早期発症大腸がんの多くは家族遺伝性

コロンバス、オハイオ州 - オハイオ州立大学総合がんセンター Arthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute(OSUCCC – James)で行われた、州全体を対象とした大腸がんのスクリーニング検査の初のデータによると、50歳未満で大腸がんの診断を受けた患者の6人に1人(16%)には、患者のがんのリスクを増大させる1種類以上の遺伝性伝子変異が認められ、これらの遺伝子変異の多くは現行のスクリーニング法では検出されない可能性がある。 

今回の新たな解析では、OSUCCC – Jamesチームは無作為抽出した一連の大腸がん患者において、遺伝性(複数世代にわたって受け継がれた)がん症候群に関連する25種類の遺伝子における特定の変異の保有率および変異領域を初めて詳細に報告した。本試験は、オハイオ州全域の病院ネットワークから募集した早期発症の大腸がん患者450人のデータを対象とした。

「(リンチ症候群を含む)早期発症の大腸がん患者における遺伝性がん症候群の有病率は極めて高く、このことは、われわれにとって、ゲノムの危険因子に基づいた早期発見により患者の命を救うことが出来る大きな機会であることを示しています」とHeather Hampel氏は語る(Heather Hampel氏は理学修士、認定遺伝カウンセラー、この州全体を対象とした研究の臨床試験責任医師、および本論文の統括著者である)。また、「少しでもがん発症の予防対策を取れるように、若いうちにがんの遺伝的素因を有するかどうかを知ることは重要です」とも語る。

多遺伝子検査では、1検体の血液検体を用いて同時に複数のがん遺伝子をスクリーニングするために、次世代の塩基配列決定法を使用している。先行研究では、遺伝性大腸がんの多遺伝子パネル検査は実行可能、タイムリー、および単一遺伝子検査よりも費用対効果の高いことを示しているが、この患者集団における多遺伝子パネル検査の有用性はこれまでのところ明らかになっていない。

この新たなデータに基づき、OSUCCC – James研究チームは、家族歴やリンチ症候群ついての腫瘍スクリーニングの結果とは無関係に、早期発症の大腸がん患者すべてに遺伝カウンセリングとがん感受性遺伝子の広範な多遺伝子パネル検査を推奨している。現行の専門家を対象としたガイドラインでは、大腸がん患者すべてにリンチ症候群についてのスクリーニング検査を受け、腫瘍スクリーニング検査で異常であった場合は遺伝カウンセリングおよびリンチ症候群に特異的な遺伝子検査への紹介を推奨しており、OSUCCC – James研究チームの推奨とは異なっている。

しかし、OSUCCC – James研究チームの知見は、遺伝性がん症候群が認められた患者の33%で実際に変異が認められた遺伝子については、既存の検査基準に合致しなかったことを明らかにした。

「われわれは、これらの早期発症大腸がん患者ではリンチ症候群の割合が高いことが確認できると予測していた。家族歴にリンチ症候群以外の遺伝子変異が示唆されなかった患者においてでさえも、従来乳がんリスクに関連するとされてきた遺伝子変異など、リンチ症候群以外の遺伝子変異の一部が若年大腸がん患者で認められたことに驚きました」とRachel Pearlman氏は語った(Rachel Pearlman氏は理学修士、認定遺伝カウンセラー、本論文の筆頭著者、および州全体を対象とした試験のコーディネーターである)。また、「多遺伝子パネル検査が利用できるまでは、家族歴に基づいた基準に患者が合致しない限り、大腸がん患者をリンチ症候群以外の遺伝子変異について検査することは通常なかった。依然として、これらの知見から学ぶことは多い」とも語った。

OSUCCC – Jamesチームはこれらの知見を医学雑誌JAMA Oncology誌(2016年、12月15日号)で報告した。

試験デザインと結果

2013年1月1日以降に浸潤性大腸がんの診断を新たに受け、手術をうけた患者450人を本試験に組み入れた。すべての患者の年齢は17~49歳であり、Ohio Colorectal Cancer Prevention Initiative(OCCPI)に組み入れられた。OCCPIは、オハイオ州で大腸がんの診断を新たに受けた患者すべてを、リンチ症候群およびそれ以外の遺伝性がん症候群についてスクリーニングすることを目的とした州全体で行う大腸がん検診・予防研究である。Hampel氏が率いるOCCPIは、オハイオ州全域の51ヵ所の病院を対象としている。

各患者から血液検体および腫瘍検体を採取し、検査前に腫瘍の病理学的特徴を確認した。腫瘍はすべてマイクロサテライト不安定性または免疫組織化学分析結果の異常、あるいはその両方についてスクリーニングを行った。この2つはリンチ症候群患者の悪性腫瘍に認められる特徴である。50歳未満で診断を受けた大腸がん患者はすべて、25種類のがん感受性遺伝子(リンチ症候群の原因となる遺伝子MLH1、 MSH2、 EPCAM、 PMS2、およびMSH6を含む)について多遺伝子パネルを用いた遺伝子検査を受けた。  

全体では、患者72人でがん感受性遺伝子変異75個が同定された。患者の8%(36人)でリンチ症候群のみ、0.4%(2人)でリンチ症候群+リンチ症候群以外の遺伝性がん症候群1種類、7.6%(34人)でリンチ症候群以外の遺伝性がん症候群が認められた(3例目の7.6%の患者には2種類の症候群が認められた患者1人を含む)。

「本試験により、早期発症の大腸がんの変異領域(この疾患の原因となるさまざまな遺伝子変異の数、およびその変異が発生する速度の両方)が当初考えていたよりかなり幅広いことが明らかになった」とHampel氏はさらに語る。また、「このデータにより、早期発症の大腸がん患者に対する完全な遺伝子検査についてさらなる裏づけを行ったと考える。これにより、リスクのある家族を同定することで彼らの命が助かり、積極的がんサーベイランスおよび予防オプションの恩恵を受けることが出来る」とも語る。

本調査研究はPelotoniaにより出資された。Pelotoniaは、オハイオ州コロンバスで年 1 回開催されるサイクリングイベントであり、イベントの目的は OSUCCC – Jamesでのがん研究の資金調達である。Myriad Genetics社により、腫瘍スクリーニング検査結果が正常であると診断された50歳未満の患者に対する遺伝子検査が提供された。本試験の他の共著者は以下のとおりである。Rachel Pearlman, MS, CGC, Wendy Frankel, MD, Benjamin Swanson, MD, Weiqiang Zhao, MD, PhD, Ahmet Yilmaz, PhD, Kristin Miller, Jason Bacher, Christopher Bigley, MS, Lori Nelsen, Paul Goodfellow, PhD, Richard Goldberg, MD, Electra Paskett, PhD, Peter Shields, MD, Jo Freudenheim, PhD, Peter Stanich, MD, Ilene Lattimer, Mark Arnold, MD, Sandya LIyanarachchi, MS, Matthew Kalady, MD, Brandie Heald, MS, CGC, Carla Greenwood, Ian Paquette, MD, Marla Prues, David Draper, MD, Carolyn Lindeman, J. Philip Kuebler, MD, PhD, Kelly Reynolds, Joanna Brell, MD, Amy Shaper, MSW, Sameer Mahesh, MD, Nicole Buie, Kisa Weeman, MD, Kristin Shine, Mitchell Haut, MD, Joan Edwards, Shyamal Bastola, MD, Karen Wickham, Karamjit Khanduja, MD, Rosemary Zacks, Colin Pritchard, MD, PhD, Brian Shirts, MD, PhD, Angela Jacobson, MS, CGC, Brian Allen, MS, CGC, Albert de la Chapelle, MD, PhD.著者10人は可能性のある利害の衝突を開示する(原稿で具体的に概説)。

OSUCCC – Jamesでの州全体を対象とした大腸がんスクリーニング検査のイニチアチブについては下記リンク参照のこと。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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原文掲載日 

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