ASCOが、第1相臨床試験への参加を阻む障壁を取り除くよう勧告

分子標的治療の時代における早期臨床試験への参加は、患者に大きな臨床的有用性をもたらす可能性がある

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、がん治療における新薬開発上、ヒトにおける初の試験である第1相臨床試験に多くの患者がアクセスできるようにし、またそのための教育を進めるよう勧告する提言を発表した。

発表された提言の中で、ASCOは、分子標的薬の開発や、治療が奏効するとみられる患者を特定するためのバイオマーカー検査、および新しい臨床試験デザインにより、現在、第1相臨床試験は数多くの患者に対し、これまでにない大きな利益をもたらす可能性のある治療選択肢であると強調し、がん研究およびがん治療における第1相臨床試験の重要性を訴えている。

「がん研究およびがん治療の第1相臨床試験の重大な役割」と題されたASCOの提言は、1997年の更新版としてJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。

「患者の腫瘍にみられる遺伝子異常をターゲットとする新薬と、それらの異常を特定する検査精度の向上、そして洗練された臨床試験デザインが整った今日、がんの第1相臨床試験は、これまで以上に患者に利益をもたらす確率が高くなっています」と、ASCO会長であるPeter Paul Yu医師は述べた。米国内科学会名誉上級会員(Fellow of American College of Physicians:FACP)、米国臨床腫瘍学会フェロー(Fellow of the American Society of Clinical Oncology:FASCO)でもある。

また、「患者が第1相試験だからと敬遠することのないように、また医師も、治療選択肢がなくなった患者だけでなく、積極的な抗癌治療の対象であるあいだも、患者に第1相試験の選択肢について知らせるべきです」と述べた。

ASCOの提言は、第1相臨床試験に参加した患者において生活の質(QOL)の向上、心理的メリット、直接的な医学的ベネフィットが認められるエビデンスをレビューしたものであるが、ASCOによると、そこには患者が試験に登録することを阻む大きな障害が存在するという。

長年にわたる障壁の一つであった保険償還にも触れている。例えば、2010年の患者保護並びに医療費負担適正化法(Patient Protection and Affordable Care Act[PPACA])では、民間保険会社は臨床試験に参加する患者の医療費を補償することを義務付けている。しかしながら、米公的保険制度メディケア(*高齢者対象)では明確に規定されておらず、全米でばらつきがある。しかも、PPACAの規定で適用外とされる米公的保険制度メディケイド(*低所得者対象)と通常の医療保険プランには医療費の補償義務はない。

ASCO癌研究委員会(ASCO Cancer Research Committee)のJeffrey S. Weber医学博士は次のように述べた。「不公平な法令により、第1相試験への患者の参加が妨げられている。そしてそれは患者が新治療を試みたり、自らの疾患に関する知見の蓄積に貢献しようとしたりする多くの機会を奪っている。メディケア・メディケイド・サービス・センター(Centers for Medicare and Medicaid Services[CMS])はこれらの格差に取り組み、ギャップを修正する必要があります」。

第1相臨床試験は、基礎研究から臨床現場へと繋ぐ重要なステップである。研究者らはこの試験を通じて、治験薬の最適な投与量や治療スケジュールを見出し、また治療効果を観察し、安全性を評価することができる。また、第1b相と呼ばれる第1相試験に付随する試験もあり、これは既存の治療薬、もしくは既存の治療薬や放射線療法に新薬を追加した場合の新たな治療スケジュールを評価する目的で実施される。

小児の第1相臨床試験実施の特異的な問題に特に言及していることに加え、ASCOの提言では、第1相試験参加への患者の意思決定をサポートするため、医療の提供や医療費制度、そして教育努力の拡大に向けた具体的なステップを推奨している。

ASCOの提言:

1 (a)メディケア全米補償規定(Medicare National Coverage Determination)は臨床試験参加者の医療費償還の要件として治療意図を挙げており、第1相臨床試験がそれに適合することを、メディケア・メディケイド医療センターが認めること。(b)各州のメディケイドプログラムは第1相を含む臨床試験に関連する医療費を保険の対象とすること。

2 (a)専門学会は、がんの第1相臨床試験に参加する患者の目的およびリスク‐ベネフィット評価を話し合う能力の向上を目的として、臨床医と研究者への教育に尽力すること。(b)専門学会および患者支援団体は、がんの第1相臨床試験の目的を患者に解説する教材の作成を強化すること。

3 専門学会は、保険償還に関する患者の理解不足や、または第1相臨床試験は他の治療選択肢がなくなった患者が考慮するものだという誤った概念などといった第1相試験への患者登録の障害を払拭する一環として臨床医および研究者向けの教材を強化すること。

4 (a)臨床試験担当者および試験依頼者は、第1相臨床試験実施計画書(プロトコル)に治療意図の文言を盛り込むこと。(b)臨床試験担当者および試験依頼者は、第1相臨床試験のデザインにおいて、治験薬を治療量以下で患者に投与することを可能な限り控えること。

5 バイオ医薬品製造会社は、直接小児がんに関わる新薬の場合、成人の後期第1相または早期第2相臨床試験の薬剤開発プログラムと同時期に、小児に対する第1相臨床試験を開始すること。

第1相臨床試験を含む臨床試験に関する患者向け情報はwww.cancer.net/clinicaltrials、www.cancer.net/blogを、ポリシー・ステートメント全文はwww.asco.org/advocacy/policy-statementsを参照。

翻訳担当者 野中 希

監修 下村昭彦(腫瘍内科、乳癌、早期開発/国立がん研究センター)

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