA062924, CA102701, CA06973, CA152753, GM-07309, and CA152753).

PapGene、Sysmex Corporation、Life Technologies Corporation(Thermo Fisher Scientific)およびジョンズホプキンス大学の間のライセンス契約に基づき、Papadopoulos氏、Kinzler氏およびVogelstein氏は、ここに記載の技術に対するロイヤリティーを得る権利を持っている。さらに、Papadopoulos氏、Kinzler氏とVogelstein氏はPapGeneの創業者であり、出資者で、コンサルタントでもある。加えて、Vogelstein氏とKinzler氏は報酬を得てSysmex Corporationの諮問委員をしており、Papadopoulos氏は報酬を得てSysmex Corporationのコンサルタントをしている。これらの関係性はジョンズホプキンス大学が利益相反ポリシーに沿って精査して承認している。

翻訳担当者 関口 百合

監修 野長瀬 祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

膵臓がんに関連する記事

膵臓がんの治験用RNAワクチンに対する免疫応答は、臨床的有用性と相関の画像

膵臓がんの治験用RNAワクチンに対する免疫応答は、臨床的有用性と相関

中央値3年間の追跡調査結果切除可能な膵臓がんの特定の患者において、autogene cevumeran(オートジーン セブメラン:治験中の個別化されたネオアンチゲン特異的mRN...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
定位放射線療法(SBRT)と増感剤スーパーオキシドの併用は膵臓がんの治療成績を改善の画像

定位放射線療法(SBRT)と増感剤スーパーオキシドの併用は膵臓がんの治療成績を改善

MDアンダーソンがんセンター高線量の体幹部定位放射線療法に対する腫瘍の放射線感受性を高める局所進行膵臓がんにおいて、増感剤と特定の放射線療法との併用がより効果的で、より高い無増...
膵がん患者の不安治療にロラゼパム投与は転帰の悪化に関連か ーアルプラゾラムは有効の画像

膵がん患者の不安治療にロラゼパム投与は転帰の悪化に関連か ーアルプラゾラムは有効

米国がん学会(AACR)がん治療中の不安に対して一般的に処方されるベンゾジアゼピン系薬剤であるロラゼパム(販売名:ワイパックス)を使用した膵がん患者は、使用しなかった患者よりも無増悪生...