ESMOアジアで発表されたアジア人患者のまれな肉腫に関する初めてのデータ

ESMOアジア会議2016で発表予定の研究

アジア人患者のまれな肉腫に関する初めてのデータとなる3つの研究が、シンガポールで開催中のESMOアジア会議2016で本日発表される。化学療法によって全生存期間が延長したにも関わらず、進行血管肉腫患者の半数しか化学療法を受けていなかった。CIC遺伝子再構成肉腫は、BCOR遺伝子再構成肉腫よりも予後がはるかに悪いことが示され、正確な診断をするための臨床的特徴が同定されている。

血管肉腫は、新たに設立されたアジア・サルコーマ・コンソーシアム(Asian Sarcoma Consortium (ASC))が実施した2件の研究の焦点である12。この異質ながんは2種類に区別される。高齢患者に発症する頭皮/皮膚のがん、および若年患者に発症する内臓のがんで、肝臓、血管系、乳房が一般的である。浸潤がんであることが多いため、切除縁陰性での手術が難しく、さらに頭皮や顔面の腫瘍には放射線は選択肢として劣っており、治療は困難である。化学療法は、血管肉腫において有効性が示されているが、長期寛解はまれである。

両研究とも、1990年から2016年の間に、6カ国の8施設で診察を受けた患者を遡って対象とした。一つ目の研究では、アジアにおける血管肉腫の疫学、実際の治療、臨床転帰についての概要を示している。患者423人の年齢の中央値は67歳で、約60%は皮膚血管肉腫(高齢、男性、限局がんの傾向が強かった)、40%は内臓血管肉腫であった。

限局がんでは、患者の約60%しか手術を受けていなかったが、この割合は、皮膚血管肉腫群(55%)の方が内臓血管肉腫群(75%)よりも有意に低かった。手術を受けた患者のうち、切除縁陰性であったのは約70%のみであった。手術を受けた患者の半数近くが再発した。無再発生存期間の中央値は12.3カ月で、皮膚血管肉腫群(12.9カ月)と内臓血管肉腫群(9.5カ月)との間に統計学的差異はなかった。65歳以上、または切除縁陽性の患者では再発率が高かった。

進行血管肉腫では、約半数の患者しか化学療法を受けていなかった。全生存期間中央値は9.5カ月で、皮膚血管肉腫群(11.5カ月)と内臓血管肉腫群(8.3カ月)との間に有意差はなかった。ECOG(米国東海岸がん臨床研究グループ)パフォーマンス・ステータスは、生存の独立した予測因子であった。しかし、ECOGパフォーマンス・ステータスを調整した後、化学療法を受けなかった患者よりも受けた患者の方が、全生存期間が有意に延長した。

「この研究は、血管肉腫に対する最大の研究の一つで、全体的に予後が不良であることがわかりました」と、シンガポール国立がんセンターの副センター長および上級顧問で筆頭著者のRichard Quek教授は述べた。「限局がん患者では、切除縁陰性は無再発生存期間の予後因子でしたが、患者の70%でしか達成できませんでした。化学療法であっても放射線であっても、術前治療はこのような腫瘍の切除の可能性を高め、その結果生存転帰が改善する可能性があるのです」。

Quek氏は次のように続けた。「進行血管肉腫患者において、ECOGパフォーマンス・ステータスを調整した後、化学療法が全生存期間の延長に関連したことが示されました。しかし、患者の半数しか実際に化学療法を受けておらず、今後このような低い治療率の背景にある理由を解明することが重要になるでしょう。これらは医師に関連する因子なのでしょうか。もしそうだとするなら、より肉腫に関連した医学教育を続けることが、患者のケアを向上させるために必要なのでしょうか」。

二つ目の血管肉腫研究では、進行、転移または切除不能の血管肉腫患者277人の臨床的特徴および治療についての概要を示した。年齢の中央値は64歳であった。良好な予後についての予測因子は、若年、女性、そして(内臓ではなく)皮膚血管肉腫であった。化学療法の使用は、20年間で徐々に増加し、他の治療よりもパクリタキセルやリポソーマルドキソルビシンが優先的に使用された。1ライン以上の化学療法を受けた患者の無増悪生存期間は3.8カ月であった。全生存期間は8.3カ月であったが、1ライン以上の緩和化学療法を受けた患者(11.5カ月)では緩和化学療法を受けなかった患者(4.4カ月)よりも有意に全生存期間が延長した。

台湾の台北にある国立台湾大学病院の専門医で筆頭著者のTom Chen氏は、「進行、転移または切除不能のアジア人血管肉腫患者の予測生存期間に関するデータを得られたのは今回が初めてです」と述べた。「本データは、アジア人血管肉腫患者を対象とした臨床研究や、新たな治療法の開発に役立つでしょう」。

三つ目は、ユーイング肉腫様小円形細胞肉腫に焦点を当てた研究であった3。ユーイング肉腫の分子的特徴は、EWSR1遺伝子の変異またはFUS遺伝子の再構成である。このような分子的特徴のない小円形細胞肉腫は「ユーイング肉腫様」疾患とされる。最新の分子遺伝学的研究では、このようなユーイング肉腫様小円形細胞肉腫のうち、CIC遺伝子再構成肉腫(CIC-DUX4、CIC-DUX4L、CIC-FOXO4)およびBCOR遺伝子再構成肉腫(BCOR-CCNB3、BCOR-MAML3、ZC3H7B-BCOR)が同定されている。本研究は本日発表され、これら2種類の肉腫の臨床的特徴および治療転帰について示されている。

本研究は、CIC肉腫患者17人を対象とし、そのうち12人は男性であった。年齢の中央値は22歳、全症例が軟部組織腫瘍で、患者の59%に局所疼痛があった。BCOR肉腫患者の7人は全員男性であった。年齢の中央値は14歳で、骨発生および軟部組織発生症例が含まれた。

5年全生存率は、CIC肉腫で28.2%、BCOR肉腫で100%であった。初診時、CIC肉腫患者の71%に転移が認められたが、BCOR肉腫患者では認められなかった。化学療法が奏効したのは、CIC肉腫患者ではわずか29%であったのに対し、BCOR肉腫患者では75%であった。

「CIC再構成肉腫は、BCOR再構成肉腫よりも予後がはるかに悪いのです」と、東京にある国立がん研究センターの専門医で筆頭著者の遠藤誠氏は述べた。「CIC肉腫とBCOR肉腫は、以前は同じ腫瘍として分類されていました。われわれの研究によって正確な診断ができるようになり、このような疾患の患者の管理を向上させるはずです」。

オーストリアにある、ウイーン医科大学の骨肉腫および軟部組織肉腫ユニットのプログラム・ディレクターであるThomas Brodowicz 教授は、本研究についてのコメントとして次のように述べた。「血管肉腫に関するこれら2件の研究は、短期の無増悪生存率および全生存率が低いことを示しており、この疾患の侵襲性の強さを示しています。患者に関するより詳細な分析結果、例えば原発血管肉腫と以前に罹ったがんに対して放射線治療が行われた部位に発生した二次血管肉腫についての治療や転帰の概要があれば有用でしょう。血管肉腫に対し有益な血管新生阻害効果のあるパクリタキセルを、3週間ごとまたは毎週服用するのとではどちらがより効果的かを明らかにすることも役に立ちます」。

同氏は次のように続けた。「遠藤氏の研究から、診療を変える情報を得ることができます。ユーイング肉腫様小円形細胞肉腫は、強い予後因子効果があるその特異的な変異によってさらに分類することができることが示されました。このことが、個々の患者に合わせた治療を行う上で役立つはずです」。

参考文献

  1. Abstract 501O_PR – ‘Epidemiology, real world treatment and outcomes of 423 patients (pts) with angiosarcoma (AS) in Asia: A report from the Asian Sarcoma Consortium (ASC)’ will be presented by Professor Richard Quek during the Proffered Paper and Poster Discussion session ‘Sarcoma’: on Saturday, 17 December, 11:00 – 12:30 (SGT).
  2. Abstract 502O_PR – ‘Optimal first line systemic therapy in patients (pts) with metastatic angiosarcoma: A report from the Asian Sarcoma Consortium’ will be presented by Dr Tom Chen during the Proffered Paper and Poster Discussion session ‘Sarcoma’: on Saturday, 17 December, 11:00 – 12:30 (SGT).
  3. 3. Abstract 503O_PR – ‘CIC-rearranged sarcoma and BCOR-CCNB3 sarcoma: clinical characteristics and treatment results of the newly-established “Ewing sarcoma-like” small round cell sarcomas’ will be presented by Dr Makoto Endo during the Proffered Paper and Poster Discussion session ‘Sarcoma’: on Saturday, 17 December, 11:00 – 12:30 (SGT).

翻訳担当者 生田 亜以子

監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/国立がん研究センター中央病院)

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