介護する家族にもケアを―うつ・不安症状を訴える傾向

プレスリリース

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「通院して治療を受けるがん患者の増加に伴い、患者を介護する家族がサポートを受ける必要性が今まで以上に重要になっています」と、ASCO専門委員のAndrew S. Epstein医師は話す。「介護者は患者ケアにおいて貴重なパートナーであり、本研究は、介護者ケアをサポートするネットワークやサービスの実施を腫瘍コミュニティに呼びかける重要な行動要請として役立ちます」。

複数の州で新規に実施された調査によれば、高死亡率のがん患者の家族介護者のおよそ4分の1から3分の1がうつや不安の重い症状を経験する。また、家族介護者が介護に費やす時間は1日8時間以上になること、介護時間が長くなるほど、睡眠や運動などのセルフケア行動は減り、精神的健康状態が悪くなる傾向にあることもわかった。

家族介護者は、介護サービス提供において欠くことのできない役割を果たしているため、今回の研究では、家族介護者の健康に対する臨床医の関心を高める必要性を強調している。本研究は、サンフランシスコで開催される2016年臨床腫瘍緩和ケアシンポジウムで発表される。

「介護者と患者は、特に進行がんの場合には肉体的にも精神的にも計り知れない困難に直面します」と話すのは、本研究の筆頭著者、アラバマ大学バーミンガム校ポスドクフェローのJ. Nicholas Dionne-Odom博士(正看護師)である。「介護者が自分の健康や幸福を二の次にすると、患者への介護に影響することもあります」。

研究者らは、メディケア(米国の高齢者向け医療保険制度)受益者で、膵臓がん、肺がん、脳腫瘍、卵巣がん、頭頸部がん、血液腫瘍、ステージIVがんの患者を介護する家族294人を対象に横断的調査を実施した。アラバマ州、フロリダ州、テネシー州にある8カ所のがんセンターにおいて実施した調査質問により、セルフケア行動および生活の質(QOL)について調べた。

Dionne-Odom博士によれば、患者の健康状態の悪化に伴って介護者自身の健康管理能力も低下するという。調査回答者のおよそ4分の1が高度のうつ症状、3分の1以上が境界レベルまたは高度の不安症状を訴えていることがデータで示され、こうした症状はセルフケア行動スコアが顕著に低いことに関連していた。セルフケア行動スコアの低さは、介護期間の長期化、介護時間の長時間化、1週間当たりの介護日数の多さにも関連し、患者の健康状態の良しあしには関連しなかった。

「われわれの研究が腫瘍緩和ケアコミュニティに広がり、介護者サポートのための評価ツールやサービスが開発されることを期待します。こうした取り組みにより、進行がん患者のケアにおいて重要な役割を果たす介護者自身がサポートを受け、健康でいられるようになります」とDionne-Odom博士は話す。

がん患者の介護者は、薬剤投与、送迎、日常生活での動作補助、精神面でのサポート、資金繰り、患者支援活動など、労力を要するさまざまな責務を果たしている。

本研究は、アラバマ大学バーミンガム校の助成金を受けて実施された。

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翻訳担当者 山田登志子

監修 太田真弓(精神科、児童精神科/さいとうクリニック院長)

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