早期の緩和ケア導入が、がん患者家族のQOL向上にも効果

ASCOの見解
「介護者によるサポートはがん患者にとって非常に重要ですが、介護者に大きな犠牲を強いることもあります。今回の研究で、早期緩和ケアは患者のために考えられたものであるけれども、介護者の負担軽減にも役立つことがわかりました」と ASCO会長Julie M. Vose医師(経営学修士、ASCOフェロー)は述べた。さらに「この見識は、進行がん患者への早期緩和ケアを支持するエビデンスのさらなる拡充に寄与するものです」と続けた。

ランダム化臨床試験の結果、がん診断直後に緩和ケアを導入すると、介護する家族のQOLが向上し、うつ症状が少なくなることがわかった。著者らによると、この試験は、がん患者の早期緩和ケアだけでも介護する家族に大きな影響を与えることができることを初めて示したものである。この試験結果は本日の記者会見press briefing today でも取り上げられ、シカゴで開催される2016年ASCO年次総会2016 American Society of Clinical Oncology (ASCO) Annual Meetingで発表される。

「この試験は、早期緩和ケアががんに直面している家族にとって強力な正のフィードバックループとなることを示唆しています」と、マサチューセッツ総合病院がんセンター骨髄移植サバイバープログラム責任者である試験主著者Areej El-Jawahri医師は述べた。さらに「患者が早期緩和ケアの利益を直接受ける一方、その結果として介護者も良い下流効果を経験することができます。これにより愛する人へのケアがしやすくなるかもしれません」と続けた。

試験方法
今回の試験には、根治不可能な肺および消化管のがんと新たに診断された患者の介護家族275人が組み入れられた。今回の解析は、標準的な腫瘍治療に早期緩和ケアを組み込んだ治療を受ける群、または標準的な腫瘍治療のみを受ける群のいずれかに患者を無作為に割り付けた試験の一部である。
介護家族とは、患者が主要な介護者と認める親類または友人と定義された。介護者は登録時、12週目、24週目にQOLに関する標準的な質問票であるSF36 (Medical Outcomes Study Health Survey Short Form-36)と、気分に関する標準的な質問票であるHADS (Hospital Anxiety and Depression Scale)それぞれに回答し、評価された。これらの質問票は経時的に追跡比較できる身体的、精神的健康度の数値尺度である。

主要な結果
12週目で、緩和ケア患者群の介護者ではうつ症状が有意に低かった。早期緩和ケア患者群の介護者の活力および社会的機能は改善し、標準治療患者群の介護者では減退した。24週目で、早期緩和ケア患者群の介護者で引き続きうつ症状が少なかったが、他の評価項目においては統計的な有意差はなかった。

試験において、介護者を対象とした介入は実施せず、緩和ケアを受ける際に患者に同伴することも要求されなかった。筆者らによると、今回の試験によれば、介護者のQOLおよび気分に認められた利益の中には、患者の転帰改善により間接的にもたらされたものもあると考えられる。研究者らはこの効果をより解明するためにさらに解析を進めている。

関連データ
ASCO年次総会では、今回の試験の早期緩和ケアが患者にもたらす影響を解析した別のデータも発表される。これによれば、早期に緩和ケアと標準治療を統合することは患者のQOLの改善、うつ症状の軽減、終末期について話し合う機会の増加に関連することがわかった。

今回の試験はNIHの助成を受けた。

アブストラクトの全文はこちらを参照のこと。

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ASCOについて

ASCO (American Society of Clinical Oncology) は1964 年に設立され、がん診療を大きく発展させることに尽力している。同様の組織の中でも世界をリードする学会として、がん患者の診療に携わる40,000人以上の腫瘍専門家から成る。ASCOは研究活動、教育および最良の癌診療をさらに良いも努力を通して、がんを克服することと、がんを予防し根治させること、がんを克服した患者が健康に生きていけることに尽力している。ASCOは関連組織Conquer Cancer Foundationによる支持を受けている。ASCOの情報は、サイトwww.ASCO.orgを参照のこと。 患者向け癌情報は、www.Cancer.Net、または、Facebook, Twitter, LinkedIn, YouTubeより閲覧できる。

翻訳担当者 廣瀬千代加

監修 吉松由貴(呼吸器内科/飯塚病院)

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