OncoLog 2014年5月号◆新たな治療でALアミロイドーシス患者の転帰改善に期待

MDアンダーソン OncoLog 2014年5月号(Volume 59 / Number 5)

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新たな治療でALアミロイドーシス患者の転帰改善に期待

死に至る可能性もある稀少疾患であるALアミロイドーシスには、認可された治療法がない。事実上の「標準」治療はいずれも既存薬の適応外処方であり、それらの有効性を比較する臨床試験はほとんどない。

しかしながら、最近、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者は、ALアミロイドーシスに対し、これまでにない組み合わせの多剤併用療法の臨床試験、さらには新たな試験薬による治療の臨床試験を開始した。もし臨床試験が成功すれば、この新薬は、ALアミロイドーシス治療を適応として米国食品医薬品局(FDA)に認可される初の医薬品となる見込みである。

原因と症状

ALアミロイドーシスは、骨髄でクローン性形質細胞が異常なκあるいはλ軽鎖を生成することにより発症する。これらの軽鎖たんぱく質はアミロイド線維を形成し、これが単一または複数の臓器に蓄積して障害を引き起こす。最も頻繁に侵される臓器は腎臓と心臓であるが、アミロイド線維は脳組織以外のあらゆる型の組織に蓄積することが知られている。

ALアミロイドーシス患者によくある死因は、心臓病である。「アミロイド沈着は心臓壁の肥厚化を起こすことがあります。この肥厚化は心機能を低下させ、不整脈を起こします」とリンパ腫骨髄腫部門教授であるDr. Robert Orlowski医学博士は言う。

残念なことに、心不全の症状が出るまでALアミロイドーシスの徴候が何もないこともある。体液貯留、貧血、血清クレアチニン濃度の上昇、タンパク尿などの腎障害の症状もまた、ALアミロイドーシスの最初の徴候となる可能性がある。

「病気の経過の早期に、ALアミロイドーシスであると認識することが重要です。臓器に障害が出ると治療がいっそう困難になるので、その前に気づくことが重要なのです」とリンパ腫骨髄腫部門の助教であるJatin Shah医師は言う。ALアミロイドーシスである可能性を示唆するのは、たとえば腎不全や心不全による体液貯留など、定常的な身体所見検査における臓器障害の徴候や、血清クレアチニン濃度の上昇やタンパク尿などの検査所見などである。

多発性骨髄腫の患者についても、ALアミロイドーシスの可能性を疑うべきである。ALアミロイドーシス患者の大半は骨髄腫ではないが、骨髄腫患者の10%-15%にALアミロイドーシスが発生する。このため、臓器障害があるかもしれない徴候を有する多発性骨髄腫患者は全員、ALアミロイドーシスの有無について検査することを、Shah医師は推奨する。

ALアミロイドーシスは、典型的には、〔単〕クローン性形質細胞が骨髄吸引液に存在し、アミロイド線維が組織生検に存在にすることによって診断される。組織は、腹部脂肪パッドまたは疑わしい臓器の針吸引によって得られる。

標準治療

ALアミロイドーシスと骨髄腫はいずれも骨髄の異常形質細胞に由来するので、骨髄腫に有効な治療がALアミロイドーシスにも応用されてきた。これらの治療法には幹細胞移植、プロテアソーム阻害剤のボルテゾミブ、副腎皮質ステロイド剤のデキサメタゾン、免疫調整剤のサリドマイドなどとそのアナログ製剤のレナリドミド、ポマリドミド、アルキル化剤のメルファランやシクロホスファミドなどがある。

初めてALアミロイドーシスと診断された場合の標準治療にはメルファラン/デキサメタゾン併用療法、またはこれに追加するか単独で行う自家幹細胞移植がある。しかし「幹細胞移植を行う場合と行わない場合で、どちらがより効果的かはわかっていません。というのはALアミロイドーシスが頻発する疾患ではないからです」とOrlowski医師は述べた。

ALアミロイドーシスの患者数が少ないことから、ALアミロイドーシスの患者を対象としたランダム化臨床試験はほとんど実施されていない。フランスで実施されたランダム化試験では、幹細胞移植群と低用量メルファラン/デキサメタゾン併用群を比較したが、幹細胞移植群の生存率や奏効率における優位性は認められなかった。にもかかわらず、Orlowski医師は、たとえば腎臓に障害が生じているといった特定の病態を有する患者では、幹細胞移植が有益であると言う。「通常は、幹細胞移植を考慮します。腫瘍量を減らすため、移植前に化学療法を実施することもあります」。

ALアミロイドーシスの主な治療目的は、アミロイドタンパクを産生する骨髄の異常形質細胞をなくすことである。ひとたびこのタンパク質が産生されなくなれば、障害を受けた臓器に沈着したアミロイド線維はある程度吸収されていく。

完全寛解は血清アミロイドタンパクの消失で診断され、血液学的完全奏効ともいう。標準治療による血液学的完全奏効率は約60%である。しかし、Orlowski医師は「標準治療によって寛解期間が延長されても、大多数のALアミロイドーシス患者は治ったわけではありません」と述べた。

もうひとつ治療効果の重要な評価基準に臓器機能がある。臓器機能は、ALアミロイドーシスに対する標準治療を受けた患者の30%–40%で改善するが、臓器の回復には時間を要し、障害を受けた臓器やその期間の長さによって異なる。Shah医師は、臓器機能が回復するには2年かかり得ると述べた。

集学的治療

「ALアミロイドーシスの患者はしばしば衰弱しており治療困難になりがちです。多くの場合化学療法への忍容性が低く、多数の合併症を併発します」とShah医師は言った。障害を受ける可能性のある臓器は多岐にわたるため、アミロイドーシス患者の治療は集学的に行う必要がある。

Orlowski医師も、同じ意見である。ALアミロイドーシス患者は、アミロイドーシスを治療している骨髄腫専門医が、腎臓、循環器、その他治療が必要になるかもしれない臓器の専門家とともに治療にあたっているような大規規模医療機関へ紹介されることが望ましい。「ALアミロイドーシス患者が最善の治療を受けるためにはこれら専門家からの情報が重要です」。

臨床試験

ALアミロイドーシスの新規治療に関する臨床試験がMDアンダーソンにおいて実施されている。

ひとつめは、MDアンダーソン単独で実施されている第1/2相臨床試験で、初めてALアミロイドーシスと診断された患者を対象に、メルファランとデキサメタゾンを1-4日目に投与、ポマリドミドを1-21日目に投与し、28日を1サイクルとした。Orlowski医師が本試験の責任医師を務め「ポマリドミドとデキサメタゾンの併用はアミロイドーシスの再発に効果を示しています。したがって、初めて診断された患者に対する標準治療、メルファランとデキサメタゾン併用へのポマリドミドの追加は有効であろうと考えます」と述べた。

本試験での薬剤の組み合わせは幹細胞移植の障害とならない。移植適応患者はこの薬剤の併用療法を2サイクル行い、その後移植を受けた。移植に適応がなく、これらの薬剤に反応し忍容性のある患者は、この治療を延長し、最終的には維持量に変更した。

ふたつめは、第3相国際臨床試験で、患者は試験薬の経口プロテアソーム阻害薬イクサゾミブ(MLN9708)とデキサメタゾンの併用、または医師の選択でデキサメタゾン単独、あるいはデキサメタゾンにメルファラン、シクロホスファミド、サリドマイド、レナリドミドのいずれかを併用した。Shah医師は本試験のMDアンダーソンの責任医師であり、本試験により、イクサゾミブはALアミロイドーシスの治療に対するFDAの承認を得る可能性があると述べた。

「ALアミロイドーシスの患者が少ないために、試験を完了するには多施設学術機関による多大な努力と関与が必要です」とShah医師は述べた。少数の患者集団のための大規模試験を管理することが困難であることが、ALアミロイドーシスの治療に承認された既存薬が存在しない主な理由である。

いずれの試験でも、試験薬の併用療法により寛解期間の延長が期待される。それ以外にも、患者が経口で服用できるため簡便であるという利点がある。「両試験の薬剤はすべて経口投与なので、静注や皮下注のように患者がわざわざ病院へ行く必要はありません」とOrlowski医師は述べた。

— Bryan Tutt

【画像キャプション訳】
コンゴ赤染色による蛍光顕微鏡検査法で観察した膵臓組織検体中のアミロイド線維。緑色に明るく光って見える。
画像提供:Dr. Gregg Staerkel氏

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翻訳担当者 盛井有美子、武内優子

監修 吉原 哲(血液内科/コロンビア大学CCTI)

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