テキサス大学MDアンダーソンがんセンターが前例のないムーンショット計画を開始/MDアンダーソンがんセンター | 海外がん医療情報リファレンス

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターが前例のないムーンショット計画を開始/MDアンダーソンがんセンター

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テキサス大学MDアンダーソンがんセンターが前例のないムーンショット計画を開始/MDアンダーソンがんセンター

がん撲滅に向けた新たな挑戦:今後10年間でがんの生存を大幅に改善することをゴールとする
MDアンダーソンがんセンター
2012年9月20日

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターは、ムーンショット計画(月面探索ロケット打ち上げ計画の意)の立ち上げを発表した。この計画は、がん死亡者を減らすことを目的として、科学的発見を臨床現場での改善へと応用するスピードを劇的に速めようとする前例のない試みである。

米国がん協会(ACS)によると、米国のがんサバイバー人口は2015年には1,130万人に達すると推定されるが、いまだにがんは最も破壊的で困難な疾病の1つである。この10年だけで、全世界で1億人ががんで死亡すると推定される。がんが与える人類への打撃は、今や、心疾患、結核、HIV、マラリアを合わせたものを超えている。

ムーンショット計画は、得られた知識を出来る限り迅速に、検査や医療機器、医薬品、医療政策に転換して患者に利益をもたらすことを目指すプロジェクトだ。同じゴールに向かって、領域の垣根を超えてこれまでにない画期的な方法で取り組む専門家チームを作り上げることで、産学の両面から最善の力を集結する「型破りなパラダイム」に則った計画である。

ムーンショット計画は、MDアンダーソンからほんの1マイル離れたライス大学で50年前の1962年9月に行われたジョン・F・ケネディ大統領の有名な演説の精神を引き継いだ。「私たちは、今後10年の間に月に到達することを選択しました…この挑戦こそ私たちが喜んで受け入れ、先延ばしすることを良しとせず、そして勝利を勝ち取るものであるからです」とケネディ大統領は演説した。

「何世代も経た今、ムーンショット計画は、治癒に向けたがん治療の歩むべき道が今までのどの時点よりも明確に見えている―という私たちの自信を示すものです」とMDアンダーソンがんセンター長であるRonald A. DePinho医師は述べた。「人類は、がんに打ち勝つための大胆な行動を早急に必要としています。そして、21世紀で闘うためのツールを数多く持っていると信じています。『患者が直接恩恵を受けられるようにするにはどうしたらいいのか?』を常に考え、技術者の正確さをもってがんに対して包括的で系統的に取り組むことに私たちのエネルギーを集中させましょう」

ムーンショットの開始
最初に8種類のがんを対象としたこの計画は、MDアンダーソンの研究員と医師の相当数の専門家グループを結集し、以下の疾患に対して包括的に闘いを挑む:
・急性骨髄性白血病および骨髄異形成症候群
・慢性リンパ球性白血病
・メラノーマ
・肺がん
・前立腺がん
・トリプルネガティブ乳がんと卵巣がん
(この2つのがんは分子レベルで関連性あり)

これら8種類のがんに対する6つのムーンショットチームの選抜は、予防から治療後ケアに至るがん治療全体に関する最新の科学的知識の評価に基づいて行われた。さらに、結集されたチームの団結力と対応領域の広さ、そしてがん死亡率において短期間で明確に具現化できる成功をもたらす能力を評価する厳格な基準であった。

各チームには、基礎およびトランスレーショナル研究(基礎研究から臨床への橋渡し研究)から、バイオマーカーを用いた新しい臨床試験、行動的介入や公共政策のイニシアチブに至るまで、患者の利益を最優先させる壮大で革新的なプロジェクトを実行するために必要な資金およびその他のリソースが投入される。

独創的な基本計画
施設全体に及ぶ質の高い科学と技術基盤が、ムーンショット計画成功のカギとなる。これまでの研究者や研究グループは、それぞれが自分達の研究プログラムを実施するにあたり自力で必要な基盤を構築しなければならず、したがって資金不足から、質の高い管理や最高レベルの手腕、特に科学的、技術的環境の急速な変化に対応できるリーダーが欠落していた。ムーンショット計画の基本骨格では、すべてのムーンショットチームの挑戦を支援する方針である。各チームに専門知識を供与すべく設計し、必要なリソースが提供される予定である。この基本骨格は、それぞれのムーンショットとムーンショット計画全体を成功させるための重要な要素となる。特に、ムーンショット計画のいたる所に投資を活用するものである。

基本骨格には以下のものが含まれる:
ゲノム医療の適応学習
臨床医や研究者が患者の臨床情報をリアルタイムに統合し、ゲノムデータを研究できる業務の流れにより、がんゲノムに対する理解、そして最終的には転帰の向上に貢献するものである。
大量のデータ
多くはNext Generation Sequencing machine:次世代ゲノム・シーケンサーで得られる大量の情報の収集、保管、処理。
がんの制御と予防
がん予防、検診、早期発見、治療後ケアにおける地域に根指した努力であり、がんの負担を大幅に減らすための教育や達成を目標とする。公共政策、公共教育、専門教育およびエビデンスに基づく医療の提供といった領域に介入することで、米国の地域社会、特に最も弱い立場にあり、十分なサービスを受けていない地域において、具体的で永続的な変化を産み出すことができる。
共同臨床試験のためのセンター
ヒトのがん細胞検体やマウスをもちいて、新薬または薬の併用に関する試験を実施し、薬が最も奏効する患者グループを見つける。
臨床ゲノム研究
医学上の決定につながる臨床検査に用いる腫瘍検体を、貯蔵・処理するよう設計された設備。
診断の開発
標的治療を導入するため、病院で使用する診断のための検査の開発。
早期発見
画像やプロテオーム技術を用い、早期がんの患者を特定できるマーカーを発見する。
応用がん化学研究所
効果的な標的薬を創薬する。
がんの個別化医療研究所
最良の治療と臨床試験のために、患者の腫瘍の遺伝子異常を分析する広範囲な基幹施設。
大量データ分析
計算アルゴリズムを開発あるいは使用し、患者や公衆の大規模なデータを分析するためのコンピューター基盤。
患者オミクス
遺伝子やタンパク質(ゲノミクス、プロテオミクス)の概略を描き、テーラーメード治療の決定や治療に関する遺伝子変異を同定するために患者から採取した検体(腫瘍、血液等)を一元管理。
トランスレーショナル研究の推進
前臨床試験での薬剤候補から、ヒト早期臨床試験へ効率よく進めることにより、有効な治療薬を短期間で開発し、また、臨床試験を高い成功率で迅速かつ経済的に行うことを可能にする枠組み。

MDアンダーソンの「人類にとっての大きな飛躍」
1年前、DePinho医師が第4代MDアンダーソンがんセンター長に就任した際に、彼はムーンショット計画の概念を提案した。彼は次のように問いかけた。「がんによる死亡率を減らすために何ができるのかをいかに想像できるでしょうか?果敢な精神で、目標達成の信念をもち、学術研究を阻む資金不足の制約などを無視し、現在ある最新鋭の技術を用いたとしたら」。

そして教職員からの反応から最初のムーンショット計画の提案は生まれた。複数の主要ながんを対象として、時に数百人という数にのぼる専門家集団であるMDアンダーソンのチームが関与することになった。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校がんセンター総長であり、米国がん学会(AACR)の会長であるFrank McCormick博士は、内外の専門家25人からなる審査委員会を率い、今回開始されるムーンショットの6つの分野を絞り込んだ。

「これまでムーンショット計画ほどの規模で、単独の学術医療機関が何かを実施しようとしたことはありません」とMcCormic博士は述べた。「ムーンショット計画は、MDアンダーソンの集学的研究や患者ケアのリソースを用いて、がん研究を前進させる共通のビジョンを提供します」
さらにMcCormic氏は、「このように焦点を絞ったやり方で全英知を結集させるプロジェクトは、学術医療機関では一般的にはみられないものであり、それ自体に価値があります」と述べている。

MDアンダーソン史上最も意欲的な計画
MDアンダーソンがんセンターは、US News & World Report誌のベストホスピタル調査のがん治療分野において、2012年を含め過去11回中9回第1位となった病院であり、ムーンショット計画は、MDアンダーソンがこれまで行ったなかでも桁外れの努力を要する挑戦である。この計画が展開され、拡大していけば、MDアンダーソンの全ての分野に組み込まれることになるであろう。どのようながんであっても、がんに集中的に取り組む研究者や臨床医は(ムーンショット計画の最初の段階から関与していないとしても)、今回の基本骨格が提供する新しい技術力、データ、臨床戦略に関わっていくことになる。

最初の10年で、ムーンショット計画の費用は推定30億ドル(2400億円)に達するものと思われる。これらの資金は当施設の収入、チャリティー、競争が激しい研究助成金、新たな発見を製品化することにより捻出する。これにより年間約7億ドルの予算が得られ、MDアンダーソンの全てのがん種に対する巨大な研究が妨げられることはない。がんがんさらに、ムーンショット計画に注がれた貢献は、特に豊富なリソースと研究基盤を通じて、MDアンダーソンで行われる他の全てのがん研究をも支えていくことになるであろう。最終的な目的は、この過程で得た知識を全てのがんに応用していくことである。

この計画の実施は2013年2月に開始され、2013年半ばまでには全面実施に至ることになっている。

「ムーンショット計画は、最終的には全てのがんや他の慢性疾患にさえ応用出来る研究の新たなアプローチの可能性を有するものである」と、DePinho氏は述べ、「全力で仕事に取り組めば、人間の精神は勝利を収めることを歴史が教えてくれています。私たちは、これを成し遂げなければいけません。人類は私たち全員の双肩にかかっています」と続けた。

ムーンショット計画の設立に関する背景などの詳細情報は、下記サイトをご参照ください。www.cancermoonshots.org

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野川恵子、波多野淳子、菅原宣幸、野中希 訳
上野 直人(乳癌、幹細胞移植・細胞療法/MDアンダーソンがんセンター)監修
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原文


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