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リンパ浮腫外科治療の進歩

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リンパ浮腫外科治療の進歩

MDアンダーソン 月刊OncoLog誌2017年4月号

MDアンダーソン OncoLog 2017年4月号(Volume 62 / Issue 4)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

リンパ浮腫外科治療の進歩

リンパ浮腫を呈するがん患者において、手足の浮腫を軽減させる新しい選択肢によりQOLが改善

手足にリンパ浮腫がおこると、がん外科手術や放射線治療の効果が低減してしまう。リンパ浮腫の治療方法はその重症度によって異なり、手術を要する場合もある。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは、中等度~高度のリンパ浮腫を呈するがんサバイバーに対し、肢容量を減少させ機能を回復する数種の外科手術を行っている。

 

「がん患者のリンパ浮腫の原因として多いのは、リンパ節の外科切除と放射線照射の併用です」と形成外科教授のMatthew Hanasono医師は述べる。上肢のリンパ浮腫は、腋窩リンパ節郭清と腋窩リンパ節領域の放射線治療を受けた乳がん患者に多く、下肢のリンパ浮腫は、骨盤リンパ節郭清と骨盤リンパ節領域への放射線治療を受けた膀胱がん、前立腺がん、婦人科がん患者に多くみられる。

 

リンパ浮腫は、用手的リンパドレナージ(マッサージ)、運動、圧迫帯で治療されることが多い。ただし、これらの施術には時間を要し、すべての患者で機能が回復するわけではない。

 

この10年の間、Hanasono医師のチームではリンパ管バイパス術と血管柄付きリンパ節移植による外科療法でリンパ浮腫に対する効果が得られることを示してきた(リンパ浮腫に対する外科療法:2014年6月 OncoLog誌参照)。この経験に基づき、MDアンダーソンの外科医は高度のリンパ浮腫に対する治療法を改善し、これら2種の手術法の組合せや脂肪吸引を使用して手足の腫脹を低減し患者のQOLを向上させている。

 

手術法の組合せ
リンパ管バイパス術と血管柄付きリンパ節移植

 

リンパ管バイパス術は、閉塞したリンパ管を並走する静脈に吻合する手術であり、リンパドレナージが改善して即座に効果が得られることが多い。特にリンパ浮腫の初期では、リンパ管バイパス術により効果が継続する患者が多いが、術後12カ月程度で効果が低下し始めることもある。対照的に、血管柄付きリンパ節移植は、患部以外から健康なリンパ節を採取して血管柄付き移植片として移植する手術であり、新たなリンパドレナージが生涯にわたり持続されるが、この新しいリンパ管が機能し始めるのは術後6~9カ月後である。

 

MDアンダーソンの外科では、一度の手術でリンパ管バイパスと血管柄付きリンパ節移植を行うことで、それぞれの限界を乗り越えられることを発見した。「われわれは、この2種の手術の組合せにより迅速かつ持続的な効果が得られることを見出しました。 これはリンパ浮腫の患者に効果が高い治療となります」と形成外科部助教のMark Schaverien医師は述べる。

 

この組合せで治療を受けたほとんどすべての患者で、手足の容量、硬化、倦怠感が低減するなどの改善が認められ、患肢への感染症も低減する。完全な治癒に至った患者もいるが、まれである。術後も継続して圧迫帯を着用し、用手的リンパドレナージを行う患者が多いが、ほとんどの患者ではこれらが両方とも必要となることは減る。

 

「術後、患者が手足に溜まった体液を押し出すためにマッサージや圧迫着衣に要する時間は大幅に短縮しました。さらに、手術前には患肢に多重感染を起こしていたのに術後感染症が認められなくなった患者もいます」と形成外科部准教授のEdward Chang医師は述べる。

 

リンパ節移植で懸念されるのは、ドナー部位のリンパ浮腫のリスクである。このリスクを最小限に抑えるために、術前にドナー部位のリバース・マッピング(造影剤を注入して所属リンパ節を探索するセンチネルリンパ節マッピングに似た方法)を行い、その領域の排出を担うリンパ節を傷つけずに残すようにする。「この技術を用いれば、何も問題ありません。MDアンダーソンではドナー部位のリンパ節マッピングは必須であり、他の施設でも使用例が増えています」 とSchaverien医師。

 

乳房再建術と同時に行うリンパ管バイパス術と血管柄付きリンパ節移植

 

下肢リンパ浮腫の治療目的のリンパ節移植では、最も一般的なドナー部位は側胸壁であり、健康側の側胸壁リンパ節は乳房再建を必要としない乳がんサバイバーの上肢リンパ浮腫の治療にも用いられる。しかし、リンパ浮腫と乳房再建の両方が必要な患者では、患部に乳房再建に使用する横軸型腹直筋(TRAM)または深下腹壁動脈穿通枝(DIEP)皮弁とともにリンパ管を移植し吻合することができる。「我々が行うリンパ管バイパス術と血管柄付きリンパ節移植の組合せ術は、上肢、下肢いずれのリンパ浮腫でも同じ方法ですが、上肢の手術は乳房再建と組み合わせることができます」と Hanasono医師はいう。

 

がん切除術後に放射線治療を行うと組織損傷を起こし、後に移植による再建を行う際に問題となることが多い。そのため、乳房切除術の時点で乳房再建を行わない患者の再建術では、多くの場合血管柄付きのTRAM皮弁やDIEP皮弁が最良の選択肢となる。「患者が乳房切除と放射線治療を行っていた場合は、組織皮弁を用いて再建を行うことで最もよい結果が得られます。放射線治療を受けていた患者はリンパ浮腫を起こしていることが多いため、再建時に同時に治療ができます」と Chang医師は述べる。

 

乳房再建時にリンパ浮腫も同時に治療すれば、患者は回復時間や入院期間が延長せずに両方の問題に対処できる。MDアンダーソンの形成外科では、血管柄付きのTRAM皮弁やDIEP皮弁を用いた乳房再建、血管柄付きリンパ節移植およびリンパ管バイパスを1回の手術で同時に行うことが一般的な治療法になり始めている。

 

リンパ管の吻合には専門的な研修と器具が必要であるため、乳房再建とリンパ浮腫治療の組合せ術を行う施設は多くない。「これはかなり専門的な手術ですから、研修を受け経験が豊富な医師が行う必要があります。皮弁を用いた再建ができる形成外科医は多いのですが、同時にリンパ浮腫にもまとめて対処できる医師はあまりいません」と Chang医師はいう。

 

脂肪吸引除去

 

すべての患者がリンパ管バイパスやリンパ管移植の対象となるわけではない。特に、リンパ浮腫が進行した患者では、リンパ管が高度に損傷されリンパドレナージによる回復ができない場合がある。そのような患者では脂肪吸引除去でリンパ浮腫が軽減できる。

 

「多くの患者や、一部の医師でさえも、リンパ浮腫は体液の滞留から始まり、その後脂肪が滞留し、その脂肪が滞留したリンパ液中のタンパク質に応じて増えていくことに気づいていません。そのため圧迫療法のみでは、体液は除去できても脂肪は除去できず、肢容量がもとに戻ることはありません」 とSchaverien医師。

 

リンパ浮腫の患者の脂肪吸引除去は、美容目的の脂肪吸引とよく似た方法で行われる。「従来、脂肪吸引除去は開放術で行っており危険な手術でした。現在行っている脂肪吸引術では傷はほとんど残らず、合併症も最小限に抑えられています」 とSchaverien医師はいう。

 

脂肪吸引除去では患肢の容量を低減し、機能を回復できる。患者は圧迫帯を生涯着用し続けなければならないが、肢容量減と機能回復は安定して得られることが多い。

 

正しい治療の選択

 

リンパ浮腫の患者は、悪化する前に診断してリンパ浮腫の治療を専門とする理学療法士に照会するのが理想的である。浮腫がみられてすぐに受診し、圧迫療法と用手ドレナージで6カ月以内にリンパ浮腫が完全に解消した患者もいる。これらの治療で効果が得られない患者が外科治療の対象となり、手術は早期に行われるほど良好な結果が得られる。

 

手術で効果が期待できるか、どの手法を用いるべきかを判断するために、広範な精密検査が行われる。「臨床徴候や症状、リンパ浮腫を呈する期間からさえも、実際のリンパ管の状態を予測できません。そのため、我々は広範な精密検査を行い、その患者に最も適した外科療法を判断します」とSchaverien医師は述べる。複式超音波検査を行って静脈血栓症が原因の腫脹を除外し、リンパ管 シンチグラフィーで患者のリンパ管がリンパ管バイパス術やリンパ節移植に適しているかどうかを判断するのである。

 

Chang医師のチームではリンパ浮腫の病期分類システムを考案し、患者毎に適した治療戦略を選択する参考としている。病期分類システムは逆流現象の程度、並びに蛍光色素を用いたリンパ管造影における開通性と収縮性に基づいている。ステージIのリンパ浮腫の特徴は、逆流現象があまり見られず、リンパ管は開通し収縮性が若干低下していることであり、ステージII、III、IVのリンパ浮腫では逆流現象が増加しリンパ管の開通性と収縮性も低下していくのが特徴である。ステージVでは、色素の流れは全く認められない。

 

「治療の手順は、患者毎に個別に作成します。複数の方法を組合せて治療を組み立てることが多いです」と Schaverien医師はいう。

 

リンパ浮腫のステージに加えて、その患者がリンパ浮腫に対する外科手術を受けられるかどうかは治療費の不安にも左右されます。米国ではリンパ浮腫の治療で脂肪吸引を行うことはまれです。保険の適用とならないことが主因です。ただし、我々はいかに患者への効果が得られるかを説明して、手術の承認取得に成功しています」と Schaverien医師は述べる。

 

Chang医師によると、多くの保険会社もリンパ節移植とリンパ管バイパス術の組合せを試験的と考えており、費用償還を認めたがらない。「この組合せ療法は比較的新しいものです。しかし、すでに施術後の経過観察が1年を超える患者もいてリンパ浮腫の患者に対するこの手術の効果が示されているため、我々はこの治療を試験的とは考えていません」 とChang医師は述べる。

 

【画像キャプション訳(上)】

乳がん治療によりリンパ浮腫を起こした患者の左腕。脂肪吸引除去の前(左)及び後(右)。外科治療により、肢容量が1,600 mL低下した。Mark Schaverien医師の厚意 により提供された写真。

 

【画像キャプション訳(下)】

リンパ管バイパス術で、青色色素によりリンパ管(白矢印)から、吻合先の静脈(赤矢印)への還流が確認された。Edward Chang医師の厚意 により提供された写真。

For more information, contact Dr. Edward Chang, Dr. Matthew Hanasono, or Dr. Mark Schaverien at 713-794-1247.

 

参考資料
Nguyen AT, Chang EI, Suami H, et al. An algorithmic approach to simultaneous vascularized lymph node transfer with microvascular breast reconstruction. Ann Surg Oncol. 2015;22:2919–2924.
OncoLog, April 2017, Volume 62, Issue 4

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

原文掲載日

翻訳石岡優子

監修小坂 泰二郎(乳腺外科/彩の国東大宮メディカルセンター)

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