術後の腹腔内化学療法の追加が、卵巣がんの進行を遅らせる可能性

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「腹腔内(IP)化学療法は、新たに卵巣がんと診断され、手術で切除が成功した女性に対して効果的な治療ですが、十分には利用されていません。今回の研究データは、手術前に静脈内投与による化学療法を受けた女性の術後治療計画にIP療法が加わる可能性を示すものです」。米国内科学会名誉上級会員(Fellow of American College of Physicians:FACP)、ASCO卵巣がん専門委員で、本日の記者会見司会を務めるDon Dizon医師は話す。「さらに、今回の研究結果から、カルボプラチンを含むIP化学療法スケジュールは有効であると同時に、忍容性も良好で生活の質を維持できるものであると患者や医療従事者に保証することができます。私たちがすべきことは、この治療スケジュールで最も利益を得られる患者をさらに絞ること、そして、あらゆる卵巣がん患者に対してよりよい選択肢を特定することです」とさらに続けた。

外科的治療が成功した進行卵巣がん患者の中には、静脈内(IV)投与および腹腔内(IP)投与併用による化学療法がIV単独化学療法より効果が高い患者もいるようだ。手術前の初期治療として化学療法(術前化学療法など)を受けた女性に関する第2相ランダム化試験の初期結果によれば、9カ月で病勢が増悪した患者は、IP/IV併用化学療法群で23.3%であったのに対して、IV単独化学療法群では42.2%であった。

本研究は本日の記者発表で取り上げられ、2016年ASCO年次総会で発表される。

著者らによれば、術前化学療法を受ける卵巣がん患者の比率は上昇している。北米およびヨーロッパでは、上皮性卵巣がん患者の約30~40%が術前化学療法を受けると推定される。こうした術前療法後に腫瘍を最小限まで除去する手術を受ける女性が、IP/IV併用化学療法の対象者になると思われる。

IP化学療法は、より多量の化学療法剤を腫瘍に到達させることができるとともに、体の他の部位に副作用が及ぶことを抑えることができる。複数の以前のランダム化比較臨床試験から、IP化学療法は特定の卵巣がん患者の転帰を改善することがわかっているが、今回の研究は、術前化学療法を受けた女性におけるIP化学療法の有用性を調べた初めてのランダム化試験である。

「この初期の研究段階において、IP化学療法により患者たちの予後が改善しており、毒性に関する有意差もないことがすでにわかっています」。Sunnybrook Odette Cancer Centre(カナダ、トロント)の腫瘍内科・血液学部門長である試験主著者Helen Mackay医師は話す。「ただし、患者はこの治療選択肢について主治医らと話し合う際に、がん手術からの回復状態はもちろんのこと、IP/IV併用化学療法の副作用についてもよく考えなければなりません」。

研究について

今回の第2相ランダム化比較試験は、ステージIIBからIVの上皮性卵巣がん患者に対する2種類の併用化学療法レジメンの有効性と副作用を比較した。患者の大半(82%)は、ステージIIIC(がんが腹腔内まで広がっている病期)のがんであった。

この試験で、275人の患者がプラチナ製剤を含む術前化学療法を受けた後に卵巣がん切除手術(デバルキングとも呼ぶ)を受けた。デバルキング手術後、患者200人を無作為にIV単独化学療法群とIV/IP併用化学療法群に分けた。

主要な結果

9カ月時点で、IV単独化学療法群の42.2%で病態が増悪したのに対して、IP/IV併用化学療法群で増悪したのは23.3%であった。無増悪生存期間の中央値は2群間でほとんど差がなく、IV単独化学療法群で11.3カ月、IP/IV併用化学療法群で12.5カ月であった。全生存期間の中央値は、IP/IV併用化学療法群が59.3カ月で、IV単独化学療法群の38.1カ月より長かったが、その差は統計学的には有意とは言えないものであった。

「この第2相ランダム化比較試験は、生存について評価できるほどの有意な検出力を持ちませんでしたが、研究結果は、術前化学療法に続いてデバルキング手術を受ける女性に対してIP化学療法を組み入れる治療オプションに関して参考になる内容です」と、Mackay医師は話す。「さらに今回の知見は、(術前化学療法は行わず)初回治療として最大限に腫瘍の減量をおこなうデバルキング手術後にIP化学療法を実施した場合に全生存が改善することを示した従前の術後補助療法ランダム化比較試験を支持するとともに補強する情報も提供しています」。

重篤な副作用の発現率は、IP/IV併用化学療法群でやや低かった(16%対23%)が、この差は統計学的に有意な差とは言えない。

次のステップ

従前の研究から、一部の卵巣がんの分子サブタイプは、化学療法に対する感受性が他のサブタイプより高いことが示唆されている。研究者らは、本試験で採取した組織検体を分析して、IV化学療法と比較したIP化学療法の予後改善に関与する特定の生物学的特性がないかどうか調べる計画である。「長期サバイバーを特定できれば、このアプローチで真の利益を得るのはどのような患者であるか、より正確に予測できるようになるでしょう」とMackay医師は話す。

卵巣がんについて

2012年、世界中で23万9千人の女性が卵巣がんと診断され〔1〕、米国では今年、22,280人が新たに卵巣がんと診断される見込みである〔2〕。検診手段と特有の症状がないため、大半の女性は診断がついた時点ですでにがんがかなり進行した状態となっている。上皮性卵巣がんは、北米における婦人科がん死因の第1位であり、2016年には14,240人が死亡すると推測されている〔2〕。今回の研究は、カナダがん学会研究所(CCSRI)、キャンサーリサーチUK(CR UK))、米国国立衛生研究所(NIH)/米国国立がん研究所(NCI) (米国)の資金援助を受けた研究である。

抄録全文はこちら

1Ferlay J, Soerjomataram I, Ervik M, Dikshit R, Eser S, Mathers C, Rebelo M, Parkin DM, Forman D, Bray, F. GLOBOCAN 2012 v1.1, Cancer Incidence and Mortality Worldwide: IARC CancerBase No. 11 [Internet]. Lyon, France: International Agency for Research on Cancer; 2014. Available from: http://globocan.iarc.fr, accessed on 05/06/2015.
2SEER Fact Stat Sheets: Ovary Cancer. Available from: http://seer.cancer.gov/statfacts/html/ovary.html, accessed on 05/06/2015.

翻訳担当者 山田登志子

監修 喜多川 亮(産婦人科/東北医科薬科大学病院)

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原文掲載日 

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