ウェブ利用のリハビリが、がんサバイバーの認知機能を改善

ASCOの見解

ASCOがんサバイバーシップ専門委員
Patricia Ganz医師

「認知機能のリハビリテーションは、がんサバイバーシップケアの中核であるべきです。なぜならば、認知症状はよく起こることであり、人々の生活に深い影響を与えるものだからです。本研究は、軽度の認知機能障害の緩和に役立つかもしれない簡単なツールに焦点をあてています」。

新たな試験は、幅広く利用できるインターネットを利用したプログラム(Insight)が、がんサバイバーが認知症状を訴える 際に役立つ可能性があると示唆する。この15週間プログラムは、参加者が自己報告(知覚)する認知機能を著しく改善し、不安とうつ を軽減し、倦怠感を軽減した。この知見は本日、Journal of Clinical Oncology誌のオンラインで発表された。

「われわれの知りうる限りでは、この研究は、化学療法後の持続的認知症状を報告する患者に利益があることを示した最大規模の認知機能介入試験です。しかし、うつなどの認知機能障害を伴うほかの症状にも取り組むことが同様に重要です」と、オーストラリア、シドニーにあるシドニー大学の腫瘍内科医、医学博士号候補で、本研究の著者であるVictoria J Bray医師は語った。

軽度の認知機能障害、特に記憶力および集中力の問題はがんサバイバーによくみられる。事実、70%近いがんサバイバーが、化学療法後にいくつかの認知症状を報告している。すなわち、ケモブレイン(化学療法による脳機能障害)と呼ばれることもある状態である。また、こうした症状はがんサバイバーのQOL(生活の質)の低下、うつ、不安および倦怠感の増大に関与していた。

主要な知見

認知機能の訓練をした群は標準治療群と比較して、15週間のプログラム終了時およびその6カ月後ともに、自己申告した認知機能が著しく改善した。プログラム参加者の報告によれば、認知機能障害をあまり知覚せず、認知能力は向上し、不安、うつ、倦怠感およびストレスが減少した。さらに、参加者のQOLはプログラム終了6カ月後に改善した。客観的な神経心理学的機能テストの結果は2群の間では差がなかった。

次の段階

この試験は、がん患者において最大の認知機能介入試験であるが、その一方で、訓練の効果の持続性を確認するために長期フォローアップが必要である。今後の研究で取り組むべき未解決の課題がまだ多数ある。その一つとして、どの方法で認知機能リハビリテーションを行うのがよりよいのかははっきりしていない。たとえば、今回のような自主的なプログラムが合っているサバイバーもあれば、グループ式プログラムの方がうまくいくサバイバーもいる。また、認知機能訓練の理想的な期間と「投与量」はどうあるべきかが不明である。

「もし、認知機能障害のリスクがある患者を特定することができたら、より早く介入でき、より良い結果を達成する可能性があります。また、認知機能訓練を理学療法と組み合わせてより多くの利益が得られるかを探求したいと思います」と、Bray医師は語った。

試験について

研究者は、6カ月から60カ月前までに化学療法を終了し、その後、持続的認知機能障害を報告したオーストラリア在住の成人がんサバイバー242人を募った。参加者ほぼ全員が女性であった(95%)。参加者の89%は乳がんで、5%が大腸がんであった。試験の当初、参加者全員には、日常生活での認知機能障害に対処するヒントと方法を提供する30分の電話相談を個々に実施した。

参加者は、インターネットを利用した認知機能リハビリテーションプログラム(自宅で実施)、または、標準がんケアのいずれかに無作為に割り付けられた。

本試験の主要転帰は自己報告による認知機能で、FACT-COG(がん治療後の認知機能の機能評価バージョン3 Functional Assessment of Cancer Therapy-Cognitive Function Version 3)として知られる有効な質問票を使用して評価した。この質問票では、自覚した認知機能障害、自覚した認知能力、および、自覚した認知機能障害のQOLへの影響を評価する。客観的な神経心理学的機能、不安やうつ、倦怠感、ストレスは別の尺度で評価した。

この独立した試験は、Cancer Council New South Wales and Friends of the Mater Foundationの資金援助を受けた。試験参加者募集を援助し、Dr.Janette Vardy医師へ資金を援助してくれたNational Breast Cancer Foundationに感謝の意を表する。

参考文献:

  1. Boykoff N, et al. Confronting chemobrain: an in-depth look at survivors’ reports of impact on work, social networks, and health care response. J Cancer Surviv 3:223-232, 2009.

翻訳担当者 有田香名美

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/さいとうクリニック院長)

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原文掲載日 

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