T-DM1は多数の前治療歴のあるHER2陽性進行性乳癌の生存期間を延長する

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アムステルダムで開かれた2013年ESMOヨーロッパ臨床腫瘍学会で発表された研究結果によると、トラスツズマブ エムタンシン(遺伝子組換え)。T-DM1(商品名:Kadcyla[カドサイラ])として知られているは、2種類以上の抗HER2薬を含むレジメン*による治療を受けたことのあるHER2陽性進行乳癌の女性において、無増悪生存期間を延ばした。(*レジメン:治療メニュー。抗癌剤や分子標的薬の組み合わせ方のこと。)

HER2は、正常な細胞成長に関与するタンパク質である。乳癌の約20%~25%おいてHER2タンパクの発現量の増加が認められており、この発現量の増加が癌細胞の増殖と生存期間に関与している。トラスツズマブ(ハーセプチン)のようなHER2標的薬はHER2陽性乳癌の女性の予後を劇的に良くしてきたが、研究者達は新しい治療法を探し続けている。

T-DM1は抗体薬物複合体と呼ばれる新しいクラスの薬の仲間で、細胞傷害性抗癌剤と抗体との複合体から成る。これはトラスツズマブ(T)と抗癌剤(エムタンシンまたはDM1)の結合体であり、癌細胞の成長を妨げる。同薬はトラスツズマブとDM1を直接HER2陽性細胞まで到達させることで、他の体の部位を抗癌剤にさらすことを防いでいる。

転移性乳癌に対して2種類以上のHER2(に直接作用する)薬を含むレジメンによる治療がされた後は、進行した患者へ対する明確な治療基準はない。TH3RESAは、少なくとも2種類のHER2薬の治療を以前に受けたことのある進行乳癌602人の患者で行われた第3相試験である。患者は、2対1の割合でカドサイラの投与群と主治医が選択する化学療法群(83%がトラスツズマブを含んだレジメンで、17%が化学療法を受けた)に無作為に割りふられた。治療は病勢が進行するまで続けられ、患者はその時にカドサイラへ変更する選択肢が認められた。

カドサイラ群の患者は無増悪生存期間中央値が6.2カ月であり、これは対照群の患者の3.3カ月のおよそ2倍である。これはカドサイラが有益であるかなり重要な相違点である。事前に設定されたサブグループ解析によると、サブグループ(年齢、居住地、人種、パフォーマンスステータス、腫瘍の特徴、内臓疾患)に関わらず、カドサイラは一貫した、およそ2倍の無増悪生存期間を示した。

全生存期間の中央値はカドサイラ群ではいまだ到達していない。対照群では、全生存期間の中央値は40.9カ月であった。これは、カドサイラが生存期間に有利に働く可能性を示しているが、長期にわたる裏付けが必要である。最終的な生存期間の結果は2015年に発表される予定である。

グレード3またはそれ以上の有害事象は、T-DM1群(32.3%)よりも対照群(43.5%)でより発現率が高かった。有害事象による治療の途中棄権は対照群で10.9%、T-DM1群で6.7%であった。T-DM1は、すでに2つ以上のHER2薬による投薬治療を受けた転移を伴うHER2陽性乳癌の患者において、無増悪生存期間を延ばすのに統計的に有意であり、またグレード3の有害事象は他の治療法に比べて少ないと、研究者達は結論付けた。

参考文献:
Wildiers H, Kim SB, Gonzalez-Martin A, et al. T-DM1 for HER2-positive metastatic breast cancer (MBC): Primary results from TH3RESA, a phase 3 study of T-DM1 vs treatment of physician’s choice. Presented at the 38th Congress of the European Society for Medical Oncology (ESMO), Amsterdam, Netherlands, September 27-October 1, 2013. Abstract 15.


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翻訳担当者 飯塚佳世

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部付属病院)

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