免疫チェックポイント阻害剤がさまざまな悪性疾患に抗腫瘍活性をもたらす

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)における最も興味深い特徴の1つは、ICIがさまざまな組織型の転移性癌に顕著な腫瘍反応をもたらすことである

議題: 腫瘍免疫学

2014年9月27日 –免疫チェックポイント阻害剤(ICI)における最も興味深い特徴の1つとして、ICIがさまざまな組織型の転移性癌に顕著な腫瘍反応をもたらすことを、Lillian L. Siu医師(プリンセス・マーガレット病院がん研究センター(カナダ、トロント)医学部教授兼腫瘍内科医)は発表した。「ICIの抗腫瘍活性は『免疫主導型』悪性腫瘍、具体的には黒色腫や腎細胞癌といった従来の境界線を越えて有効なようです」と、Siu氏は述べた。

Siu氏は悪性腫瘍に対するチェックポイント阻害に関して、第39回欧州臨床腫瘍学会(ESMO)総会(スペイン、マドリッド)で悪性腫瘍分野に関する最新研究成果の発表で解説した。

Siu氏は述べた。「現在までさまざまな種類の腫瘍に対して生じた顕著な抗腫瘍活性は、腫瘍学分野におけるICIに対する関心という真新しい波を生みました。単剤でまたは既存の治療法との併用で投与されるICIの将来性は無限大です」。

Siu氏は続けた。「癌に対抗するために癌患者の免疫系を活用する戦略は、腫瘍学における免疫療法にとって不可欠なものになり、また、ICIの登場に伴い十分な勢いを得ました。ICIは細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)ならびにプログラム細胞死1(PD-1)とそのリガンドであるPD-L1などの抑制型受容体を阻害し、ひいては、腫瘍特異的T細胞を活性化し、腫瘍細胞に対するエフェクター機能を発揮させます」。

Siu氏は承認済みまたは開発中のICIの概要を示しながら、述べた。「イピリムマブとペンブロリズマブは転移性悪性黒色腫の治療薬としてFDAによる承認を受けたたった2種のICIです。他の抗PD-1/PD-L1抗体が近い将来、おそらく最初に黒色腫に対して承認されることが期待されます。イピリムマブは抗CTLA4抗体として臨床用途で承認された唯一の抗体です。一方、トレメリムマブは現在第2~3相臨床開発試験を受けています。第1~3相にわたる臨床開発中の抗PD-1/PD-L1抗体が8種以上存在します。それは、PD-1を標的にするニボルマブ、 ペンブロリズマブ/MK-3475、ピジリズマブ、およびAMP-224、ならびに、PD-L1を標的にするBMS-935559、MEDI4736、MPDL3280A およびMSB0010718Cです。さらに、TIM3、LAG3、およびVISTAなどの他の免疫チェックポイントに対する阻害剤やOX40やCD137などの副刺激分子に対する阻害剤の前臨床開発や早期臨床開発が進んでいます」。

「ICIの臨床開発は悪性黒色腫の分野で最も進んでいます」とSiu氏は続けた。「FDAは2014年9月にイピリムマブを承認し、さらにイピリムマブによる前治療歴のある進行黒色腫患者の治療薬としてペンブロリズマブを迅速承認しました」。

進行黒色腫患者411人を対象とするペンブロリズマブ単剤投与試験で、RECIST v1.1によるペンブロリズマブの全奏効率は全患者で34%、イピリムマブ不応性患者で28%であった。第3相CheckMate-066試験は治療歴のないBRAF野生型進行黒色腫患者418人を対象とするニボルマブとダカルバジンを比較した臨床試験であったが、ニボルマブ投与患者群で全生存率が改善されたため、早期に中止された。黒色腫患者53人を対象とするICIであるイピリムマブ+ニボルマブの2剤併用療法に関する適応拡大第 1相試験は、現段階における試験結果として、全奏効率は42%、2年全生存率は79%という顕著な結果を示した。

「腎細胞癌におけるICIの有効性に関する結果は非常に有望です」と、Siu氏は述べた。血管新生阻害剤による前治療歴のある進行腎細胞癌患者168人を対象とするニボルマブ単剤療法に関する第2相CheckMate-010試験で、全奏効率は20%~22%であった。ニボルマブ+分子標的薬の併用療法とニボルマブ+イピリムマブの併用療法を評価する多群第1b相試験であるCheckMate-016試験で、ICI 2剤併用療法患者群(n=44)の全奏効率は43%~48%で、24週無増悪生存率は約65%であった。進行腎細胞癌患者を対象とするペンブロリズマブとパゾパニブの安全性と有効性を評価する第1/2相試験は現在進行中である(NCT02014636)。

Siu氏は黒色腫や腎細胞癌以外の腫瘍型を対象とするICIの臨床開発に関して議論した。これらの癌には、非小細胞肺癌、頭頸部癌、および膀胱癌が含まれる。Siu氏は述べた。「非小細胞肺癌において、ICI、特に抗PD-1/PD-L1抗体は大きな関心を集めています。抗PD-1/PD-L1抗体単剤療法の全奏効率は10%~24%でした。多くの臨床試験は、非小細胞肺癌の一次治療として、または、再発時において、ICIを評価することになります」。

再発性または転移性頭頸部扁平上皮癌において、ペンブロリズマブの全奏効率は20%であった。また、一部の患者においては、カットポイント(腫瘍細胞や間質での免疫組織化学染色率1%)を超えるPD-L1を発現する腫瘍がある患者の奏効率は高く(45.5%)、カットポイントを超えない患者では11.4%であった。同様に、さまざまな種類の腫瘍に対するMEDI4736試験の予備データでは、再発性または転移性頭頸部扁平上皮癌患者22人の全奏効率は14%であった。またその中で、PD-L1陽性腫瘍患者の奏効率は50%で、PD-L1陰性腫瘍患者の奏効率は6%であった。

Siu氏は述べた。「これらのデータは対象患者の数が少ない単群試験に由来するため、慎重に解釈する必要があります。ですが、これらの結果が、再発性または転移性頭頸部扁平上皮癌を対象とする計画済みまたは現行の第2、3相試験数件の開発を誘発しました。なお、この癌に対するFDAが承認した唯一の非細胞傷害性薬剤は、上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤であるセツキシマブです」。

黒色腫、腎細胞癌、非小細胞肺癌、尿路上皮膀胱癌、および他の種類の癌患者175人を対象とする抗PD-L1抗体MPDL3280Aの適応拡大第1相試験結果によると、全奏効率は21%であった。PD-L1陽性(免疫組織化学染色で2+か3+)尿路上皮膀胱癌患者30人で、全奏効率42%が達成された。PD-L1陰性(免疫組織化学染色で0か1+)患者35人で、全奏効率11%が報告された。

Siu氏はどの患者がICIによる治療効果を享受できるかについて述べた。「多くの製薬企業は(抗PD-1/PD-L1抗体*に対する)PD-L1検査薬などのコンパニオン診断検査薬の開発に全力を注いでいますが、現時点では癌患者がICIを選択できるようにするために有効なマーカーはありません。PD-L1陰性患者でも抗PD-1/PD-L1抗体による治療効果が認められる可能性があるため、これまで以上にICIによる治療戦略と試験デザインが複雑になりそうです」。


ICIが腫瘍学分野に浸透し続けているため、Siu氏はICIによる有害事象の可能性を警告した。Siu氏は述べた。「ICIはごく軽度で評価しにくい免疫関連有害事象を引き起こす可能性があります。また、慎重に管理しないと、ICIは重大で生命に関わる結果を引き起こす可能性があります」。

Siu氏らはICIに関する前向き臨床試験を系統的に再検討した。そして、CONSORT(臨床試験報告に関する統合基準)の害に関する拡張版声明に基づき改訂された品質スコアを使用して、有害事象の報告を評価した。Siu氏は述べた。「公表済みの臨床試験のデータの完全性と透明性を確保するために、免疫関連有害事象の忍容性、管理、および可逆性を説明する報告方法の標準化を私たちは推奨します。さらに、健康関連の生活の質に関する ICI由来免疫関連有害事象の影響を評価するため、患者による報告ツールの標準化を積極的に開発しています」。

Siu氏は第39回欧州臨床腫瘍学会総会で発表されたデータに関して解説しながら、述べた。「ICIを対象とする第1~3相試験に関する興味深い結果が発表されています。予想どおり、最も充実したデータが黒色腫に対するICIの開発から発表されました。イピリムマブ不応性進行黒色腫患者を対象とするICI(ニボルマブとペンブロリズマブ)と化学療法を比較する大規模ランダム化比較試験2件の最新結果が発表されています。術後補助療法では、第3期の皮膚黒色腫の完全切除後におけるイピリムマブとプラセボを比較する第3相EORTC 18071試験で、臨床的かつ統計学的に有意な無再発生存期間の延長が認められました。ただし、イピリムマブ投与患者では免疫関連有害事象の発生率が上昇し、その約半数は副作用によりイピリムマブ投与を中止しました(Eggermont et al. 1087O)」。

Siu氏は続けた。「第1b、2相試験で、頭頸部癌(Chow LBA31;Fury et al. 988 PD)、尿路上皮尿管癌(Plimack LBA23;Bellmunt et al 808O)、腎細胞癌(McDermott et al 809O;Motzer et al. 810O;Hammers 1050O)、および組織混合型癌(Segal et al 1058PD)などの、さまざまな固形腫瘍を対象とするICIの単剤投与や他の薬剤との併用投与の有効性が報告されています」。

Siu氏は結論づけた。「最終的に、ICI+細胞傷害性化学療法剤、または、ICI+分子標的薬(EGFR阻害剤や血管新生阻害剤など)の併用療法試験が積極的に実施されており、大部分の症例では安全性に関して認容可能とされています(Gettinger et al. 1054PD;Lieu et al. 1049O)」。

翻訳担当者 渡邊岳

監修 田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)

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