女優アンジェリーナ・ジョリーの告白によってカナダのがんセンターでのBRCA遺伝子検査の受診率が倍増か

<乳癌の予防、検診、治療における発展ー2014年乳癌シンポジウム主要研究ハイライト>
(折畳記事)

*この要約には抄録にはない最新データが記載されています

専門医の見解:
「有名人を襲う健康問題には、特別な関心が寄せられます。アンジェリーナ・ジョリーが与えた影響のすばらしい点は、乳癌の遺伝カウンセリングを見つけるための探索を、特にカウンセリングが最も重要である女性に対し、いかに強く促したかということです」とBreast Cancer Symposium Newsのプランニングチームメンバーで、本日の報道会見の司会者およびASCOの専門家委員を務めるHarold Burstein医師は述べた。「この事例では、アンジー(アンジェリーナ・ジョリーの愛称)が決断したことを共有することで、診察医と患者は今まで意識していなかった遺伝子検査の重要性に気づき、患者が行動を起こすきっかけにもなったのです」と語った。

カナダのオンタリオ州の大学がんセンターの記録を後方視的に検討したところ、アンジェリーナ・ジョリーがBRCA遺伝子変異のキャリアで乳癌と卵巣癌の強い家族歴があるため、予防的に両乳房切除手術を行ったことを公表した後、6カ月間を通じて遺伝カウンセリングへの紹介と遺伝子検査率がほぼ2倍になったことが明らかとなった(抄録44)。本センターで検査が増加し、同定されたBRCA1/2遺伝子変異キャリア数が倍増した。

「癌が発症する前にBRCA1/2遺伝子変異キャリアを早期発見することは、乳房切除術と卵巣摘出術など適切な予防治療によって乳癌および卵巣癌の診断数を低下させることに有用です。さらに、すでに乳癌と診断された女性およびBRCA陽性である女性に対し、予防治療が2次癌の発症リスクを低下させる可能性があります。これは小規模な研究ですが、アンジーのような有名人が健康問題に対して人々を動かし大きな影響を与えることが明らかとなっています」と、この研究の主著者であり、カナダのトロントにあるSunnybrook Odette Cancer Centreの医員であるJacques Raphael医師は述べた。

BRCA1とBRCA2遺伝子変異によって、乳癌および卵巣癌の発症リスクが著しく増加する。幸運にも、この2つの遺伝子変異はとてもまれであり、母集団1000人中2~4人しか遺伝子変異を保因していない。しかし、乳癌や卵巣癌の家族歴がある女性や、アシュケナージ系ユダヤ人を祖先に持つなどの特定の個人的リスク因子がある女性の場合は、BRCA遺伝子変異を持つ可能性が高い。

研究者らは、Odette Cancer Centreの家族性癌プログラムのデータを用いてアンジェリーナ・ジョリーが公表した際の2013年5月から前後6カ月の遺伝カウンセリング紹介数を比較した。診察医によって遺伝カウンセリングを紹介された女性の数は、アンジェリーナ・ジョリーの公表後6カ月で90%(483人から916人まで)増加し、遺伝子検査を受ける必要がある女性の数が105%増加した。Raphael医師は「アンジーの公表後、診察医はおそらく先を見越して患者を紹介し、それと同時に患者が遺伝カウンセリングの要請および調査をした可能性がありました」と述べた。

照会数が増加したにもかかわらず、照会の質(家族歴および既往歴をもとにカウンセリング後、実際に検査を受ける必要があるとされた照会女性の割合)は低下しなかった。これは、顕著な家族歴はないが関心のある女性のみならず、実際に高リスクにある女性がアンジェリーナ・ジョリーの公表により影響を受けたことを示している。研究者らによって、BRCA1/2キャリアの発見数が約2倍(同氏の公表前29人から公表後61人)になったこともわかった。

Raphael 医師によれば、アンジェリーナ・ジョリーの公表とそれに関するマスコミ報道は、他国においても遺伝カウンセリング増加に同様の影響を与えた可能性が高い。しかし、この効果が長続きするかどうかは明確ではない。同氏は、アンジェリーナ・ジョリーの公表1年後での照会と遺伝子検査比率を評価するため追跡調査を計画している。

この研究はSunnybrook Odette Cancer Centreの支援を受けて実施された。

翻訳担当者 米川恵理子

監修 石井一夫(ゲノム科学/東京農工大学)

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