配合剤TAS-102は転移大腸がん患者の生存を延長

キャンサーコンサルタンツ

50年前に開発したものの、毒性があまりにも強いとみなされ開発中止された薬が、国際臨床試験において復活を遂げた。その薬と増感剤は、ダナファーバー癌研究所の研究者らが主導する研究において、既存の標準治療が奏効しなくなった転移大腸がん患者の生存期間を延長した。

本日発行のNew England Journal of Medicine誌電子版に発表された論文によれば、ダナファーバーおよび世界各地の研究所の試験責任医師らは、TAS-102として知られる単一投与錠剤の配合薬剤が患者の全生存期間を延長したばかりか、病気の進行を遅らせ、副作用もほとんど発現しなかったことを発見した。

研究著者らによれば、本研究結果は非常に目覚ましいものである。というのも、試験に参加した患者の半数は標準的な化学療法薬剤フルオロピリミジン(5-フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(ゼローダ)など)を用いた治療を終了したばかりであったが、そうした治療が奏効していなかったためである。TAS-102は5-FUとは違う生化学経路に作用するため、実際にこのように標準治療が奏効しない患者の多くにおいて、TAS-102が一時的にがん進行を停止したと考えられる。よって、標準治療の代替療法として提供できる可能性があると言える。

「大腸がんは、米国では(肺がんに次いで)がん死亡原因の第2位であり、世界中で非常に大きな健康問題です」と、本研究の筆頭著者で、ダナファーバー教務部副部長、腫瘍内科医、大腸がん研究者であるRobert J Mayer医師は語る。「罹患率の高いがんに対する薬効が高く忍容性に優れた新薬の実現は、患者にとって朗報です」。

本臨床試験のうち、第3相臨床試験にはヨーロッパ、米国、オーストラリア、日本の主要ながん研究施設が参加し、前治療を受けても増悪が認められる転移大腸がん患者800人が登録された。患者はTAS-102を服用する群とプラセボ錠剤を服用する群にランダムに振り分けられた。

生存期間中央値は、TAS-102群が7.1カ月であったのに対して、プラセボ群は5.3カ月であったと試験責任医師らは報告した。無増悪期間中央値は、TAS-102群で5.7カ月、プラセボ群で4.0カ月であった。

「これらの改善は小幅なものかもしれませんが、もはや他の治療法が奏効しないがん患者でその成果が表れたという事実から、TAS-102はそのようながんの治療法として確実に有望であると言えます」と研究著者らは語った。

TAS-102の殺細胞性成分であるトリフルリジンは、1950年代後半に開発され、ほぼ同じころに5-FUも開発された。当時、5-FUは、がん細胞DNAに取り込まれ、細胞の栄養代謝を妨害して奏効すると考えられていた。後に、実際は細胞の生存に必要な酵素(チミジル酸シンターゼ)を阻害して奏効することが判明した。

一方、トリフルリジンもがん細胞DNAに取り込まれるが、がん細胞の破壊に必要な用量を患者に投与した場合、あまりにも毒性が強いことが証明されたのだった。およそ15年前、日本企業の大鵬薬品がトリフルリジンとチピラシル塩酸塩を併用する試験を開始した。チピラシル塩酸塩とは、トリフルリジンの代謝を阻害する薬剤である。この組み合わせによりトリフルリジンは毒性レベルに達することなく有効性を発揮することができ、有用な抗がん療法となる可能性が出てきた。

大腸がん患者に対する日本での初期臨床試験が有望な結果を示したことから、米国でもダナファーバーなどの研究施設の試験責任医師らが主導する小規模臨床試験が実施された。それらの臨床試験でも、本薬剤は米国の患者において優れた忍容性を示したため、第3相試験開始に拍車をかけることになった。

「私たちが最初に確認した臨床試験データが良好なものであることは明白でした」とMayer医師は言う。「患者の年齢、人種、性別または腫瘍の分子構造に関係なく薬効が認められたのです」。

「次の試験段階として、5-FUと併用されることが多い他の薬剤とのTAS-102併用を評価し、その結果を比較します」とMayer医師は語った。

出典:ダナファーバー癌研究所


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

大腸がんに術後化学療法が必要かをctDNA検査で予測できる可能性の画像

大腸がんに術後化学療法が必要かをctDNA検査で予測できる可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ転移が始まった大腸がんに対する手術の後、多くの人はそのまま化学療法を受ける。この術後(アジュバント)治療の背景にある考え方は、がんが体内の他...
認識されていない大腸がんの危険因子:アルコール、高脂肪加工食品、運動不足の画像

認識されていない大腸がんの危険因子:アルコール、高脂肪加工食品、運動不足

オハイオ州立大学総合がんセンター仕事中にあまり身体を動かさず肥満率が上昇している現代アメリカでは、何を飲食し、どのくらい身体を動かすかによって大腸がん(30〜50代の罹患者が増...
若年成人の大腸がん罹患率増加に肥満とアルコールが関与の画像

若年成人の大腸がん罹患率増加に肥満とアルコールが関与

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024年におけるEUと英国のあらゆるがんによる死亡率を専門家が予測

欧州連合(EU)と英国における25〜49歳の大腸がんによる死亡率の上昇には、過体重と肥満...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...