ヒトパピローマウイルス(HPV)関連中咽頭がんの新たな病期分類をMDアンダーソンの研究者らが提案

中咽頭がんに対する現行の病期分類システムは不十分――本研究は、上咽頭がんにおける「N」カテゴリーに基づく病期分類がより正確な予測につながることを示す初めての研究である

MDアンダーソンがんセンター

ヒトパピローマウイルス(HPV)の状態は口腔咽頭がん患者の強力な予後予測因子であるが、HPV陽性口腔咽頭がんと、アルコールや喫煙が一般的な原因となるHPV陰性口腔咽頭がんの生物学的差異および臨床的差異を表すのに現行の病期分類システムは適切ではない。HPV関連口腔咽頭がんの発生率が急速に上昇していることから、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、患者の予後をより正確に予測し、最も適切な治療法を決定するため、新たな病期分類システムを提案している。

現在刊行されているJournal of Clinical Oncology誌に掲載されている研究記事では、MDアンダーソンがんセンターの研究者によって、さまざまながん種の病期分類を行うため国際的に最も一般に用いられている分類法である現行のTNM病期分類に基づいた新たな病期分類基準が検討されている。現行のTNM病期分類システムは、原発腫瘍(Tカテゴリー)、がんの隣接リンパ節への到達有無(Nカテゴリー)、転移(Mカテゴリー)に基づいている。定説によると、TNM病期分類法は有用で、4つの特徴を有している。

• 「T」カテゴリーおよび「N」カテゴリーで定義されるグループにおける患者の生存率は同等である
• 生存率はグループごとに著しく異なる
• 転帰を正確に予測できる
• グループ間の患者分布は均衡が取れている

研究者らは、2003年1月~2012年12月にMDアンダーソンがんセンターで治療を受けた患者660人以上から得たデータを用い、現行のTNM病期分類がHPV陽性口腔咽頭がん患者においても基準を満たすかどうか適用してみたところ、同基準には満たなかったことを明らかにした。グループごとの生存率に差は見られず、患者分布も均衡を欠いており、さらに現行の分類法では、患者の大半がステージ4の疾患を有すると分類されたという。こうしたことから、研究者らは、改定版病期分類システムの開発を試み、HPV関連口腔咽頭がん患者を分類した。

「病期分類は、治療計画をデザインするための重要な要素であり、患者の予後の予測や理解に役立つものです」と、同研究記事の責任著者であり、MDアンダーソンがんセンター頭頸部外科部教授であるErich M. Sturgis医師は述べる。「HPV陽性口腔咽頭がん患者は、HPVに関連しない口腔咽頭がん患者よりも進行した疾患状態を呈する傾向にありますが、一般的に生存率は良好です。HPV陽性口腔咽頭がんとHPV陰性口腔咽頭がんは非常に異なる疾患であるため、病期分類法も分ける必要があります」。

この数十年間、舌根、扁桃、軟口蓋、咽頭壁を含む中咽頭のがんであるHPV関連口腔咽頭がんの患者数は急激に増加している。米国がん登録のデータによると、同国では毎年、11,000人を上回る口腔咽頭がん患者の約72%がHPV感染歴と関連している。アメリカがん協会(ACS)によると、HPV関連口腔咽頭がんの発生率は、女性よりも男性の方が5倍高く、HPVに関連しない口腔咽頭がんと診断される患者は高齢者に多いものの、HPV関連口腔咽頭がんは40~50代の患者に発生しやすいという。

HPV関連口腔咽頭がん患者集団の生存率を予測するため、研究者らが従来とは異なる病期分類を検討したところ、現行の病期分類における「T」カテゴリーは最も重要であり、「N」カテゴリーは予測に有効ではないと考えられることが明らかにされた。そのため、口腔咽頭がんにおける「N」カテゴリーの代わりに、別のウイルスに関連する咽頭がんである上咽頭がん(NPC、喉の上部や鼻の奥に発生するがん)における「N」カテゴリーを用いた。HPV陽性口腔咽頭がん患者の生存率予測に「N」カテゴリーを代用しても「T」カテゴリーは最も重要であったが、上咽頭がんにおける「N」カテゴリーも生存率予測に重要な因子となった。上咽頭がんにおける「N」カテゴリーをHPV陽性口腔咽頭がんに適用したのは本研究が最初である。

こうしたことから、MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、従来の口腔咽頭がんにおける「T」カテゴリーと上咽頭がんにおける「N」カテゴリーの両方を用い、新たな病期分類を作成した。

• T1およびN0~N2であればステージ1A、T2およびN0~N2であればステージ1Bとし、ステージ1疾患の患者を2つのグループに分ける
• T1~T2およびN3またはT3およびN0~N3であればステージ2
• リンパ節転移の有無に関わらずT4であればステージ3
• M1であれば常にステージ4

この新たな分類法により、HPV陽性口腔咽頭がん患者の生存率に対して現行のTNM病期分類システムを適用するよりも、別の分類をした方がより適切であることが証明された。さらに、この新たな病期分類法を用いると、各ステージの死亡リスクが上昇し、ステージ3疾患患者の死亡リスクはステージ1A疾患患者よりも5倍上昇した。こうしたことから、新たな分類法は有用な病期分類の基準を満たすことを示している。

「われわれが検討した改訂版病期分類システムは、HPV陽性口腔咽頭がんには不十分であると考えられる現行のシステムに比べ、予測能力の高さを示しています」とSturgis医師は述べる。「われわれが得た知見は他の施設の患者でも検討される必要があるものの、TNM病期分類システムが進化するにつれて、上咽頭がんにおける「N」カテゴリーが従来の口腔咽頭がんにおける「N」カテゴリーの代わりになるという考えが強くなるであろうと感じています」。

今回、MDアンダーソンがんセンターが行った研究に参加したSturgis医師以外の著者は以下のとおりである:Kristina R. Dahlstrom, Ph.D.; Adam S. Garden, M.D.; William N. William Jr., M.D.; and Ming Yann Lim, M.D。

本研究は、MDアンダーソンがんセンター助成金No. CA016672を通して米国国立衛生研究所(NIH)から助成を受けた。また、本研究は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター中咽頭プログラムで行われ、Stiefel Oropharyngeal Research Fundから資金援助を受けた。

翻訳担当者 重森玲子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

咽頭がんに関連する記事

FDAが上咽頭がんにトリパリマブを承認の画像

FDAが上咽頭がんにトリパリマブを承認

米国食品医薬品局(FDA)2023年10月27日、米国食品医薬品局(FDA)は、転移性または再発性の局所進行上咽頭癌(NPC)の成人患者に対する一次治療として、シスプラチンおよびゲムシ...
MDアンダーソンによるASCO2023発表の画像

MDアンダーソンによるASCO2023発表

MDアンダーソンがんセンター(MDA)急性リンパ性白血病(ALL)、大腸がん、メラノーマ、EGFRおよびKRAS変異に対する新規治療、消化器がんにおける人種的格差の縮小を特集
テキサス大...
チスレリズマブ上乗せ化学療法で上咽頭がんの無増悪生存期間が改善の画像

チスレリズマブ上乗せ化学療法で上咽頭がんの無増悪生存期間が改善

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解 「本試験は、化学療法とチスレリズマブ[tislelizmab]併用で、再発・転移性上咽頭がん患者の生存期間が延長し、併用療法により、このような患者にとって治療の選択肢が増えることを実証しています」  -
HPV関連中咽頭がんに線量低減放射線療法が有効な可能性の画像

HPV関連中咽頭がんに線量低減放射線療法が有効な可能性

ヒトパピローマウイルス(HPV)陽性中咽頭がん患者において、予防的治療領域への照射線量および照射体積を減らした根治的同時化学放射線療法(CCRT)は「同等の」病勢コントロールを可能にし、かつ毒性も低いことが後ろ向き単一施設研究で示された。