HER2陽性の早期乳癌患者に対し、トラスツズマブ補助療法にラパチニブを追加しても転帰は改善せず

大規模な第III相臨床試験ALTTO(Adjuvant Lapatinib and/or Trastuzumab Treatment Optimisation)の結果、HER2を標的とした2種の薬剤であるトラスツズマブとラパチニブを併用する術後補助療法では、HER2陽性早期乳癌の患者においてトラスツズマブ単独による標準治療よりも高い効果は得られないことが示唆された。本試験では4年無病生存率は86~88%の範囲であり、治療群間で統計的有意差は認められなかった。

「HER2陽性早期乳癌の患者さんのほとんどがトラスツズマブによる標準治療で元気に過ごされていることを嬉しく思います」本試験報告の上席著者である、フロリダ州ジャクソンビルのメイヨークリニック副支部長Edith A. Perez医師は述べる。「しかし、ラパチニブを追加しても効果が伸びないことには驚きました。小規模の試験でこの2種の薬剤を術前に併用したときには有望であったからです。この試験から得られた重要な教訓は、新規の治療方法の価値を十分に評価して理解するためには特定の疾患状況におけるしっかりした臨床試験が必要だということです」。

トラスツズマブと化学療法による術後療法で、HER2陽性早期乳癌の患者における癌の再発および死亡のリスクは有意に低減される。しかし、患者の約20%は10年以内に再発し、通常は身体の別の部位に癌が発症する。この臨床試験の目標は、HER2経路を阻害する薬剤を1剤ではなく2剤用いて再発率をさらに低減することであった。

本試験-HER2陽性乳癌を対象とした過去最大の補助療法試験-は44カ国946医療施設で実施され、新規に診断された早期乳癌患者8,381人が登録した。手術後、患者はラパチニブ+トラスツズマブを投与する治療(並行群)、トラスツズマブの後にラパチニブを投与する治療(逐次群)およびトラスツズマブのみを投与する治療にランダムに割り付けられた。患者の大半(4,613人)は化学療法の終了後に抗HER2治療を受け、残りの患者は化学療法と同時に抗HER2治療を受け、その後もHER2治療を継続した。ホルモン受容体陽性癌の患者は、該当するホルモン療法も受けた。

追跡期間中央値4.5年の時点で、ラパチニブ+トラスツズマブによる治療群(逐次および並行のいずれも)ではトラスツズマブ単独群と比較して無病生存のイベント(侵襲性乳癌の再発、第二の原発癌の発症、あるいは原因を問わない死亡と定義)リスクが数値的に低下したが、この結果に統計的有意性は認められなかった。4年無病生存率は3治療群間で同等(トラスツズマブ群86%、並行群88%、および逐次群87%)であった。

トラスツズマブ単剤療法と比較して、併用治療では下痢、皮膚発疹および肝障害などの特定の副作用の発現率が非常に高かった。

この試験から得られた重要な結果には他に、重篤な心障害副作用の発現率が低かったことがある。近年、アントラサイクリン化学療法は広範囲に研究されているにもかかわらず、多くの医師は心毒性の懸念からアントラサイクリン化学療法(ドキソルビシンなど)の使用をやめ、代わりにTCH(ドセタキセル、カルボプラチン、トラスツズマブ)レジメンを使用している。しかし、ALTTO試験では患者の95%がアントラサイクリン化学療法を受けたが、うっ血性心不全の発現率は1%未満であった。本試験で安全性が良好であったことから、乳癌についての患者の転帰と合わせ、HER2陽性早期乳癌の患者においてアントラサイクリンを用いた化学療法の後にトラスツズマブを投与することは安全であるとさらに請け合うことができる。

この試験では、乳癌の生物学に対する理解を深め、なぜ再発する患者としない患者がいるのかの知見を得るために役立つ血液や組織の検体や大規模な収集を行った。

この試験に先立って行われたはるかに小規模なNeoALTTO試験では、手術前にラパチニブとトラスツズマブの2剤による治療(術前補助療法と呼ばれる)を実施し、病理学的な完全奏効(手術時点で乳房およびリンパ節に侵襲性癌が認められない)の割合がトラスツズマブ単独治療と比較して倍となった。しかし、ALTTO試験では、2剤による治療はトラスツズマブ単独の抗HER2治療と比較して乳房組織での奏効率は改善するものの、長期的な転帰改善にはつながらなかった。ALTTO試験は、ある特定の治療を他と比較する際に長期的な治療効果の代理マーカーとして乳房における病理学的な完全奏効を指標とすることに疑問を投げかけたため、今後の乳癌臨床試験のデザインに影響を及ぼすと考えられる。

本試験は、GlaxoSmithKline社、ならびに米国国立癌研究所と国立衛生研究所の助成を受けた。

ASCOの見解:

「この結果は、適切にデザインされた臨床試験を実施することの重要性を示すよい例です」ASCO会長のClifford A. Hudis医師は述べる。「この例では、薬剤を術前に併用して乳房組織での奏効率が上昇しても、そこから無病生存を予測することはできませんでした。別の薬剤を用いた他の臨床試験では違う結論が得られるかもしれませんが、現時点でこの試験から得られたのとは、HER2陽性乳癌においてトラスツズマブは安全性が良好で有効な補助療法であることの再確認です」。
抄録の全文(英語)はこちら

翻訳担当者 石岡優子

監修 林 正樹 (血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...