2012/09/04号◆スポットライト「癌医療の場に広がりつつあるクリニカルパス」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/09/04号◆スポットライト「癌医療の場に広がりつつあるクリニカルパス」

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2012/09/04号◆スポットライト「癌医療の場に広がりつつあるクリニカルパス」

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NCI Cancer Bulletin2012年9月4日号(Volume 9 / Number 17)

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

癌医療の場に広がりつつあるクリニカルパス

リンパ節転移を伴うHER2陰性エストロゲン受容体陰性乳癌患者に対して、全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)のガイドラインでは、術後化学療法が推奨されている。

しかし、その推奨内容には、ばらつきがかなりある。実際、16もの化学療法レジメン(投与法)が実施できるのだと、オハイオ州ダブリンを拠点とするCardinal Health社Specialty Solutionsの最高医務責任者(CMO)であるDr. Bruce Feinberg氏は説明する。これらのレジメンの多くは類似している。「しかし大半は、一度も直接比較(head to head)試験が実施されることはないだろう」と言われており、どのレジメンが最も有効性が高く、低毒性でコストが抑えられるのかを検討されることはないだろうとしている。

こうした結果、同じ腫瘍施設内であっても、似たような2人の患者がまったく異なる治療を受ける可能性もある。これは、癌専門医のレジメンに対する好みや実施しやすさが理由であることも少なくない。

そうしたばらつきを抑えるため、「クリニカルパス」に着手するという方法がある。クリニカルパスとは、大規模ネットワークや小規模な施設において設計、実施されるプログラムである。このプログラムは、証拠を基にして1人1人の患者にとっての最善のレジメンを医師が選択する上で役立ち、治療のばらつきが抑えられるというものである。証拠については、臨床試験のデータおよび専門的なガイドラインなどの情報源から得ている。

上に挙げた乳癌の例においては、ミシガン州で多くの癌専門医が用いたクリニカルパスを利用すれば、一次治療の選択肢の数が16から4に狭まると、アトランタを拠点とする大規模な腫瘍施設を23年間経営しているFeinberg氏は言う。

Cardinal Health社は、ミシガン州、メリーランド州、ペンシルベニア州およびその他いくつかの州においてパスプログラムの設置を援助している。パスプログラムによって「治療のばらつきを減らし、より洗練され、知識に裏付けられた治療法を癌専門医に提供できる」と、Feinberg氏は述べる。クリニカルパスの支持者は、パスによって治療の質を高めることが可能と考えている。

パスを設置することで、例えば治療の複雑さを減らし、不必要な薬の使用抑制などにより、コスト削減につながる可能性もある。米国における癌医療の年間直接コストは2020年までに1730億ドルに達する見込みで、質を損なわずにコストを削減する方法が本格的に検討されている。

 クリニカルパスを作成

クリニカルパスという概念は、勢いづいているようにみえる。例えば、2012年のNCCN年次会議で行われた小規模調査では、回答者の60%近くがクリニカルパスを実施または実施を検討していると答えた。

クリニカルパスというのは、癌治療にあたる団体が、治療の質と効率を改善していくための一つの手段にすぎないと、NCI癌制御・人口学部門(DCCPS)の結果調査研究科の主任Dr. Steven Clauser氏は説明する。

「ここ数年、治療の質を改善し、評価するということを重要視している状況が明らかになりつつあります」と、Clauser氏は言う。そこには、臨床ガイドラインの順守状況をできる限り追跡し、「臨床現場や患者さんへの治療法を詳しく把握するために(結果として得られた)データを使用する、などといった状況があります」と、同氏は続ける。

クリニカルパスは、臨床ガイドラインと似ているが、さらに一歩踏み込んだ概念がある。

全米ネットワークとして約1,000人の癌専門医を抱える全米がんネットワーク(The US Oncology Network)は、慣習的なパスに続く独自のクリニカルパスを開発していると、McKesson Specialty Health社のCMOであるDr. Roy Beveridge氏は述べる。(McKesson社は、2010年にUS Oncologyを買収した)

「まず、われわれはランダム化比較試験に着目します。最も重要なデータだと考えるからです」と、Beveridge氏は述べる。「原著論文にあたりたいのです。そして確定的な試験を探します」。

ランダム化試験によって、ある治療法が「その他の治療法」よりも有意に優れていることが示された場合、「それがパスの中で一番優れている、ということです」。2つの治療法の有効性が同等で毒性が異なる場合は、毒性が低いレジメンのほうが選択されやすい。有効性と毒性が同等のケースでは、(保険業者が支払う形での)コストが考慮される。

ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)内のがんセンターで開発されたクリニカルパスプログラムから分離独立したCardinal Health社およびVia Oncology社は、同様の基準に従っている。3社ともに、おのおののパスを開発するための臨床試験結果、発表された研究および専門的な臨床ガイドライン(Via Oncology社を除く)の審査を医師主導委員会に頼っている。

パスを実施している医師ネットワークでは、ドラフト段階のパスを最終化する前に、癌専門医らが精査し、意見することができる。委員会は定期的に招集され、最新のデータを精査しパスを改訂する必要がないかどうか判断している。

パスは鉄壁のものではないし、鉄壁であってもならない、とVia Oncology社の医長Dr. Peter Ellis氏は述べている。主要なパスプログラムのいずれでも、パスの順守率は経験上80%程度とされるが、確固たるデータに基づいたものではなく、主に臨床経験に基づいた閾値とみられる。

癌専門医の順守率が80%を上回るような場合、「それは懸念されること」とEllis氏は言う。80%を上回る順守率が意味するのは、「1人1人の患者のニーズを考え抜いていないということかもしれません。患者がどうしてもパス以外の選択をすべき状況もあるでしょう」。

Ellis氏によれば、UPMCで現在利用できるパスの順守率は77%で、検査、治療後の監視、放射線療法および支持療法のみに留まらない癌治療法に関する決定事項の約90%をカバーしている。

しかし、パスの概念は、常に両手を広げて歓迎されているというわけではない。「現場の癌専門医は、現実的に対応するべきです。嘔吐、発熱、治療薬不足、肺塞栓症、欲求不満、悲嘆などさまざまに名を変えた(パスに対する)ばらつきが存在するのです」と、米国セントルイスの癌専門医であるDr. Craig Hildreth氏は昨年、自身のブログ「Cheerful Oncologist」に綴った(ブログを見るには無料登録が必要)。

パスプログラムを実施している医療ネットワーク内の臨床現場では、パスの使用を拒否した例もある。

Beveridge氏によると、全米がんネットワークでは現場の反応は良好だという。「われわれの第1水準のパスは、科学的根拠に基づいた医療主導のものです」と述べ、「積極的に取り組まれている理由は、これらの治療ガイドラインが、医師主導によって立証された根拠に基づいて開発されているためです」。

クリニカルパス実施の決定には、現場の状況も影響してくるようだと、アイオワ大学ホールデン総合がんセンターの施設長Dr. George Weiner氏は言う。腫瘍検討会や「組織内に強固な総合的プログラム」を持つ大学病院では、患者の治療にあたるさまざまな医師の間に相当量の共同研究や話し合いがあるため、パスを受け入れる方向には行かないだろうとWeiner氏は考えている。

パスによって本当に治療改善、コスト削減が実現するのか?

クリニカルパスの概念は強固なもの、とDCCPSの治療プロセス研究科主任であるDr. Stephen Taplin氏は言う。しかし、クリニカルパスが治療の質を高めるかどうかは、はっきりしていないとも警告する。

「ガイドラインやパスの順守という考え方は、治療の質が複雑であることの表れです」と、Taplin氏は述べる。「その部分こそ、われわれは注意すべきです」。

治療の意思決定の際には、癌専門医は、治療についての患者の好みや適性などの要素も考慮しなくてはならないと、同氏は強調する。

パスを開発および使用するための最良の方法は、綿密な研究であると、Weiner氏は指摘する。「どのくらい厳密なパスにすべきでしょうか?どの程度の柔軟性を持たせるべきでしょうか?」

Ellis氏は、クリニカルパスが治療の質を高めるという立証が困難であることを認めている。それでも、「もしパスシステムによって、科学的根拠に基づく治療がなされたと実証されれば、必然的に治療の質が改善されたということになります」。

しかし現時点では、パスが治療の質を高めるという考えは「ただ信念のままに行動している部分が大きく….治療改善の象徴と考えられている行動変化を探るべき」とFeinberg氏は指摘する。

実証された行動変化としては、三次治療や四次治療としての多剤併用化学療法を減らすことなどが挙げられる。パスを用いた治療を受けている患者は、化学療法の副作用による救急外来受診および入院も減少すると、全米がんネットワークおよびCardinal Health社は報告している。

さらに、全米がんネットワークはコスト削減の見込みデータを公表した唯一の団体でもある。同団体は、関連施設8カ所の電子カルテデータを1年以上調査した。その結果、パスを用いた非小細胞肺癌患者では、パスを用いない患者に比べて外来患者治療費が35%抑えられた(18,000ドル対28,000ドル)ことがわかった。

保険業者の中には、パスが治療の質を高め、コストを削減するという点に対して懐疑的な業者もいると、Beveridge氏は認める。氏は、「この調査を実施した理由はそこにあります」と述べている。「われわれの調査結果によって、現在多くの支払者がパスの取り組みについてもっと知りたいと興味を抱いているのではないでしょうか」。

保険業者は、パス開発における保険業者と癌団体の連携を進めるモデルの中心的存在である。Cardinal Health社で用いられているものがこのモデルとなる。連携の一環として、保険業者はパスプログラムに参加し、コンプライアンス基準を満たした施設に対して、奨励金を出している。

不確定要素はあるものの、クリニカルパスは浸透してきている。全米がんネットワークでは、いくつかの病院システムおよび医療施設に対する独自のパスが認可を受けたと、Beveridge氏は述べる。11の州にある病院および腫瘍施設が、Via Oncology社のパスを使用している。直近では、先月インディアナ大学の医療システムに追加され、中心施設および関連の腫瘍施設でパスを実施する。

説明責任を果たせる治療団体が出現し、治療の質やコスト削減を数値化しようとする動きが出てきている。どの病院や医療施設にとっても、クリニカルパスのたぐいが将来一端を担うことは大いにありうる、とEllis氏は考える。

「治療の質についての説明責任や根拠がもっとあるはず」と、同氏は言う。「患者さんと支払者に、『私は良い医者ですから、私を信頼してください。』などとは言っていられないでしょうね」。

 

パスを取り巻く環境 全米がんネットワークのクリニカルパスは、組織に導入される電子カルテ(EHR)システム、iKnowMedに組み込まれている。EHRは、診断に基づく「パス利用中」の治療内容、パスにそれらの治療内容が含まれている根拠資料を提示する。パスを裏付ける根拠資料は、特に希少癌患者を担当する癌専門医にとって有用であると、全米がんネットワークのパス作業部会の医長であり、その関連施設Texas Oncologyの乳癌専門医でもあるDr. Debra Patt氏は述べている。こうした資料は患者にとっても役立つもの、と同氏は続ける。「試験結果やパス作業部会の報告書を提示することは、患者さんにとって素晴らしい経験となります」という。「これは格好の教材となり、『これが、この推奨されている治療法を裏付ける根拠です』と患者に言うことができます。そうすることで情報に基づく意思決定への参加に役立つのです」。

クリニカルパスの周囲に頑強なIT基盤を整備することが最優先課題で、Via Oncology社に大きな財政投資をしていると、Ellis氏は説明する。Via Oncology社のウェブベースソフトであるpathways portalの最新版では、医療現場の管理システムに直接接続できるため、パスの選択が各患者の診察スケジュールに取り込まれるようになっている。

— Carmen Phillips

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濱田 希 訳
勝俣範之(腫瘍内科、乳癌・婦人科癌/日本医大武蔵小杉病院) 監修
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