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OncoLog 2015年3月号◆小細胞肺癌の研究により治療の選択肢が広がるか

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OncoLog 2015年3月号◆小細胞肺癌の研究により治療の選択肢が広がるか

MDアンダーソン OncoLog 2015年3月号(Volume 60 / Number 3)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

小細胞肺癌の研究により治療の選択肢が広がるか

多くのがんでは治療が進歩しているものの、小細胞肺癌の標準治療には何十年間も変化がない。しかし、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでは小細胞肺癌治療の新しいアプローチを探索している。

 

いくつかのアプローチの中で最も有望なものに、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤があり、これは他の種類のがんに対してすでに使用されている薬剤である。

 

問題点

小細胞肺癌の標準治療は、1980年代からほとんど変わっていない。新たに小細胞肺癌と診断され胸部に限局した患者の治療は、通常は放射線治療とカルボプラチンやエトポシドを併用し、より進展した場合には化学療法のみが行われる。ほとんどの患者で、腫瘍ははじめこそ著しく縮小するが、4~6カ月後には再び増殖し始める。

 

非小細胞肺癌を含む多くのがん種に対して有効な分子標的薬は、小細胞肺癌に対して効果がない、と胸部/頭頸部腫瘍内科学の教授で部長のJohn Heymach医学博士は述べる。「非小細胞肺癌には、新薬の標的となるドライバー遺伝子がひとつだけ存在することが多いのです」Heymach医師は述べる。「しかし、小細胞肺癌の仕組みは異なっています。小細胞肺癌には、そのようなドライバー遺伝子が見当たりません。がんを起こしているのは、がん抑制遺伝子であるRB1とTP53の欠失であるとわれわれは考えています」。

 

PARP阻害剤

小細胞肺癌の新規の治療標的を特定するために、胸部/頭頸部腫瘍内科学助教のLauren Byers医師が統括する研究チームは小細胞肺癌と非小細胞肺癌の双方の細胞株を対象にプロテオーム解析を行い、重要な細胞内シグナル経路の活性化を系統的に評価した。「小細胞肺癌に対して承認を取得している分子標的薬がなかったため、小細胞肺癌と非小細胞肺癌の違いを特定して小細胞肺癌に有効な新薬を同定するヒントにしたかったのです」Byers医師は述べる。

 

この研究チームは、小細部肺癌細胞ではPARP1というDNA修復に関わる酵素が高度に発現していることを発見した。これにはRB1およびTP53の欠失と関連している可能性があるとHeymach医師は述べる。

 

PARPタンパク質を阻害する薬剤はすでに開発されているため、小細胞肺癌でPARP1の発現が増加しているという発見は興味深い。PARP阻害剤は、BRCA1またはBRCA2に遺伝子変異を有する患者の乳癌や卵巣癌治療に使用されることがある。「BRCA変異を有する腫瘍ではすでにDNA損傷を修復する能力に欠陥があるため、PARP阻害剤により細胞のDNA損傷修復能をさらに低下させてがん細胞を死に至らしめようという考えです」Byers医師は述べる。さらに研究が進み、乳癌や卵巣癌の治療に用いられるPARP阻害剤が小細胞肺癌にも効果を発揮したことがわかると、Byers医師はこう述べた。「われわれの研究成果を迅速に臨床に持ち込むチャンスを見つけました」。

 

Byers医師は、肺癌を対象としたPARP阻害剤の進行中の臨床試験3試験に参加または統括している 。一つは非小細胞肺癌を、二つは小細胞肺癌を対象としている。現在、再発または難治性の小細胞肺癌患者を登録中なのは、PARP阻害剤veliparib(以前はABT-888と呼ばれていた)と細胞毒性薬テモゾロミド併用の多施設共同第2相臨床試験である。この試験に登録した患者は、テモゾロミドとveliparibの併用療法またはテモゾロミド+プラセボを受ける群に無作為に割り付けられる。

 

この臨床試験の目標は、veliparibの追加により無増悪生存期間を延長できるかどうか検討することである。「細胞毒性薬で腫瘍細胞にDNA損傷を起こし、がんがその損傷を修復するのをPARP阻害剤で防ごうという考えなのです」Byers医師は述べる。「まだ試験の初期段階ですが、得られている結果にわくわくしています」。

 

小細胞肺癌に対してPARP阻害剤を使用するもう一方の試験は、PARP阻害剤BMN 673をヒトに対して初めて使用する試験である。この試験の目標は、BMN 673の最大耐量を検討し、進行または再発固形腫瘍患者における薬剤の有効性を評価することである。この試験は先ごろ患者登録数が目標に達した。

 

BMN 673の試験の予備的な結果は、昨年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。評価可能な小細胞肺癌患者11人中、2人に固形癌の治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)による完全奏効が得られ、6人で部分奏効または8週間を超えて持続する安定が得られた。「このデータは予備的なものですが、励みになります」Byers医師は述べる。「この薬剤は、二次治療として使用したときに患者に効果がみられるようです」。

 

臨床試験が進むのと同時に、Byers医師は研究室での小細胞肺癌研究を継続している。BRCA遺伝子変異は小細胞肺癌と関連づけられてこなかったため、Byers医師をはじめとする研究者らは、PARP阻害剤は小細胞肺癌では乳癌や卵巣癌とは違う働き方をすると信じている。「われわれの研究室では、小細胞肺癌にどのような特徴があればこの標的薬剤に対して特に感受性が高くなるかを見いだそうと試みています」Byers医師は述べ、小細胞肺癌のどの患者がPARP阻害剤に反応する可能性が最も高いかを示すバイオマーカーはまだみつかっていないと付け加えた。「どのような患者に対してこの薬剤が最も有効なのかを知りたいですね」。

 

阻害剤研究の次のステップは、薬剤を初回治療において試験することである。Byers医師の研究チームでは、進展型小細胞肺癌に対して、PARP阻害剤veliparibをカルボプラチンとエトポシドに放射線治療を加えた標準初回治療と併用して投与する臨床試験を計画している。(*監修者注:進展型では放射線治療は通常併用しない)

 

その他の研究

PARP阻害薬と同様に、血管新生阻害剤は小細胞肺癌以外の癌種に有効に用いられており、現在、小細胞肺癌の治療に関する研究が行われている。血管内皮増殖因子(VEGF)阻害剤などの血管新生阻害剤は、他剤との併用で、小細胞肺癌に効果を示す可能性がある、とHeymach医師は考える。MDアンダーソンがんセンターにおいて、進行小細胞肺癌の治療としてPARP阻害剤olaparib[オラパリブ]とVEGF阻害剤cediranib[セディラニブ]の併用を検討する臨床試験が現在準備中である。

 

別の有望な研究アプローチとして、まだ初期段階であるが、キメラ抗原受容体を用いてT細胞を改変する手法があり[「T細胞を改変し、B細胞性悪性腫瘍を治療する–Sleeping Beauty(眠れる森の美女)療法」OncoLog 2014年5月号を参照]、この手法を適用することでT細胞が小細胞肺癌を認識するようになる。MDアンダーソンがんセンター研究者の小児科教授Laurence Cooper医学博士と胸部/頭頸部腫瘍内科の博士研究員Warren Denning博士は、小細胞肺癌細胞に発現するCD56に結合するようT細胞を改変する研究に取り組んでいる。

 

「われわれは免疫療法が小細胞肺癌に効果を示すことも期待していますが、データはまだ得られていません」とHeymach医師は述べた。このアプローチに取り組んでいる研究者は、放射線腫瘍科准教授James Welsh医師と、胸部/頭頸部腫瘍内科助教のKathryn Gold医師およびErminia Massarelli医学博士である。Heymach医師は、一次治療の化学放射線療法で腫瘍量をできる限り減らしてから免疫療法薬を投与することで、免疫療法薬は最大の効果を発揮すると考える。進行小細胞肺癌患者を対象に標準的な化学放射線療法を実施後に免疫療法薬pembrolizumab[ペンブロリズマブ](別称MK-3475)[プログラム細胞死1受容体(PD-1)を標的とする薬剤]を投与する試験が計画中である。

 

Byers医師は、自研究グループのPARP研究と同様に、これらの研究アプローチも迅速に進展することを期待している。「われわれは、2012年に小細胞肺癌でのPARPの最初の発見を文献発表しました。トランスレーショナル医療に要した時間は短く、2012年に発見が公表されてから、2014年には臨床成績が報告されました」。

 

詳細情報に関しては、Lauren Byers医師(713-792-6363)またはJohn Heymach医師(713-792-6363)に電話連絡してください。MDアンダーソンがんセンターで実施中の肺癌患者を対象とした試験に関する詳細は、ホームページ(www.clinicaltrials.org)上の「View studies by cancer type」(がん種別の試験の閲覧)を選択して閲覧してください。

 

参考文献
Byers LA, Wang J, Nilsson MB, et al. Proteomic profiling identifies dysregulated pathways in small cell lung cancer and novel therapeutic targets including PARP1. Cancer Discov. 2012;2:798–811.
Wainberg ZA, Rafii S, Ramanathan RK, et al. Safety and antitumor activity of the PARP inhibitor BMN 673 in a phase I trial recruiting metastatic small cell lung cancer (SCLC) and germline BRCA-mutation carrier cancer patients [ASCO abstract 7522]. J Clin Oncol. 2014;32(suppl):5s.

— Bryan Tutt

 

【上段画像キャプション訳】
PARP阻害薬veliparib(ベリパリブ)と細胞傷害性薬剤テモゾロミドの投与前(左)と4週間投与後(右)に撮影したコンピュータ断層撮影(CT)所見にて小細胞肺癌(矢印)の縮小が観察される。画像提供:Lauren Byers医師

【下段画像キャプション訳】
PARP阻害薬BMN 673単剤の投与前(左)と4週間投与後(右)に撮影したコンピュータ断層撮影(CT)所見にて小細胞肺癌(矢印)の縮小が観察される。画像提供:Lauren Byers医師

 

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

原文掲載日

翻訳石岡優子、永瀬祐子

監修久保田 馨(呼吸器内科/日本医科大学付属病院)

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