乳がんの新分類の因子別解析によりリスク分類が向上・ほとんどのがんにおいて死亡率と発症率が継続的に低下ー米国年次報告書』

米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース

原文掲載日 :2015年3月30日

米国内のデータを用いて、乳がんの主要な4つの分子サブタイプを年齢、人種または民族、貧困レベルおよび他のいくつかの因子により分類し発生率を調査した結果が報告された。4つの分子サブタイプは治療に対して異なる反応を示し、生存率も異なる。新たなデータから、臨床的に意味のあるリスクの程度と乳がん治療への影響により、乳がんをさらに正確に分類できるようになる。また、このような情報を得て、女性が自身の乳がんのタイプに基づき、健康への影響を深く理解することができるようになる。

この結果は、他の主要ながんの統計解析と共に本日JNCIに掲載された。がんの病状に関する国内年次報告書(1975-2011)では、これら部位別の主要ながんのほぼすべてで、男性、女性および小児のがんにおける死亡の減少傾向が示されている。この報告書は、北米がん中央登録協会(NAACCR)、米国がん協会(ACS)、米国疾病対策センター(CDC)および米国国立衛生研究所の一機関である米国国立がん研究所 (NCI)の専門家らが共同で執筆したものである。

乳がんのサブタイプは治療法の決定に大きな影響を及ぼし、原発部位に関する重要な手がかりとなる。4つの分子サブタイプ、Luminal(HR+/HER2-)、Luminal B(HR+/HER2+)、HER2過剰発現(HR-/HER2+)およびトリプルネガティブ(HR-/HER2-)は、ホルモン受容体(HR)の状態およびHER2遺伝子の発現によって分類できる。これらの4分類は現在、全米がん登録に記録しており、それにより今回初めて統計学者らは、臨床的に重要なこれらのタイプに基づいて総合的に乳がん罹患率を検討することが可能となった。

新たな報告書によると、人種および民族集団間で認められる乳がん発症率および死亡率の差は、タイプの違いによる発症率の差と関連があることが示唆されている。著者らが割り出した数値の地理的差異は、背景にある人口学的パターン、地域文化およびそれに基づく行動や治療を受ける機会などのさまざまな因子に基づいていた。

研究者らは、年齢、貧困レベル、地理および腫瘍の特質に基づく、人種または民族集団に特異的なパターンを明らかにした。HR+/HER2-乳がんは最も侵襲性の低いタイプであり、その罹患率は非ヒスパニック系白人で最も高く、既報の知見と一致している。HR+/HER2-乳がんの罹患率は、いずれの人種および民族集団でも貧困レベルの上昇とともに低くなった。また、事前研究が示したように、非ヒスパニック系黒人は、他の人種または民族集団よりも乳がんのタイプ分類のなかで最も侵襲性の高いトリプルネガティブの発症率が高かった。

非ヒスパニック系黒人は、いずれのタイプでも、進行期がんや低分化/未分化がんの割合が最も高かった。これらの因子はすべて低い生存率と相関しており、黒人の乳がん死亡率が最も高いことと一致している。

「今年の報告では、男性、女性および小児のがん死亡率にみられる大いに期待される傾向が裏づけられ、乳がんが単一疾患としてではなく、分子的に定義された4つのタイプ別に評価されています。すでにこのようなタイプごとの治療戦略の指針となっている医学的重要な情報がカギを握る、これは歓迎すべきステップです」とNCI所長Harold Varmus医師は言う。「また、現在、米国オバマ大統領の『高精度医療イニシアチブ』の下で、分子的特徴に基づくがんの厳密な分類の研究が活発に行われており、達成の兆しがみられます。現在定義が進んでいる新しい診断分類によって、乳がんおよび他の多くのがんを予防、治療し、発症から予後までを経時的により厳密に監視することができるようになるでしょう」。

この報告書には、多くの主要ながん、およびすべてのがんを併せた発症率と死亡率の傾向も詳しく記載されている。総がん発症率(がんの新たな症例)は、男性では低下が続き、女性では変化がみられず、小児では上昇した。著者らは、1990年代初期以降、総がん死亡率が比較的低下する傾向が続き、2002年から2011年にかけて、男性では年間約1.8%、女性では年間1.4%低下したことも明らかにした。19歳までの小児では、1975年以降、1998年から2003年までの期間を除いて、死亡率に低下傾向がみられる。

「男性、女性および小児にみられるがん死亡率の低下傾向は望ましいものであり、がん予防、早期発見および治療の進歩を反映しています」とCDC所長Tom Frieden医師は言う。「しかし、予防可能ながんに関する大きな負担が継続しており、人種および民族間で死亡率に差がみられるため、われわれにはまだ長い道のりがあります」。

直近の報告期間では、男女ともに肺がんの発症率および死亡率の低下が急速に進んでおり、喫煙率を下げるために公衆衛生の面で続けられてきた努力が反映されている可能性がきわめて高いと考えられる。前年まで、男女の大腸がんおよび男性の前立腺がんの発症率と死亡率の低下傾向が続いている。

「肺がんおよび大腸がんの発症率の低下は、がん予防が救命に効果があったことを表しています」と米国がん協会CEOのJohn R Seffrin博士は言う。「しかし、このふたつのがんだけでなく、このような傾向が明確にみられない他の多くのがんの発症率の低下に向けてはまだ長い道のりです」。

2002年から2011年にかけて、年間0.5%の総がん発症率の低下がみられた。男性のがん発症率は2007年から2011年にかけて年間平均1.8%が低下し、女性の発症率は1998年から2011年にかけて変化がみられなかった。19歳までの小児の発症率は、過去10年にわたって年間0.8%上昇している。この傾向は1992年から続いているが、原因は明確になっていない。

この報告書は、さらに多くの評価を必要とするとして、以下の現象にも言及している。

・男女ともに甲状腺がんおよび腎がんの発症率が上昇している。両疾患では、新たな症例が占める割合の増加がみられ、これはいくつかの因子によるものと思われる。ただし、両疾患とも死亡率の上昇はみられない。

・男女ともに肝がんの発症率および死亡率が上昇している。このような上昇は、C型肝炎の罹患率の上昇やアルコール依存症など、行動危険因子の増加をある程度反映していると思われ、治療介入の余地がある。

・概して白人男性では、他のタバコ関連がんの発症率の低下とは異なり、口腔がんまたは口腔咽頭がんの発症率が上昇している。喫煙と密接なかかわりのある場合の口腔がんは減少しているものの、このことはHPV関連口腔咽頭がんの増加に起因すると思われる。

・白人、黒人およびアジア太平洋諸島の女性では、子宮がんの発症率および死亡率が上昇しており、なかでも黒人女性に著しい上昇がみられる。このような上昇の原因は明らかではない。

原文

翻訳担当者 木村素子

監修 原 文堅(乳癌/四国がんセンター)

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