2013/01/08号◆スポットライト「化学療法はどのように作用するか、その神話を崩す」 | 海外がん医療情報リファレンス

2013/01/08号◆スポットライト「化学療法はどのように作用するか、その神話を崩す」

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2013/01/08号◆スポットライト「化学療法はどのように作用するか、その神話を崩す」

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NCI Cancer Bulletin2013年1月8日号(Volume 10 / Number 1)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

化学療法はどのように作用するか、その神話を崩す

Dr. Anthony Letai氏は、彼の母親が進行性大腸癌と診断された時、医学部の1年生になったばかりであった。医師らが母親の病気の治療を開始した時に母親が質問したことに対して、息子はいまだ答えを探している。「化学療法って、どんなふうに効くの?」

化学療法は急速に分裂する細胞を殺します、と母親の担当医は説明した。その当時、Letai氏はこの一般的に持たれている考え方は「曖昧で満足感が得られないもの」と思った。細胞生物学についてより深く学び、ダナファーバー癌研究所で研究室を構えるようになると、Letai氏の不満は積もった。答えが見つからないのだ。たとえば、ある種の癌は化学療法に反応するのに何故その他の種類の癌は反応しないのか。

「急速に増殖して化学療法に耐性があるように見える悪性の癌の例が多い一方で、増殖の速度が遅いのに化学療法に良く反応する癌の例も多くあります」と先日Letai氏は述べた。書籍やウェブページでは、急速に分裂する細胞を標的とすることで化学療法は作用すると謳うが、実際は、この考えを支持するエビデンスはわずかである。

「化学療法によって、たくさんの人々が治癒しました。しかし、われわれは、なぜ作用するのかわからないのです」とLetai氏は述べた。

細胞死のプロファイリング

しかし、ここ数年、どのように化学療法が作用するのかについて、細胞のエネルギー生産小器官であるミトコンドリアの研究から、別の説明が浮上してきた。ミトコンドリアはアポトーシスとして知られている細胞死にも関与することが判明した。この生物学的プロセスは、細胞に対して、次世代の細胞に異常を受け継がず、むしろ「自滅させる」。

この作用を手掛かりとして、Letai氏らは最近、ある種の癌細胞では、他の癌細胞よりアポトーシスにより自滅する「準備ができている」ことを、少なくとも研究室レベルで立証した。この準備状態の違い-研究者らが言う「プライミング(priming)」-は、化学療法に対し患者が持つ異なる反応の説明となり得る、と研究者らは結論づけた。

研究者らは、急性骨髄性白血病(AML)に対する治療を受けた患者から採取し保存していた細胞のプロファイリングから知見を得た。すなわち「(化学療法後)一番経過の良かった患者は、最もプライミングされた白血病細胞を持つ患者であったことがわかりました。これらの患者は化学療法後、寛解の状態にある患者です」とLetai氏は述べた。

AML患者の多くは化学療法に反応し再燃も認めないが、一方で化学療法に全く反応しないか、反応しても結局は再燃する患者もいる。Cell誌に掲載された新たな知見は、プライミングの違いが、化学療法に対する患者の初期反応および再燃リスクを決定することを示唆する。

知識の拡大

Cell誌の論文は、「細胞死におけるミトコンドリアの重要な役割」について私たちの知識を広げてくれる、とアポトーシスを研究するが今回の研究には参加しなかった聖ジュード小児研究病院のDr. Douglas Green氏はコメントした。

「癌細胞は細胞死に対して異なるプライミングを示し、これらの違いは従来の治療法に対する臨床反応と相関します」とGreen氏は電子メールで述べた。経路の構成成分を理解するためにさらなる研究が必要であるが、今後の研究はこの経路に影響を与える新たな薬剤に繋がる可能性がある、とGreen氏はつけ加えた。

Cell誌の研究において、Letai氏は癌細胞のプライミングを増大させるために既存の薬剤を使用した。それにより、化学療法後に細胞が死滅しやすくなった。この知見は、いつか化学療法に対して敏感ではない癌細胞を持つ患者を特定し、その細胞が反応するように変えることが可能になるかもしれないことを示す。

「この研究は概念の実証でした。どのようにうまくこのプロファイリングが患者の転帰の予測に役立つかを調べる前向き研究が必要です」と、報告書の筆頭著者であるDr. Thanh-Trang Vo氏は述べた。

新たな試験

AMLがこの研究の焦点ではあるものの、研究者らは以前にミトコンドリアのプライミングと、卵巣癌、多発性骨髄腫、急性リンパ性白血病などの癌における化学療法に対する感受性を関連付けたことがある。

現在の研究を可能とした新しい考え方は、BH3プロファイリングとして知られる試験法である。その試験法は、細胞死経路に関連するタンパク質の活性を基に、細胞が自滅の閾値にどの程度近いかを測定する。患者の造血幹細胞よりさらにプライミングされている癌細胞は、化学療法にうまく反応する可能性が最も高いことを研究者らは見出した。

フロリダ、マイアミ大学のシルベスター総合がんセンターの所長であるDr. Stephen Nimer氏は、その研究を「明快な回答」と呼んだ。「平均的な患者の癌が基本的な化学療法に抵抗性となる理由を理解するのに役立つさらなる研究が必要です。そして、この研究はその理由を解明する一歩になります」とNimer氏は続けた。

Cell誌の論文の結果を確認する追加試験が進行中である、とガブリエル癌研究エンジェル財団の科学アドバイザーでもあるNimer氏は述べた。財団は近頃、Letai氏とスローンケタリング記念がんセンターのDr. Scott Armstrong氏らにこの研究に対する助成金を提供した。

複雑性のレベル

多細胞有機体では、ミトコンドリアにおける細胞死経路は安全装置のようなものである、と現在カリフォルニア大学アーバイン校で博士研究員をしているVo氏は説明した。「もし細胞が生存に適さなくなると、その細胞の機能不全が有機体全体に損傷を与えることを回避するためにミトコンドリア内の自滅経路を活性化できる」。

アポトーシスの生物学的な複雑性は、どれか一つのタンパク質では研究者が必要とした情報の解明に役立たなかったという事実によって説明されると、この研究には関与しなかったが薬剤の耐性を研究するNCI癌研究センターのDr. Tito Fojo氏は述べた。

「研究者、臨床医として、タンパク質など常に一種類だけを測定し、その後、その試験法に基づき患者のために薬剤を選択したいと思ってしまいます。しかし、これは現実的ではありません。なぜなら、細胞はそんなに単純なものではないからです」と続けた。

どのように化学療法が癌細胞を死滅させるかも、また複雑である、とFojo氏は述べた。これらの薬剤が急速に分裂する細胞を死滅させるという考え方は、それが立証されたことがないにもかかわらず広く行き渡っている、とFojo氏は加えた。「私はこのことについて四六時中、人々が話題にしているのを耳にします。そして、私はその人たちに『その根拠はどこにありますか?』と常に尋ねます」。

現在の研究は、異なる遺伝子群が癌細胞の増殖と化学療法に対する感受性に関連することを示す。

「薬剤の感受性は増殖と全く関連がないことがはっきりしています。これらは細胞の2つの異なる性質です」とFojo氏は述べた。この考え方の裏づけはCell誌の研究論文からきており、試験検体で、細胞の増殖と化学療法に対する感受性に相関性がないことが見出されている。

臨床応用の可能性

クリニックの同僚とともに、Letai氏はBH3プロファイリングが、最初の寛解後の骨髄移植を必要とするかしないかについて、AML患者を前向きに特定することが可能かどうかを検討する試験を計画中である。Letai氏は、高齢患者にとっては難しいと思われている導入化学療法から利益を得られない高齢患者を特定することも、試験により可能になると考える。

研究者らがBCL2ファミリーのアポトーシスを促進するタンパク質を操作することを理解し学ぶことで細胞分野は進歩する、とGreen氏は予想した。「これらのタンパク質のいくつかが実際にどのように機能するか、基本的には明らかになっていませんが、解明されるのはもうすぐです」。

Green氏は続けた。「最終的に、これらのタンパク質を直接的に活性化する、あるいは阻害する薬剤を見つけるでしょう。そしてこれらは貴重なものとなるでしょう」。それまで、研究室のウエッブページのメッセージ「2004年から癌細胞に自滅行為を復活させるべく取組み中」のとおり、Letai氏の研究室では研究を続ける。

Letai氏の母親が以前に尋ねたような質問から研究者は多くを学ぶことができると、同氏は指摘する。「素人に尋ねられる質問により、多くの場合、われわれの知識の限界が無情にも露わになることがある」と述べた。

— Edward R. Winstead

【図キャプション】
挿絵は、化学療法時に、ある種の癌細胞は他の癌細胞よりも自滅する準備ができているという考えを表している。
崖のそばにいる細胞は、細胞死あるいはアポトーシスが「起こる準備ができている」。(イラストレーション:Kris Sarosiek)  [画像原文参照

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湖月みき 訳
林 正樹 (血液・腫瘍内科 社会医療法人敬愛会中頭病院) 監修
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