OncoLog 2015年4月号◆新しい試験デザインにより乳がんの治療開発が効率化― ISPY2試験 | 海外がん医療情報リファレンス

OncoLog 2015年4月号◆新しい試験デザインにより乳がんの治療開発が効率化― ISPY2試験

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OncoLog 2015年4月号◆新しい試験デザインにより乳がんの治療開発が効率化― ISPY2試験

MDアンダーソン OncoLog 2015年4月号(Volume 60 / Number 4)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

新しい試験デザインにより乳がんの治療開発が効率化―ISPY2試験

がんと闘う薬剤の開発には莫大な資金と時間がかかる。さらには、研究中の抗がん剤のおよそ40%が臨床試験で脱落する。有効ながん治療薬を迅速かつ効率的に見極められるよう、研究者らは革新的な臨床試験モデルに取り組み始めた。この方法では、複数の治療法を同時に研究し、患者のデータが加わるに従い研究デザインを適合させていく。

 

このモデルはISPY 2 試験(the Investigation of Serial Studies to Predict Your Therapeutic Response with Imaging and Molecular Analysis 2 :画像検査と分子解析により治療反応を予測する一連の探索研究2)のためにデザインされた。この試験はテキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよび他の複数の医療センターで行われており、早期乳がんの患者が参加する。本試験はがん治療薬の開発における新しいパラダイムの先駆けとなる可能性がある。

 

「新薬が出ると、どの患者集団に最も効果があるかを見極めたいと私たちは考えます」と、試験責任医師で、MDアンダーソン乳腺腫瘍内科学の准教授であるStacy Moulder医師は述べた。「この試験は、早期乳がんの治療において、新薬がどの患者をターゲットにすれば最適なのかを理解する助けとなるようデザインされています。これが長期的には患者さんを救うことになるのです」。

 

従来型試験からの脱却

一見したところでは、I-SPY2試験は従来型の臨床試験と大差ないように見える。第2相試験には、新しくステージI-IIIの浸潤性乳がんと診断され、腫瘍径が2.5センチ以上のがんを有する女性患者が登録された。試験のエンドポイントは病理学的完全奏効(pCR:部分的外科的切除術を行った検体に残存乳がんが乳房やリンパ節にみられないこと)である。患者は標準療法である週1回のパクリタキセルを12サイクル受ける。ただし、上皮増殖因子受容体2(HER2)陽性の腫瘍を有する患者はトラスツズマブの投与も受ける。これに加え患者は試験薬投与を受ける群と受けない群に無作為に割り付けられる。標準治療後には全ての患者がアントラサイクリン系薬剤(たとえばドキソルビシン)とシクロホスファミドを2週あるいは3週間サイクルで4回繰り返した後に腫瘍切除術を受ける。

 

しかし直近の検証で、この試験が従来型モデルとは違ういくつかの特徴を持っていることが明らかになった。もっとも大きな特徴が、組織と画像バイオマーカーを利用して初期には試験の適格性、のちには特定の治療法からどの患者集団が最も恩恵を得られるかを同定する方法である。

 

バイオマーカーのデータは試験を通じて収集される。治療に先立ち、患者は磁気共鳴撮像装置(MRI)、コア針生検および血液検査を受ける。検体は通常の乳がんのバイオマーカー、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2受容体などで評価される。ゲノムアッセイ法は乳がん関連の遺伝子70種の発現レベルを評価し、患者のがん再発リスクを判断する。MRIおよび血液検査により、パクリタキセルの3回目のサイクル後、パクリタキセル治療終了後、そしてアントラサイクリン系薬剤とシクロホスファミド治療後に腫瘍の治療応答性をモニターする。パクリタキセルの3回目のサイクル終了後には2回目のコア針生検を受ける。

 

テキサス大学MDアンダーソンがんセンター生物統計学部門の教授であるDonald Berry博士は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の外科学教授でHelen Diller Family総合がんセンターCarol Frank Buck Breast Care CenterのディレクターであるLaura Esserman医師と共同でI-SPY 2試験をデザインした。Berry氏は多施設臨床試験の共同試験責任医師である。

 

「I-SPY 2試験において、個別の患者の治療が良好であるかが判るまで待てないため、腫瘍から予測できることと最終的な病理学的完全奏効との関連を理解しモデル化するため時間をかけて試験をします」とBerry氏は述べた。「これは驚くほど革新的なことで、患者の状態を後方視的に見るというよりも実際に患者全体を見ることができます」。

 

術前化学療法アプローチ

本質的にはI-SPY 2試験で生まれた手法ではないが、術前化学療法のアプローチの活用は試験デザインのキーとなる要素である。術前化学療法の臨床試験では、術後化学療法の場合よりも速やかに評価できるエンドポイントを設けている。

 

多くの場合、乳がん患者は腫瘍を取り除く外科手術を受け、残存するがんを抹消するために術後化学療法を受ける。近年では乳がんの術後化学療法は大いに進歩し、生存期間を延長させている。実際のところ米国における乳がん関連の死亡率は1990年以降34%低下したが、これは効果が高まった薬によるところが大きい。しかしながら、標準治療で投与される薬の成功は、術後化学療法における新薬の研究を難しくしつつある。

 

「この乳がん死亡率の低下は素晴らしいことですが、試験を行うのが以前よりも難しくなってきていることが統計学的に示唆されています。つまり試験では多くのサンプル数が必要とされますが、以前のようには集まらなくなったからです」とBerry氏は述べた。「術後化学療法においての試験では5,000~10,000人の患者さんが必要ですが、もう持続的に人数確保ができないのです」。

 

対照的に腫瘍切除前の療法は、治療反応を迅速に評価する機会を研究者らに与え、治療が効果的であったかを早急に見定めることを可能にしている。

 

「新薬開発の観点からは、術前化学療法の手法は非常に強力です。なぜなら乳がん患者における長期生存転帰と関連したエンドポイント(今回の場合pCR)を設定できるからです」とMoulder氏は述べた。「術後化学療法の場合、試験薬に効果があるのかを見極めるのには数年もかかる可能性があります。しかし術前化学療法でpCRを予測する場合、半年間のデータを収集することで、薬の実力を知ることができるのです」。

 

複数の薬剤を試験

I-SPY 2モデルが従来の臨床試験から進歩している点の一つに、製造元が異なる複数の試験薬を同時に評価する、ということがある。Berry氏が、いくつもの製造元から来たトラックがバックして倉庫のプラットホームにつける様子にたとえて「プラットホーム」デザインと呼ぶこのデザインでは、研究者らは研究のプロトコルを修正したり、一から書き直したりすることなく試験薬を追加することができる。ただし、試験薬ならなんでも歓迎というわけではない。試験薬を新たに加える際には、臨床試験の試験薬選定第三者委員会(Independent Agent Selection Committee)で事前に厳しく吟味される。試験薬が追加されるためには、転移がんにおいて相当な効果を示すデータと、研究者らが起こりうる副作用を予測できるよう十分な毒性データがなければならない、とMoulder氏は話す。

 

I-SPY 2のプラットホームデザインでは、複数の治療レジメンを通常の対照群と比較することも可能となり、従来の臨床試験に比べ試験に必要患者数が大きく削減される。現在、I-SPY 2は6群で行われており、5群は試験薬群、1群は対照群である。仮にこの5群の実験的レジメンをそれぞれ比較対象ランダム化試験で行うとなると、10群が必要になる。

 

I-SPY 2プラットホームデザインにも通常の対照群があり、試験薬への採用はハードルが高いといった点もあるものの、患者の立場からも重要なメリットがある。治療効果の可能性がある試験薬群に割り付けられる確率が高いということだ。2群の比較対照によるランダム化試験では試験薬治療群に割り付けられる可能性は50%だが、I-SPY 2では80%となる。

 

「複数の薬剤が用いられますので、臨床試験において患者が有望な試験薬の投与を受けられる機会も多くなります」とMoulder氏は話している。

 

研究デザインの補正

「I-SPY 2の最大のイノベーションは、われわれが実際にデータを見ている間に、われわれが調べているものに合わせて研究デザインを自動で修正してくれるということです」とBerry氏は言う。修正の可能性のあるものはすべてあらかじめプログラムされており、コンピューターアルゴリズムにより進行中の臨床試験に対する補正が行われる。Berry氏はアルゴリズムが期待どおりに機能しているか確認するためにこれらの補正を監視する。

 

従来の臨床試験と異なり、I-SPY 2では各群への患者の割り付けにおいて適応的ランダム化(adaptive randomization、*訳注:ランダム化などの割り付け途中で介入群と対照群に大きな差が生じた場合に割り付け方法を調整する)が取り入れられている。自動化されたアルゴリズムによりランダム化が実施される。臨床試験が進行するに従い、バイオマーカー情報やpCR率など新たに得られた患者データがアルゴリズムに組み入れられ、新患者が特定の試験治療に割り付けられるかどうかの確率は、同じ病気の他の患者における過去の成績によって変化する。「したがって、試験薬がいい成績をあげていない疾患の患者は、その試験薬を処方される可能性が低くなります。適応的ランダム化により、どの疾患の患者が治療から恩恵を受けられるかに着目できるのです。標準的アプローチではこうはいきません」。Berry氏はこう述べた。

 

Berry氏は研究当初より対象となっていたネラチニブを例として挙げる。ネラチニブはHER2ファミリーのチロシンキナーゼ阻害剤で、一部の患者集団では強力な抗腫瘍効果があるが、他の集団には効果がなかった。この結果を見たデータ安全性及び監視委員会(Data Safety and Monitoring Board)は、効果がほとんど見られない患者集団に対しネラチニブ投与を考慮しないよう、臨床試験デザインの修正を提案した。Berry氏はこう話す。「私は委員会に言いました。『ご提案いただく必要はありません。すでにアルゴリズムがやってくれています。当該患者集団がランダム化で割り付けられる割合をご覧ください。ゼロです』」。

 

卒業

ある試験薬のレジメンが、患者300人クラスの第3相臨床試験において、標準的な術後化学療法と組み合わせて1つ以上の患者集団で有用であるとベイズ解析で予想されれば、その試験薬はI-SPY 2から「卒業」し、次のステップに進む。卒業が決まると、その試験薬の投与群への患者登録は中止され、第3相臨床試験に進むことになる。

 

これまでのところ2つの治療法がI-SPY 2から卒業している。最初に卒業したのはポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤のベリパリブ(veliparib)とカルボプラチンの併用療法だった。2番目がネラチニブである。標準補助化学療法との同時投与で、ベリパリブ+カルボプラチン併用はトリプルネガティブ乳癌患者に、ネラチニブはHER2陽性でホルモン受容体陰性の患者にそれぞれ有望な結果であった。同時に重要なこととして、これらのレジメンが他の乳癌サブタイプの患者にはほとんど効果がないことが明らかになった。これらの患者群からはこの2つの治療法はすでに排除されている。

 

「試験薬が卒業しない場合、あるいは特定の患者集団には有用でないと思われる場合、それもまた重要な発見です」とMoulder氏は話す。「有用でなさそうな薬に何人もの患者を曝露させなくて済むということですから」。

 

21世紀の臨床試験モデル

適応的ランダム化アルゴリズムを用い、もっとも試験薬の効果がありそうな患者に投与する臨床試験が、メラノーマや膠芽細胞腫などのがんで進行中である。I-SPY 2同様、これらの臨床試験全体の目的は、有効な治療法が患者のもとに届くまで、少ない資源で済ませるということである。そのためにも、早い段階で効果のない治療を特定していくのがカギだとBerry氏は話している。

 

「効果のない薬は第3相臨床試験に行くまでに排除する必要があります」とBerry氏。「たとえばアルツハイマー病では直近の第3相臨床試験20件は失敗に終わっていますね。何かが間違っています」。

 

Moulder氏もこれに同意した。「何の効果も示さない治療にすべての資源と患者の数をつぎこむのは大問題です。何の選別もせずに大規模な臨床試験を実施すれば、実際に効果がある臨床試験に適格な患者が少なくなってしまいます」。

 

薬剤開発プロセスを円滑にする必要性を認めた米国連邦議会は21世紀治療戦略(21st Century Cures Initiative)を公表した。これは、臨床試験においてベイズ統計学と適応的ランダム化の使用を推奨する法案の制定を提案するもので、癌や他の疾患の治療法が実験室から臨床に来るまでの過程が180度転換する可能性を示している。

 

「私はこの法案は有望だと思っています」とBerry氏は言う。「同じ試験で多くの疑問に答えられる利点とデータの流れとともに動く利点を誰もが理解するでしょう」。

 

さらに詳細はDonald Berry医師(713-794-4141)またはStacy Moulder医師(713-792-2817)まで。I-SPY 2 試験についてはwww.cilinicaltrials.org から臨床試験No.2010-0145を選択。

 

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
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原文掲載日

翻訳岡田章代、橋本 仁

監修原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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