がん研究を拡大し高齢者を対象に含めるよう要請

臨床試験の適格基準が過度に厳格であるために、高齢のがん患者の治療を裏づけるエビデンスが不足していることを指摘

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、連邦政府関連機関およびがん研究コミュニティに対し、臨床試験の対象を広げてより高齢の患者を含めるよう求める画期的な要請を行った。同時に、臨床試験の適格基準の再検討も要請した。これら2つの要請は、Journal of Clinical Oncology誌に掲載された。

アメリカのがん患者の60%以上は65歳以上であり、この年齢層のがん患者は今後数年のうちに急速に増えていくものと思われる。しかし、高齢者は臨床試験で少数にとどまることや、高齢者に特化して設計された臨床試験はまれにしかないことから、高齢者の治療の根拠となるエビデンスが不足している。

「高齢ながん患者がたどる経過や転帰は、若齢患者とは異なることがよくあります」と、ASCO会長Julie M. Vose医師・経営学修士・ASCOフェローは言う。「たとえば、年を取るにつれて、治療に伴う有害反応は有意に増えていきます。高齢者にも臨床試験に参加してもらうべきです。そうすれば、高齢のがん患者を治療するうえで、転帰を改善し、毒性をうまく管理できる、最良の方法を見つけることができます」。

ASCOがん研究委員会が作成したASCO意見書「高齢がん患者の治療の根拠となるエビデンスの強化(”Improving the Evidence Base for Treating Older Adults with Cancer)」では、以下に示した5つの包括的な要請を行った。

  • 臨床試験によって、高齢患者の治療の根拠となるエビデンスを強化する。
  • 試験のデザインや研究基盤を活用して、高齢患者の治療の根拠となるエビデンスを強化する。
  • 高齢ながん患者についての研究を奨励したり要請できるように、米国食品医薬品局(FDA)の権限を拡大する。
  • より多くの高齢のがん患者を臨床試験に組み入れるように、臨床医を促す。
  • 雑誌の方針として、論文には試験参加者の年齢分布および健康リスク(身体的な危険因子)を常に記載することを奨励する。

さらにASCOは同意見書で、この要請を推進する16の具体的な行動指針の詳細を述べた。その1つとして、高齢者が臨床試験の対象から外される主な3つの理由—年齢、全身状態、合併症—に基づいた適格基準を正当化する根拠が本当にあるのか否か、を慎重に検討するように、規制機関、研究資金提供機関、および研究者に求めた。

他にも、高齢ながん患者の治療について欠けている知見が得られる革新的な臨床試験デザインを採用するよう研究者を促している。

「がん患者の年齢分布や健康リスクに見合った臨床試験を実施する必要があります」。City of Hopeのがん・老化研究プログラムのディレクターで、今回のASCO意見書の共同著者であるArti Hurria医師は言う。「すべての患者がエビデンスに基づく質の高いがん治療を受けられるように、ASCOは臨床試験に参加する高齢者の拡大に向けて多岐にわたる取り組みを行ってきました」。

臨床試験の適格基準を見直し

関連する取り組みとして、ASCOがん研究委員会は「分子生物学に基づく臨床試験に向けた適格基準の刷新(“Modernizing Eligibility Criteria for Molecularly Driven Trials” )」と題した記事も掲載した。記事では、特に分子標的治療の進歩に伴って注目されつつある特定の患者集団においては、適格基準を見直す必要があるかどうかを検討している。

「目的とする患者集団に対してのある治療のリスクとベネフィットを明らかにすることが、臨床試験の根本的な目標です」と、Carolinas HealthCare SystemのLevine Cancer Institute固形がん腫瘍学・探索的治療部門長でありASCOがん研究委員会元委員長のEdward Kim医師は言う。「これまでの臨床試験への患者登録は最適なものではなく、一刻も早い再検討が求められます。分子標的治療の時代には興奮させられます。今必要なのは、有望な新薬をもっと早く臨床現場に届けるために、臨床試験の一番の目標(特定の患者集団における治療のリスクとベネフィットの明確化)をどうやって達成するのか、そのやり方を評価しなおすことなのです」。

次のステップ

今回の意見書と関連記事で挙げた問題点をさらに掘り下げるために、ASCOは公開ミーティングを開催し、規制機関や、個々の研究プロトコルの適格基準を決めるアルゴリズム法の開発という究極の目標に関係する主要な人々から意見を聞き入れる予定である。そうしたプロトコルは、分子生物学に基づく治療が主流になる将来の研究者の助けになる可能性のあるものだ。公開ミーティングは2016年秋、開催予定である。

今回の2つの意見書は、下記タイトルをクリックのこと。

翻訳担当者 筧貴行

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学教授)

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原文掲載日 

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