OncoLog2013年5月号◆ロボット外科手術で乳房再建のための組織採取が低侵襲化 | 海外がん医療情報リファレンス

OncoLog2013年5月号◆ロボット外科手術で乳房再建のための組織採取が低侵襲化

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OncoLog2013年5月号◆ロボット外科手術で乳房再建のための組織採取が低侵襲化

MDアンダーソンがんセンター月刊OncoLog誌2013年5月号

MDアンダーソン OncoLog 2013年5月号(Volume 58 / Number 5)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

ロボット外科手術で乳房再建のための組織採取が低侵襲化

外科医が新たな低侵襲ロボット手術を用いることで、従来の方法に比べ、乳房再建のための広背筋皮弁採取による瘢痕や不快感を少なくすることができる。

 

全乳房切除術または部分的乳房切除術後の乳房再建術では、有茎広背筋皮弁を用いることが多い。広背筋は大きく平坦で、人工乳房を覆うことが可能であり、また失われた広背筋の機能を他の背部の筋肉が補完できることから、乳房再建術に用いるのに理想的な筋肉である。しかし、従来の広背筋採取法では、外科医は再建術に皮膚が必要でなくても、筋肉に到達するために背中の皮膚および脂肪を切開することから、患者の背中に大きな瘢痕(15~40 cm)を残すことになる。こうした大きくて目立つ瘢痕に対する患者の審美的な懸念に加え、瘢痕の周囲が拘縮して疼痛が生じたり、運動を制限したりすることがある。

 

これらの問題に対処するため、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター形成外科の助教であるJesse C.Selber医師は、従来の術式に付き物の著しい瘢痕を残さずに広背筋を採取するロボット外科手術を開発した。「どんな専門家よりも最も整容性に気を遣うべき形成外科医が、自分が行う手技の侵襲性を最小化するツールを持っていなければ意味がありません」と彼は述べた。

 

ロボット手術

Selber医師が開発したロボット手術では、腋窩を約5cmにわたって切開する。患者がセンチネルリンパ節生検を受けている場合、新たな切開箇所や瘢痕を作るのを避けるために、生検切開部位を再利用する。

 

ロボットアームが三つのポートを通して患者に挿入される。第一のポートは腋窩切開部の下端に、残りの二つのポートは広背筋の端から12~13cm手前に第一のポートより小さな切開を施して設置する。ロボットに付属する内視鏡カメラが幅約1cmの中央のポートから挿入される。他の二つのポートはいずれも幅約8mmであり、筋肉の切開が可能な場所までロボットアームを通り抜けさせることができる。皮弁の採取に用いる器具は、Cadiere把持鉗子、モノポーラー剪刀および電子焼灼クランプである。

 

外科医は患者から数フィート離れたコンソールを通じてロボットアームの動きを制御する。カメラフィードが三次元の高解像度画像を映し出し、外科医が広背筋を生着させるのに必要な血管を識別しその損傷を避けることを可能にする。出血を最小限に抑え、くもの巣状の胸腰筋膜を切開するために電気焼灼クランプを使用する。

 

外科医は周辺組織から広背筋を切り離すと、腋窩部を支点として血液供給路と結合したままの状態で、有茎皮弁を背中から乳房へと皮下をくぐらせ移動させる。

 

長所と限界

Selber医師は、外側乳腺腫瘍摘出術および乳頭温存乳房切除術を受けた乳癌患者、ならびに、放射線治療を予定しており永久人工乳房の保護が必要なティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)挿入患者に、この外科手術を実施している。また、頭皮または四肢再建術を受ける患者の広背筋遊離皮弁採取にもこのロボット手技を用いている。

 

Selber医師はこれまでロボットによる広背筋皮弁採取を十数件実施してきたが、ロボット特有の合併症には遭遇しておらず、皮弁に損傷が生じたことも、開放的手術への切り替えが必要になったこともない。

 

手術室でのロボット装置の使用機会が限られていること、また装置の効果的な使い方を習得するのが困難であることから、ロボット形成手術の普及は遅れている。外科医はロボットの操作方法を学ぶのに加え、機械が最適に機能しない場合や、手術の手順に変更が必要な状況となった場合にその問題を解決できなければならない。Selber医師は自分の技術を完全なものにするために研究室で2年間ロボット形成外科手術の手技を練習し、その後患者への実施を試みた。手術に数回成功した後で、Selber医師は他の外科医に対しこの術式を用いるトレーニングを開始した。

 

これまでのところ、Selber医師は自身の同僚に加えてMDアンダーソンがんセンターの他の3人の形成外科医にロボット組織採取法のトレーニングを開始している。ロボットのデュアルコンソールシステムによって、トレーニング中の外科医は術者が見ている画像と全く同じ画像を見ることができる。また、手術器具の制御を交互に切り替えてトレーニングを受ける外科医の責任を次第に増やしていくことも可能である。Selber医師の経験では、外科医が練習を重ねることで、ロボットによる採取の所要時間が2時間以上から約1時間へと短縮するという。

 

米国食品医薬品局(FDA)は、このロボット外科手術装置を乳房再建術の組織採取に使用することをまだ承認していない。このため、患者にはロボット外科手術装置の使用が適用外であることが伝えられる。しかし、Selber医師はこのロボット皮弁採取法が安全かつ有効であることを実証してきており、MDアンダーソンがんセンターと共に、この術式の承認への道を切り開く臨床試験を開始することができるよう、FDAに対し治験用医療機器の適用免除申請を提出した。

 

Selber医師はこのロボットの精度および光学性能の高さを利用した顕微手術の手技も開発中である。これには、微小血管の縫合やリンパ節の吻合のためのロボット手技が含まれている。

 

【画像キャプション訳】
(上段) Jesse Selber医師(右)が、低侵襲の広背筋皮弁採取と乳房再建術を実施するために、外科医たちがロボットを適切な場所に配置するのを見守る。
(中段) 乳房再建のための組織皮弁採取手技では、ロボット器具と内視鏡カメラが三つの小切開ポートから挿入される。
(下段) 三次元光学によって、ここに示した広背筋皮弁採取のような繊細なロボット外科手術の実施が容易となる。ロボットのデュアルコントロール機能により、1人の外科医がロボット手術ツールを操作し、その間にもう1人が指示を与えたり、青色の矢印を使って重要な構造を指し示したりすることができる。

ロボット支援外科手術

ロボット外科手術に用いられる多くの手技は、米国航空宇宙局が宇宙空間に滞在中の宇宙飛行士を治療することを目的として、また国防高等研究計画局が兵士に遠隔外科治療を行うことを目的として開発したものであった。しかし、両政府機関はこの技術の研究の中止を決定し、代わりに複数の民間企業がその開発を継続した。

2000年に米国食品医薬品局(FDA)が承認したダ・ヴィンチ外科手術システムは、現在世界で最も広く使われているロボット外科手術システムである。ダ・ヴィンチシステムはMDアンダーソンがんセンターを含む2000を超える病院で使用されている。医師たちはこの技術を前立腺切除術(OncoLog 2012年3月号を参照)、婦人科手術および心臓弁修復術などの数多くの手技に適用してきた。

ロボットとしてよく取り上げられるものの、このシステムは常に外科医の制御下にある。「これはあくまでロボットであり、私のようにはいきません」と、多くのロボット外科手術を行ってきたJesse C. Selber医師は言う。「ロボットには自律性がありません。他の手術器具と同様、外科医がコントロールする道具なのです」。

このロボットは手術の視感度および精度を高め、長時間手術中の外科医の疲労を低減する。ロボットに装備されたカメラによって高解像度の三次元画像が10倍の拡大率で得られ、外科医は手術中に顕微鏡レベルの細部をはっきりと見ることができる。ロボットコンソールが外科医の手を動きをロボット器具に再現する。5:1のモーションスケーリング(縮尺機能)が外科医の手の動きを縮小して伝達し、術野での正確な動きを可能にする。また、外科医がクランプやその他の器具の圧力を制御することもできる。これらの強力で高感度のツールを用いることで、ロボットが睫毛ほどの大きさの針を揺れることなく把持し、微小血管を縫い合わせることが可能になる。

コンソールとロボットは遠隔で接続されるため、外科医が他の病院でロボットを使って遠隔手術を行うことも可能である。最初の大西洋横断外科手術であるOperation Lindberghは2001年に実施され、ニューヨークの外科医がロボットと遠隔通信技術を用い、フランスのストラスブールにいる患者に胆嚢摘出術を行うことに成功した。しかしFDAは、外科医が物理的に存在しない状況で予測できない緊急事態が起きた場合の対応方法に関する懸念から、こうした遠隔外科手術を承認していない。Selber医師は、この種の外科手術がいつの日か承認されると期待している。Selber医師によれば、適切なトレーニングにより、緊急時には現場の手術チームがロボット外科手術を中止し、従来の術式で手術を続行することが可能であるという。

 

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

原文掲載日

翻訳原 恵美子

監修原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター)

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