ダナファーバー、ASCO2016ハイライト 大腸がん・乳がん・小児がん・白血病

ダナファーバーがん研究所 ニュースリリース

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の第52回年次総会において、ダナファーバーがん研究所は研究員らによる70以上の研究報告を予定しており、世界各国から30,000人もの腫瘍学専門家が集結する。同総会は、6月3日~7日までシカゴのマコーミックプレイスで開催され、腫瘍学全般における最新知見を取り上げる。

ダナファーバーがん研究所、ダナファーバー・ボストン小児がんセンターおよび血液障害センター(Dana-Farber/Boston Children’s Cancer and Blood Disorders Center)の研究者が総会で発表予定の試験要約を紹介する。

大腸がん:腫瘍の部位が生存率に影響

大腸がんの部位が生存率に大きく影響するにも関わらず、この要因は通常の手順で報告されたり、患者へのカウンセリングで伝えられたりしていない。報告者であるダナファーバーがん研究所の研究者らは、こうした慣行は変える必要があると主張する。米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された研究によると、腫瘍が結腸(大腸)の右側にあった患者の平均生存期間は、結腸の他の部位に腫瘍があった患者の約半分であったことがわかった。

結腸は上下腹部にあり、太く角ばった逆向きの「U」のような形状である。上行結腸は右下腹部に始まり、垂直に伸長する。それから90度曲がって左側に向かい腹部を一直線に横切る。これは横行結腸と呼ばれる。もう一方の方向へ急角度で曲がるのは下行結腸で、右下腹部に向かって下降し、再度向きを変えてS状結腸を形成し、最終的に直腸および肛門へ向かう。

連邦政府のデータベースを用いて、研究者らは右側(上行結腸)、下行結腸、直腸に腫瘍を有する患者の生存期間の中央値および3年生存率を比較した。患者のがんの病期はIII期またはIV期であった。

結腸の左側および直腸に腫瘍を有する患者は中央値で17カ月生存し、3年生存率は27%であった。転帰は、腫瘍が右側にある上行結腸または横行結腸にあった場合が顕著に不良であった。これらの患者の生存期間の中央値は8.7カ月で、3年生存率はわずか16%であった。

研究者らは、こうした差異について、腫瘍の部位が生存に影響を及ぼす原因を特定する研究をさらに進めるとともに、腫瘍部位の診療記録による整合性のある報告が必要であると言う。ダナファーバーがん研究所にある消化器治療センターのがん専門医で、腫瘍内科Population Science部門長であるDeborah Schrag医師(公衆衛生学修士)は、本研究の筆頭著者である。

Schrag医師は、「私たちはすでに、生存に差異がみられる理由の一つとして、BRAFなどの特定の変異が右側により多いことがわかっています」と述べた。「より多くの患者さんが遺伝子型判定を受ければ、この知見の根底にある機序の理解が進むでしょう」。

乳がん:高齢乳がん患者の臨床試験参加数は不十分

術後臨床試験に参加する高齢の乳がん患者の比率はここ25年間で増加しているのだが、高齢の転移性乳がん患者が術前試験に参加する比率は減少している。ダナファーバーがん研究所およびシティ・オブ・ホープ総合がんセンターの研究者らによる研究がASCO年次総会で発表される予定であるが、それによれば、全体として、こうした臨床試験における高齢乳がん患者の数は依然として大幅に不足していることがわかった。

研究者らは、1985~2012年に実施された12件以上の臨床試験から患者の登録年齢を調査した結果、65歳以上、特に70歳以上の年代でほとんどの種類の乳がんが発症しているにも関わらず、その年代の乳がん患者の登録比率は、経時的にそれほど増加していないことがわかった。ダナファーバーがん研究所のスーザン・F・スミス女性がんセンターRachel Freedman医師(公衆衛生学修士)とシティ・オブ・ホープ総合がん研究センターArti Hurria医師をリーダーとする研究グループは、高齢患者の試験参加を徐々に増やしていく新たな取り組みが必要であると訴える。

小児がん: 小児がん患者に対する医療大麻の使用が臨床医から高い支持を得ていることが判明

90%以上の小児がん医療提供者が、小児および青年期のがん患者に対して医療大麻を利用することを好ましいと考えているとの研究結果がASCO年次総会で発表される。

医療大麻を合法化する州が増える中、患者とその家族は、悪心、疼痛、食欲不振の治療に大麻製品を試してみるために入手できるようにしてほしいと医療提供者に要望している。「調査の回答者の三分の一近くがこの1カ月のあいだに1回以上、そのような要望を受けたと報告しました」と、ダナファーバー/ボストン小児がん・血液疾患センターの小児がん専門医であり、調査の筆頭研究者であるPrasanna Ananth医師(公衆衛生学修士) は語った。統括著者は、ダナファーバー/ボストン小児病院の小児がん緩和医療合同プログラムの1つである小児がん先進医療チームリーダーのJoanne Wolfe医師(公衆衛生学修士)である。

調査対象は医療大麻が合法であるイリノイ州、マサチューセッツ州、ワシントン州の臨床医であった。回答者301人のうち92%が、小児がん患者が医療大麻を入手できるようにすることに賛意を示した。回答者の大多数(88%)は、末期に大麻薬を使用することは適当であると回答したが、初期のがん治療に使用することを好ましいと回答したのは34%だけであった。

大麻由来の合成薬dronabinol(ドロナビノール、米国商標Marinol)は、悪心、嘔吐を予防または治療し、食欲を増進するために、がんの支持療法の中で日常的に使用されている。患者らの話では、医療大麻は吸引、オイル摂取のいずれでも上記の症状緩和に役立つらしい。しかし、医療大麻が悪心を抑制する有効性は、いままでドロナビノールやほかの薬剤とは比較されていないと、著者らは語る。Ananth医師およびWokfe医師は、青年患者および若年成人患者とその両親を対象に医療大麻の使用に関する意見を求める二次調査を実施する予定であると語る。

小児がん:小児がん患者の親の多くは、将来の健康問題に気づいていない

今日、小児がん患者の大多数は生存し、がんの長期サバイバーになっていくが、その後、身体障害や認知障害を経験するサバイバーが多い。

米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される新たな調査では、そのような障害を生じやすい高リスク群サバイバーの多くの親は、がん発症後の生活について詳細な情報を欲しているが、多くの親は、自分の子どもにこうした問題が起きやすいことを認識していないことが明らかになっている。

ダナファーバー/ボストン小児がん血液疾患センターの研究者らは、小児がん患者が身体能力、知能、生活の質に関し、将来制限を受けるかもしれないリスクがどのくらいあり、またそれをどの程度理解しているか を評価するために、小児がん患者の親352人を調査した。

この調査に際し、高リスクであると医師が認定した小児では、身体能力に関するリスクを38%の親が認識しており、知能については21%、生活の質については5%の親が認識していた。

この結果から、小児がんサバイバーの将来的な健康問題のリスクについて、医師と親との間でより良好なコミュニケーションが必要であると言える。本研究は、ダナファーバー/ボストン小児がん血液疾患センター所属のKatie Greenzang医師(小児がん専門医)とJennifer Mack医師(公衆衛生学修士、小児がん専門医、Population Science for Pediatric Hematology/Oncology(小児血液学/腫瘍学に関する疫学)副部長)をはじめとする研究者らによるものである。

白血病:白血病製剤venetoclaxの臨床試験が示す「裏付け」安全性データ

難治性の慢性リンパ性白血病(CLL)患者の治療薬として最近承認されたvenetoclax(商品名:Venclexta)には重大な副作用があるが、それらの副作用は管理可能で、治療が継続される間に多くは軽快することが最新試験でわかった。

Venetoclaxは、再発もしくは1回以上の前治療に奏効せず、17pと呼ばれる染色体の一部が欠失した白血病細胞を有するCLL患者を対象とし、4月11日に米国食品医薬品局(FDA)より承認を受けた。17p欠失の染色体を有する患者の予後は不良である。

同剤は、「生存タンパク質」(白血病細胞を活性化させ、自己破壊命令から逃れようとするタンパク質)を標的とし、New England Journal of Medicine (NEJM)誌で報告された第1相臨床試験において複数名の完全寛解を含む高い奏効率を示しており、CLLに対する待望の新規治療薬として評価されている。

ダナファーバーがん研究所のMatthew Davids医師(医科学修士)は、ASCO年次総会(シカゴ)で発表予定の報告の中で、患者279人におけるvenetoclaxの副作用および安全性データを要約した。患者のうち181人は17p欠失の染色体を有していた。

患者のうち24人は、有害事象の発現により同剤投与が中止され、最も多くみられた有害事象は白血球数減少、下痢、悪心、貧血、疲労、上気道感染であった。有害事象による関連死は11人であった。腫瘍崩壊症候群(急速な腫瘍細胞死が代謝異常を引き起こす治療上の合併症)が患者5人にみられたが、これらの患者全員に安全に全用量が投与され、中止には至らなかった。Davids医師はAbbVie社や他研究者らと密接に協力しながら、生命を脅かす腫瘍崩壊症候群の危険性を減らす予防法の開発を支援してきた。

Davids氏はダナファーバーがん研究所血液腫瘍科(Division of Hematologic Malignancies)の腫瘍内科医であり、初めてvenetoclaxをヒトに投与した第1相臨床試験の臨床試験責任医師であり、次のように語っている。「(今回の第1相試験の結果は)われわれがNEJM誌で報告した結果と同様だった点において、安全性を裏付けられるものです」。

「最も興味深い知見の一つは有害事象発現率です。特に血液毒性と胃腸毒性は、患者がvenetoclaxを継続して内服する間にかなり減少しています。このことから、特に血液毒性に関しては、venetoclaxよりも前化学療法やCLL自体が関連している可能性が高く、venetoclaxは効果的にCLLを治療することによって上記毒性の経時的消失に役立っていると考えられます」。

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太田奈津美 訳
北村裕太(内科/東京医科歯科大学医学部付属病院)監修 
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廣瀬千代加 訳
小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)監修 
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有田香名美 訳
寺島慶太(小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター 小児がんセンター)監修 
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橋本奈美 訳
寺島慶太(小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター 小児がんセンター)監修 
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岐部幸子 訳
佐々木裕哉(血液内科・血液病理/久留米大学病院)監修 
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原文

翻訳担当者 太田奈津美、廣瀬千代加、有田香名美、橋本奈美、岐部幸子

監修 北村裕太(内科/東京医科歯科大学医学部付属病院)、小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)、寺島慶太(小児血液・神経腫瘍/国立成育医療研究センター 小児がんセンター)、佐々木裕哉(血液内科・血液病理/久留米大学病院)

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原文掲載日 

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