終末期のスタチン投与中止は安全であり、患者のQOLを改善する

 患者、がんサバイバー、介護者のQOLを改善する新たな戦略が研究で明らかに(ASCO2014)(折畳記事)

余命1年以下の患者の場合、スタチン投与を中止することは安全であることが、連邦政府の資金提供を受け実施されたランダム化試験で明らかになった。スタチン投与の中止によって生存期間が短縮されることはなく、投薬負担および苦痛症状の軽減をはじめ多数の重要な便益がもたらされ、全般的なQOLが改善された。

「終末期に、生命を脅かす恐れのない慢性疾患に対し、投薬治療を継続する必要はないと多くの医師が論じています。しかしわれわれには、どの薬剤をいつ中止するかに関する指針がありません」と、本研究の筆頭著者Amy P. Abemethy 医学博士は述べた。Amy P. Abemethy氏はノース・カロライナ州ダラムにあるデューク大学医療センターの腫瘍内科医であり、緩和ケアの専門医である。「われわれの研究によって初めて、スタチン投与の中止は安全であり、患者のQOLを改善するということを示す証拠が得られたのです」。

末期疾患患者では、最後の1年に服用する薬剤の数が2倍になる。これは患者が1日10種類以上の薬剤を服用しているということであり、嚥下困難や食欲不振を生じていることが多い患者にとっては大きな負担である。さらに問題となるのが、副作用の蓄積であり、複数の薬剤をまとめて服用すると新たな副作用が生じる可能性がある。さらに、薬剤間相互作用が、個々の治療効果を低下させる可能性がある。

本試験は、3カ月以上スタチンを服用し、余命1カ月から1年の致死性疾患患者381人(49%が癌患者)を対象とした。スタチン系薬剤は心臓発作および脳卒中のリスクを低下させるために処方されるコレステロール低下薬である。スタチン系薬剤に最もよくみられる副作用は頭痛、睡眠困難、筋肉痛、眠気、めまいである。患者を、スタチン投与を継続する群と中止する群に無作為に割り付けた。

研究者らはスタチン投与の中止が安全であることを確認した。いずれの群にも、心血管系の合併症を発症した患者はほとんどみられなかった(投与を継続した群11人に対し中止した群13人)。60日以内の死亡率に有意な群間差はみられず(投与継続群23.8%に対し投与中止群20.3%)、スタチン投与を中止した群では、死に至るまでの期間中央値が長かった(190日に対し229日)。

スタチン投与を中止した群の方が、全般的なQOLがはるかに良好であり(標準評価尺度で約10%の改善)、症状の発現が少ない傾向にあった。このほか、スタチン投与を継続した患者と比較して、投薬総量も少なかった(10.8に対し10.1)。

研究者らは、本試験で対象となった患者群と同じく余命1年以下の全患者に対するスタチン投与を中止できれば、米国内で6億300万ドルの節減が可能であると推定している。しかしAbernethy医師は、スタチン投与の中止がどの患者にも適切であるわけではなく、個々の患者に応じた決断を下す必要があると述べた。

本研究は米国国立看護研究所(NINR)および米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けた。

ASCOの見解:「長期投与した薬剤を終末期に中止することに関する研究は限られています。人生の最終段階で、「波風を立てる」ことを誰も望まないため、将来の疾患予防に何ら便益が得られない薬剤投与を継続することが、この状況では一般に受け入れられているのです」と米国臨床腫瘍学会フェローであり同専門委であるPatricia Ganz医師は述べた。「しかし今われわれは、一部の薬剤投与を中止すること、具体的には広く処方されているスタチン系薬剤の場合、投与を中止することは安全であり、患者のQOLが改善されることを示す証拠を得たのです」。

翻訳担当者 萬田美佐

監修 野長瀬祥兼(社会保険紀南病院)

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