がん患者の多くが、診断後に運動量を減らす理由とその改善策

専門家の見解

「がん患者が運動を行うことの有益性が一般的によく知られているにもかかわらず、患者はさまざまな理由でがん診断後に身体活動レベルを変えることがあります」と、ASCO専門員で、本日の記者会見の司会者でもあるMerry Jennifer Markham医師は述べている。「この研究は、これらの理由について理解を深める上で有効です。患者が生活習慣や診断前の身体活動レベルに合った運動をする機会を見つけることを可能にします。例えば、診断前にランナーであった患者が代わりに長めの散歩をしてみようと思うかもしれません。それは、患者一人一人に応じて話し合いや運動計画をいかに進めるか次第となります」。

12の病院でがん治療を受けた患者を対象とした新たな調査では、身体活動の有益性が証明されているにもかかわらず、75%もの患者ががん診断後に身体活動レベルを低下させたと報告している。がん治療に伴う倦怠感や痛みのほかに、やる気をもったり、自己管理を続けたりすることが難しいといった心理的障壁が、活動を低下させる要因として明らかになった。今回の所見は、これからサンディエゴで開催される2017 Cancer Survivorship Symposiumで発表される予定で、がん治療全体を通して身体活動を支援し、促進する新しい方法が必要であることを示唆している。

身体活動はがんの予防とリスク軽減の重要な要素であると長い間考えられてきたが、新しいデータは積極的治療を受けている患者のQOLにおける身体活動の意義を示している。

「多くの人々ががん治療には休養が必要であると思っていますが、私たちは、適度な身体活動が一般的に患者の気分を改善するだけでなく、場合によってはがんの転帰を改善する可能性もあるという知見を得ています」と、筆頭著者でスローンケタリング記念がんセンターの博士研究員であるSally A.D. Romero博士は述べている。「私たちの研究は、患者が運動や身体活動の目標を達成することができない理由を明らかにしました。やる気や自己管理などの心理的要因が身体活動の低下に関連していることがわかりました」。

Romero医師、Jun J. Mao医師らは、フィラデルフィア地域の施設で治療を受けている一般的ながんの患者662人を対象に、1回限りの調査を実施した。大多数の調査回答者が平均60歳の白人女性であった。また、全調査回答者の65%が過体重または肥満であると報告していた。

調査回答者の75%ががん診断を受けてから身体活動レベルを低下させたが、16%が診断前の活動レベルを維持し、4%が身体活動を増加させたと報告していたことがわかった。身体活動の障壁を報告した患者の71%がやる気をもつことが難しいと答え、65%が自己管理を続けることが困難だと述べている。また、患者らは、倦怠感(78%)や痛み(68%)など、一般に知られている身体活動の障壁も報告していた。

「倦怠感や痛みのようながん治療の副作用は比較的容易に対処することができますが、患者が運動をしない他の理由は対処がより複雑になる可能性があり、それらの理由にも焦点を合わせる必要があります」と、Romero医師は述べている。「医療提供者としての私たちの挑戦は、患者に合わせた治療を行いながら、新しい方法で患者が身体活動について考えるのを手伝うことです」。

多くのNCI指定がんセンターにおいて、がん患者やサバイバー特有のニーズに合わせた運動プログラムの提供が行われ、広がりつつあることを、研究者らは指摘している。さらに、Romero医師は、がん治療チームが拡大され、フィットネス専門家や作業療法士、理学療法士も含まれるようになるにつれて、患者の心理的障壁に対処することが容易になり、運動計画を患者一人一人に合わせて立てることができるようになると強調した。著者らは、がん治療中に臨床医と患者が協力して身体活動レベルを維持することができる方法について理解を深めるためには、さらなる研究が必要であると述べている。

ASCOの診療ガイドラインでは、医療提供者がすべての患者に対してがん治療後に適度の身体活動を行うように促すことを推奨している(例えば、週に150分の中等度の強度の有酸素運動)。

翻訳担当者 会津麻美

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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