血管新生阻害剤

米国国立がん研究所(NCI) ファクトシート

血管新生とは何ですか?

血管新生とは、新しい血管を形成することです。この過程は、血管の内壁を覆う内皮細胞の移動、増殖および分化からなっています。

血管新生の過程は、体内の化学シグナルによって制御されています。この化学シグナルは、損傷を受けた血管の修復と新しい血管の形成の両方を促進することができます。血管新生阻害剤と呼ばれる別の化学シグナルは、血管形成を阻害します。通常は、これらの化学シグナルによる促進効果と阻害効果のバランスが保たれているため、必要な時に必要な場所でのみ血管が形成されます。

なぜ血管新生はがんにとって重要なのですか?

がんの増殖と転移において、血管新生は重要な役割を果たしています。腫瘍が数ミリメーター以上の大きさに成長するためには、血液の供給が必要です。腫瘍は血管新生を促進する化学シグナルを出すことで、この血液供給を形成することができます。また、腫瘍は近くの正常細胞を刺激して、血管新生のシグナル伝達分子を産生させることもできます。結果としてできた新しい血管が成長中の腫瘍に酸素と栄養を与えることで、がん細胞は周りの組織への侵入や全身への移動、および転移と呼ばれる新しいがん細胞のコロニー形成が可能となります。

腫瘍は、血液の供給なく特定のサイズ以上に増殖あるいは転移することができないことから、研究者は腫瘍の血管新生を阻止する方法を見つける試みをしています。彼らは、抗血管新生剤とも呼ばれる天然および合成の血管新生阻害剤について、これらの分子ががんの増殖を抑えるあるいは遅らせるであろうという考えのもと研究をしています。

血管新生阻害剤はどのように作用するのですか?

血管新生には、血管内皮増殖因子(VEGF)のようなシグナル伝達分子が、正常な内皮細胞の表面にあるレセプターに結合することが必要です。VEGFや他の内皮増殖因子が内皮細胞表面にあるレセプターに結合すると、細胞内にあるシグナルが働き始め、新しい血管の成長と維持が促進されます。

血管新生阻害剤は、この過程の様々な段階を阻害します。例えば、ベバシズマブ(商品名:アバスチン)はモノクローナル抗体であり、VEGFを特異的に認識して結合します(1)。VEGFにベバシズマブが結合した場合、VEGFレセプターを活性化することができません。ソラフェニブやスニチニブを含めた他の血管新生阻害剤は、内皮細胞表面にあるレセプターやシグナル伝達経路の下流にある別のタンパク質に結合することで、それらの作用を妨ぎます(2)。

現在、人のがん治療に用いられている血管新生阻害剤はありますか?

はい。米国食品医薬品局(FDA)は、他の治療法で改善が認められなかった膠芽腫への単剤使用、および転移性大腸がん、一部の非小細胞肺がんおよび転移性腎細胞がんへの他剤との併用でベバシズマブを承認しています。ベバシズマブは、腫瘍の増殖を遅らせることと、さらに重要な点としてがん患者の生存期間延長が、確認できた最初の血管新生阻害剤です。

FDAが承認した抗血管新生活性のある薬剤は、他にソラフェニブ(商品名:ネクサバール)、スニチニブ(商品名:スーテント)、パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント)およびエベロリムス(商品名:アフィニトール)があります。ソラフェニブは肝細胞がんと腎臓がんに、スニチニブとエベロリムスは腎臓がんと神経内分泌腫瘍の両方に、パゾパニブは腎臓がんに対して承認されています。これら以外のがんの治療への血管新生阻害剤の利用については、研究者らにより検討が行われています。加えて、加齢黄斑変性のように、がんではないが正常ではない血管の成長が認められる疾患の治療にも血管新生阻害剤が使用されています。

血管新生阻害剤と従来の抗がん剤の違いは何ですか?

血管新生阻害剤は、腫瘍細胞というよりもむしろ血管の成長を抑制する傾向があることから、独特な抗がん作用をもつ薬剤と言えます。一部のがんでは、血管新生阻害剤は、追加療法、特に化学療法と組み合わせた時、最も効果が現れます。これは、阻害剤が腫瘍に供給している血管の正常化を助けることで、他の抗がん剤の運搬を容易にしていると考えられていますが、これについてはまだ研究中です。

血管新生阻害剤による治療では、必ずしも腫瘍を死滅させるわけではありませんが、かわりに腫瘍が増殖するのを防ぐと考えられます。従って、このようなタイプの治療では長期間の投薬が必要となることがあります。

血管新生阻害剤には副作用がありますか?

当初、血管新生阻害剤による副作用は軽いものであろうと考えられていましたが、最近のさらなる研究結果から併発症の可能性が明らかになってきました。このことは、創傷治癒、心臓や腎臓の機能、胎児発育、生殖など多くの正常な生体機能に血管新生が重要であるということを示しています。血管新生阻害剤による治療の副作用としては、出血、(脳卒中や心臓発作の原因となる)動脈の血栓、高血圧、尿タンパク質があります(3–5)。消化管穿孔および消化管瘻も、まれに一部の血管新生阻害剤の副作用として認められます。人では臨床的な証拠は示されていませんが、動物を用いた試験では先天異常の可能性が明らかにされました。

血管新生阻害剤による治療で起こる可能性のある併発症の中には、解明できないものもあると思われます。これらの阻害剤による治療を受ける患者が多くなるに従って、まれに起こる副作用についての知見は深まっていくでしょう。

血管新生阻害剤について現在行われている研究はどのようなものですか?

 FDAが既に承認した血管新生阻害剤に加えて、VEGFやその他の血管新生経路を標的とする別の薬剤について臨床試験(患者を用いた調査研究)が現在行われています。もし、人のがん治療においてこれらの血管新生阻害剤の安全性と有効性の両方が証明されれば、FDAによって承認され、一般に広く利用されるようになるかもしれません。

加えて、第1相および第2相臨床試験では、血管新生阻害剤と、既存の腫瘍血管に損傷を与える腫瘍血管破壊剤などの血管を標的とした他の治療法との併用についても試験されています(6)。

血管新生阻害剤を用いた現在進行中の第3相臨床試験の対象となっているがんは下記に一覧表示しています。臨床試験はNCIの臨床試験リストで見つけることができます。リストの検索方法に関する情報は、Help Finding NCI-Supported Clinical Trialsをご覧ください。

血管新生阻害剤の第3相臨床試験の対象となるがん(英語)

NCIの臨床試験データベスおよびその他のがん関連情報について詳しく知りたい場合は、NCIのがん情報サービス1–800–4–CANCER (1–800–422–6237)までお問い合わせください。

主要参考文献

  1. Shih T, Lindley C. Bevacizumab: an angiogenesis inhibitor for the treatment of solid malignancies. Clinical Therapeutics 2006; 28(11):1779–1802. [PubMed Abstract]
  2. Gotink KJ, Verheul HM. Anti-angiogenic tyrosine kinase inhibitors: what is their mechanism of action? Angiogenesis 2010; 13(1):1–14. [PubMed Abstract]
  3. Cook KM, Figg WD. Angiogenesis inhibitors: current strategies and future prospects. CA: A Cancer Journal for Clinicians 2010; 60(4):222–243. [PubMed Abstract]
  4. Chen HX, Cleck JN. Adverse effects of anticancer agents that target the VEGF pathway. Nature Reviews Clinical Oncology 2009; 6(8):465–477. [PubMed Abstract] Verheul HM, Pinedo HM. Possible
  5. molecular mechanisms involved in the toxicity of angiogenesis inhibition. Nature Reviews Cancer 2007; 7(6):475–485. [PubMed Abstract]
  6. Siemann DW. The unique characteristics of tumor vasculature and preclinical evidence for its selective disruption by Tumor-Vascular Disrupting Agents. Cancer Treatment Reviews 2011; 37(1):63–74. [PubMed Abstract]

翻訳担当者 田村克代

監修 峯野知子(薬学・分子薬化学/高崎健康福祉大学)

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原文掲載日 

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