アベマシクリブは乳がん、肺がん、膠芽腫、皮膚がんに有効

ダナファーバーがん研究所 ニュースリリース

CDK(サイクリン依存性キナーゼ)阻害薬として知られる開発段階の薬が、乳がん、肺がん、神経膠芽腫、メラノーマ(悪性黒色腫)など数種の異なるがんに対し、顕著で持続的な結果をもたらしたという新しい報告が、Cancer Discovery誌に掲載された。

この試験結果は、2015年10月に米国食品医薬品局(FDA)が下した、abemaciclib[アベマシクリブ](旧LY2835219)を難治性ホルモン受容体陽性進行または転移性乳がん患者の治療を目的とした画期的治療薬に指定するという決定を後押しするものとなった。

CDK阻害薬は、通常は適時にのみ細胞分裂を起こすスイッチのようなタンパク質を標的とする。がん細胞中のこのCDKタンパク質は過剰活性であることが多く、結果として無制御増殖が起こる。アベマシクリブはCDK4とCDK6の2つのスイッチを阻害するCDK4/6阻害薬として知られている。

2015年2月にFDAは別のCDK4/6阻害薬palbociclib[パルボサイクリブ、またはパルボシクリブとも呼ばれる](Ibrance[イブランス])を、アロマターゼ阻害薬letrozole[レトロゾール](Femara[フェマーラ])との併用目的で承認したが、これは閉経後のエストロゲン受容体陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性進行乳がん患者の治療のためであった。

「経口CDK4/6阻害薬アベマシクリブは、パルボシクリブとは分子が大きく異なっていて、その独自の特性が別個の治療効果、特に単剤活性をもたらしています」と、この研究の統括著者の1人でありダナファーバーがん研究所(米国ボストン)早期薬剤開発センター・ディレクターのGeoffrey Shapiro医学博士は述べた。

「たとえば、アベマシクリブはパルボシクリブと比較してCDK4に選択性が高いのですが、それが白血球数にさほど著しく影響が出ない理由と考えられ、そのおかげで休薬期間を設けずに投薬を継続できるわけです」とShapiro氏は述べた。

もう1人の統括著者は米国テキサス州サンアントニオSouth Texas Accelerated Research TherapeuticsのAmita Patnaik医師であった。Patnaik、Shapiro両氏ら研究者グループは、さまざまな種類の進行がんの患者225人をアベマシクリブの安全性と予備的有効性を評価する第1相臨床試験に登録した。用量漸増フェーズでは、最大耐用量は200mg12時間ごと、用量制限毒性は疲労であることが特定された。

拡大フェーズではアベマシクリブ単剤投与を、乳がん患者47人、非小細胞肺がん(NSCLC)患者68人、神経膠芽腫患者17人、メラノーマ患者26人、大腸がん患者15人に対し行った。これらの患者において、この治療に関係した有害事象のうち最も一般的だったのは、疲労、下痢、吐き気、嘔吐、食欲不振、体重減少、腎機能障害、赤血球数と白血球数の減少であった。全体として、副作用は管理しやすいものでアベマシクリブの忍容性は良好であった。

画像所見では、乳がん、NSCLC、メラノーマの患者において部分奏効がみられた。ホルモン受容体陽性の乳がん患者についてみると、36人中11人が部分奏効を示し、このうち4人のみが以前からの内分泌療法を継続していた。病勢安定は18人であった。奏効期間中央値は13.4カ月、この患者集団の無増悪生存期間中央値は8.8カ月であった。

NSCLC患者68人のうち29人に、ほかの標的療法には適さない肺がんのサブセットであるKRAS遺伝子変異のある腫瘍がみられた。この29人のうち1人は部分奏効を、9人は24週間以上にわたり病勢安定を示した。また、メラノーマ患者26人中、部分奏効は1人、病勢安定は6人であった。神経膠芽腫の患者では、17人中3人が病勢安定で、このうち2人はそれぞれ19サイクルと23サイクルの間病勢進行をみることなく治療を継続した。膠芽腫患者における結果は、アベマシクリブの有する血管脳関門を通過する能力との一貫性を示したが、この能力は前臨床モデルで患者の脳脊髄液中のレベルが血漿中のレベルに近似していたことにより証明されている。

「このデータからは、アベマシクリブが継続的なスケジュールで投与可能な経口薬であり、乳がんや肺がんなど複数の腫瘍に対し持続的な臨床活性を示すことが明らかです」とShapiro氏は語った。

Patnaik氏はさらに付け加えて「この研究は異なる種類のがん患者225人を対象に行われたもので、がん治療におけるアベマシクリブの役割を正確に規定するためには、特定の患者集団に対する検証的臨床試験の実施が必要です。すでに乳がんと非小細胞肺がんの特定の患者グループ、および原発性脳腫瘍の小児患者、脳転移のある成人患者の治療法としてのアベマシクリブを評価するために、複数の臨床試験が開始されています」と述べた。

この研究はイーライリリー社の資金提供を受けた。

翻訳担当者 高橋紹子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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