ワクチンが、肉腫(サルコーマ)、黒色腫(メラノーマ)、その他の腫瘍に対するT細胞の攻撃を促進

MDアンダーソン OncoLog 2015年8月号(Volume 60 / Number8)

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ワクチンが、肉腫(サルコーマ)、黒色腫(メラノーマ)、その他の腫瘍に対するT細胞の攻撃を促進

一部のワクチンは抗原を樹状細胞に送達し、その後樹状細胞は特定のがんを標的とすることができるキラーT細胞を活性化する。現在、そのワクチンが、進行中の2件の臨床研究のテーマとなっている。このワクチンLV305は、患者の体内で表面受容体CD209(別名DC-SIGN)を介して樹状細胞に特異的に結合するレンチウイルス遺伝子ベクターで、樹状細胞に完全長のNY-ESO-1抗原を導入する。その後、樹状細胞は、細胞表面上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を介してCD8陽性Tリンパ球に対してその抗原を提示する。この活性化されたCD8陽性細胞はNYESO-1を発現しているがん細胞を認識し、攻撃する。

免疫療法の標的

がん・精巣(CT)抗原NY-ESO-1は、胚形成中に精原細胞に高度に発現するが、成人ではこの抗原は精巣生殖細胞といくつかの型のがんにおいてのみ発現する。NY-ESO-1がもっとも高率でみられるのは特定の肉腫である。粘液型/円形細胞型脂肪肉腫および滑膜肉腫の80~100%がNY-ESO-1を発現する。また、この抗原は、メラノーマの約40%に、乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がんの20%までに発現する。

NY-ESO-1は免疫療法のよい標的と考えられている。その理由はNY-ESO-1発現がん細胞は細胞傷害性Tリンパ球に認識されるMHC拘束性分子を発現するが、健康な生殖細胞は発現しないためである。「NY-ESO-1に対してT細胞の応答がある場合、腫瘍に対する作用を除けば体内において良くない免疫作用はありません」とテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターサルコーマ腫瘍内科(Department of Sarcoma Medical Oncology)Neeta Somaiah医師は述べた。LV305は、そのような応答誘導を目的としたいくつかの新治療法の一つである。

Somaiah医師によれば、LV305は、NY-ESO-1陽性腫瘍を標的とした他の方法と比べて優れている。そのような方法の一つが養子T細胞療法で、特定のNY-ESO-1ペプチドを認識するように遺伝子操作されているT細胞が患者に移入される。養子T細胞療法は、有望な結果を示しているが、ヒト白血球抗原(HLA)特異的である。ほとんどの養子T細胞療法の手法は、HLAA* 02:01により提示されるNY-ESO-1ペプチドを標的とするため、この特定のHLA型を有する患者に限定されてしまう。また、この方法にはT細胞の培養と投与のために専門的施設が必要である。対照的に、LV305ワクチンはどの施設でも投与でき、このワクチンはT細胞において完全長NY-ESO-1発現を誘導するためHLA型による制限がない。

ヒト初回投与試験

去年、進行中のLV305の多施設共同ヒト初回投与試験が患者登録を開始し、対象となったのは生検検体において腫瘍細胞の少なくとも5%にNY-ESO-1発現が示される局所進行または転移性サルコーマ、メラノーマ、卵巣がん、非小細胞肺がん、乳がん患者であった。もう一つの適格性の要件は全身腫瘍組織量が低いことである。「腫瘍が大きいまたは進行が速い患者さんは、免疫抑制されている場合があり、LV305単剤からベネフィットを得るに十分なほど速く免疫応答を起こすことができない可能性があります」とこの試験においてMDアンダーソンの試験責任医師を務めるSomaiah医師は述べた。

この非盲検試験で患者は、LV305皮内注射を3週間の間隔で3回または4回受ける。試験の増量群は登録を終えており、この群では患者は、1回の注射ごとに1×108、1×109、 または1×1010 vector genome(vg)の投与を受けた。

増量群の患者12人全員が、NY-ESO-1発現レベルが6~100%のサルコーマを有していた。このうち11人がLV305投与の全コースを終了した。1人は2回目のLV305注射後に疾患進行(PD)となり、異なる治療を開始するためにこの試験を中止した。

Somaiah医師は2015年米国臨床腫瘍学会年次総会でこの試験の予備的結果を発表し、免疫学的データが利用できる11人のうち8人においてNY-ESO-1に対するCD4陽性細胞やCD8陽性細胞の数が倍増した(5人がCD4陽性細胞反応、6人がCD8陽性細胞反応を有していた)。CD8陽性細胞反応を有した6人中4人は、中用量または高用量のLV305投与を受け、前臨床モデルにみられたのと同様に用量反応関係が存在する可能性を示した。1人の患者における追加の免疫学的研究により、NY-ESO-1特異的CD8陽性細胞の数が増えただけでなく、NY-ESO-1との結合親和性および複数のNY-ESO-1エピトープを認識する能力も増したことが明らかになった。

12人中8人は、最終追跡調査時に疾患安定(SD)で、1人では約14%の腫瘍退縮がみられた。「臨床、免疫学的データは有望で、さらなる研究が求められています」とSomaiah医師は述べた。

予想されたように、副作用は最小限で、軽度の注射部位不快感と疲労であった。用量制限毒性はなかったため、試験では進行中の拡大(expansion)群 でLV305の最高用量である1×1010 vgが用いられる。

さらなる研究

このヒト初回投与試験の拡大(expansion)群には、サルコーマ、メラノーマ、非小細胞肺がん、卵巣がん患者各6人を含むことになっている。サルコーマ群は現在満員である。しかしSomaiah医師によれば、腫瘍がNYESO-1を発現しているサルコーマ患者は、最近MDアンダーソンや他の施設で登録を始めた新たな併用療法試験に適格である可能性がある。

この新たな試験では、LV305は、G305(合成TLR4作動薬グルコピラノシル脂質Aと混合された完全長NY-ESO-1蛋白質)とともに連続して投与される。
先行試験では、G305はNY-ESO-1陽性腫瘍を有する患者においてNY-ESO-1特異的CD4陽性細胞および抗体反応を示した。

LV305およびG305(CMB305と呼ばれる)の連続的使用は、NY-ESO-1特異的CD8陽性細胞、CD4陽性細胞、抗体反応を生じるようにデザインされている。
CMB305試験の適格基準はLV305単剤試験のものと同様である。

将来の試験では、NY-ESO-1陽性腫瘍を有する患者を対象としてCMB305とプログラム細胞死1(PD-1)阻害薬とを併用する可能性がある。

「われわれの早期結果では、LV305は安全で免疫反応を引き起こします」とSomaiah医師は述べた。「将来の研究によって、確固とした抗腫瘍効果をともなう効果的で持続性のある免疫反応を起こすために、最善の薬剤の組合せと投与順序が明らかになるでしょう」。

【画像キャプション訳】
ほとんどの粘液型脂肪肉腫細胞が、CT抗原NY-ESO-1に対して強い各免疫反応性を示している。
Endo M, et al. Mod Pathol. 2015; 28:587–595から許可を得て転載。
© 2015 Macmillan Publishers Ltd.

For more information, contact Dr. Neeta Somaiah at 713-792-3626.

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翻訳担当者 鈴木 久美子

監修 田中 謙太郎(呼吸器内科/福岡東医療センター)

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