腫瘍特異的変異の痕跡を消去して免疫療法を回避

免疫チェックポイント阻害剤の治療を受けた患者に拡がる獲得耐性の機序が解明される可能性も

肺がんまたは頭頸部がん患者からの腫瘍について初期研究の結果によると、チェックポイント阻害剤として知られている免疫療法薬への広範な獲得耐性は、免疫システムが悪性細胞を認識し攻撃するのに必要な遺伝子変異の削除に依るものだろうと示唆している。本試験はジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターで治療を受けた患者のうち5人の細胞について研究者が行ったもので、2016年12月28日付Cancer Discovery 誌電子版に掲載された。

(画像訳)がん細胞を攻撃するT細胞

「がんにとってチェックポイント阻害剤は最近最も注目されている進歩の1つですが、ほとんどの患者さんがこの治療法に耐性を持つようになる機序については解明されていません」とジョンズホプキンス大学ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所のプログラムリーダーであり腫瘍学教授のVictor E. Velculescu医学博士は述べた。これまでのチェックポイント阻害剤による臨床試験では、肺がん患者のほぼ半数がこの分類の薬剤に耐性を持つことがわかっているが、その理由は不明なままである。

ニボルマブやイピリムマブなどのチェックポイント阻害剤は肺がん、転移性メラノーマ、頭頸がんおよびホジキンリンパ腫への使用についてFDAより承認されており、がん細胞の表面にあるネオアンチゲン(新生抗原)と呼ばれる変異タンパク質の形跡を明らかにすることにより、免疫システムががん細胞を認識するのに役立つ。

チェックポイント阻害剤が何故これほど頻繁に作用しなくなるのか調べるため、Velculescu氏、ジョンズホプキンス大学医学部腫瘍学講師Valsamo Anagnostou 医学博士、 ジョンズホプキンス大学医学部免疫学研究部研究員Kellie N. Smith博士、およびブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所のチームは、異なる2つのチェックポイント阻害剤(抗PD-1と呼ばれる抗体を使用するニボルマブおよび抗CTLA4と呼ばれる抗体を使用する第二の薬剤イピリムマブ)について、ニボルマブ単剤または2剤併用に耐性を示す非小細胞肺がん患者4名と頭頸がん1名の腫瘍を解析した。

研究者らは、ゲノム探索を抗原の産生をコードする遺伝子上に絞った。抗原は、免疫システムにとって識別するための情報源として役割を持つ。がん細胞には抗原をコードする遺伝子に変異があり、この場合、出来損ないの抗原、言い換えると変異抗原が産生されることになり、これらは新生抗原(ネオアンチゲン)として研究者に知られている。そのような新生抗原は免疫システムには異物として認識されるため、免疫療法薬の助けにより、通常であればがん細胞には破壊せよという印が付けられる。

患者が免疫療法に耐性を示した際、7~18回の変異の間に新生抗原をコードする遺伝子がすべての腫瘍から剝れ落ちていたことがわかった。これらの変異を取り除くことにより、腫瘍細胞の新生抗原は免疫システムにとって異物らしくなくなっているため、認識されない可能性がある、と彼らは言う。

これらの変異を有するがん細胞が免疫機構を介して除去された結果、変異の無いがん細胞が残る、といった様々な手段を用いて、あるいは全てのがん細胞にある染色体の広範な領域を欠失させることによって、腫瘍が新生抗原に関わる変異を喪失させていることを、研究者らは見出した。

「症例によっては、がん細胞の核にある染色体がこれらの変異した遺伝子を有する腕全体を失っていたことがわかりました」とAnagnostou氏は言った。

免疫反応を起こすためには消失した変異が重要であることを確認するため、研究者らは患者3名の血液サンプルから採取した免疫細胞と共に、腫瘍変異を含む新生抗原タンパク質断片を培養した。1~6回の変異で除去されていた新生抗原は、患者それぞれにおいて特異的免疫細胞反応を起こすことが示された。

「われわれの研究結果は、免疫療法を行っている間にがん細胞がどのように進化するかについてのエビデンスを提示しています」とVelculescu氏は述べた。「がん細胞がこれらの変異を剥がすと、通常は体内の防御免疫細胞ががん細胞を認識する際に用いられる手がかりが放棄されることになるのです」。

Velculescu氏, Anagnostou氏, Smith氏および同僚らは、他のがんの型でもこの現象がどれくらい広範囲に発生するかを判定する予定であり、またこれを使って現在の免疫療法を改善するための新しい方法を開発する可能性がある、と述べた。例えば、治療によって患者の腫瘍が耐性をもつ糸口が見える前に、変異した新生抗原は腫瘍細胞に存在する。本研究の結果は、耐性を誘発しにくい新たなチェックポイント阻害剤の開発や、個別化された免疫療法の取り組みを進める可能性もある、と言った。
現在ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブおよびイピリムマブの4つのチェックポイント阻害剤が、悪性黒色腫、リンパ腫、膀胱がん、肺がん、頭頸がんの治療薬としてFDAより承認されている。これらは1カ月あたり10,000ドルを上回り、医薬品の価値と患者選択を向上させる取り組みを促す費用となっている。

本研究は以下の団体から資金提供を受けた。
National Institutes of Health’s National Cancer Institute (CA121113, CA006973, CA180950), the Commonwealth Foundation, the Dr. Miriam and Sheldon G. Adelson Medical Research Foundation, the Eastern Cooperative Oncology Group- American College of Radiology Imaging Network, the LUNGevity Foundation, and Stand Up To Cancer (SU2C)-Dutch Cancer Society International Translational Cancer Research Dream Team Grant and SU2C Immunology Dream Team. Stand Up To Cancer is a program of the Entertainment Industry Foundation and is administered by the American Association for Cancer Research。

本研究に参加したその他のジョンズホプキンス大学研究者は以下のとおりである。
Patrick M. Forde, Noushin Niknafs, Rohit Bhattacharya, James White, Theresa Zhang, Vilmos Adleff, Jillian Phallen, Neha Wali, Carolyn Hruban, Violeta B. Guthrie, Kristen Rodgers, Jarushka Naidoo, Hyunseok Kang, William Sharfman, Christos Georgiades, Franco Verde, Peter Illei, Qing Kay Li, Ed Gabrielson, Malcolm V. Brock, Cynthia A. Zahnow, Stephen B. Baylin, Rob Charpf, Julie Brahmer, Rachel Karchin and Drew Pardoll。

翻訳担当者 中村由紀子

監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学大学院医学研究院 九州連携臨床腫瘍学講座)

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