米国臨床腫瘍学会(ASCO)が癌診療の質および価値を向上させるための「トップ5」リストを発行

速報

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JCOの記事に、Choosing Wisely® Campaignの一環として、エビデンスによる裏付けはないが、一般的に行われている5つの癌の治療および検査について記載された。

アレクサンドリア(バージニア州)- 米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、臨床的エビデンスによる裏付けのない一般的な検査および治療を制限することによって、癌診療の質と価値を向上させる「トップ5」の機会の詳細なレビューを本日発表した。Journal of Clinical Oncology誌に発表された新しい論文は、Choosing Wisely® campaign(「賢い選択を」キャンペーン)の一環である複数のトップ5リストと一致する。ASCOは、同キャンペーンに参加している9つの専門団体の1つで、アメリカ内科学会専門医(American Board of Internal Medicine、ABIM)財団の資金提供を受けている。

JOCの論文では、癌のトップ5リストの各項目を以下のとおり要約している。ベネフィットを得られないであろう進行癌患者への不必要な化学療法、早期の乳癌や前立腺癌の病期判定、および乳癌再発検出のための費用のかかる画像技術の使用、化学療法中の患者への白血球生成を促す薬剤の過剰な使用。

「私たちは腫瘍専門医として、すべての癌診療が高い価値のあるものであるようにする責任があります。最高品質のケアを患者に提供する一方で、ほとんどまたはまったくベネフィットのない治療を回避するということです。この過程で、私たちは我が国の医療制度を脅かす維持できない費用増加の問題に取り組む役割も担っています」とASCO会長のMichael P. Link医師は述べた。

「賢い選択を」キャンペーン」の概念は、New England Journal of Medicine誌の2010年の論評でInstitute for the Medical Humanities所長でテキサス大学家庭医学科教授のHoward Brody医学博士が最初に提唱した。Brody氏は、医学専門家にそれぞれの専門分野を批判的に検討し、裏付けるエビデンスがないにもかかわらず一般的に実施されている5つの要素を明確にするよう呼びかけた。

「私たちはASCOでこの取り組みを肝に銘じました」とJCOの論文の筆頭著者でASCOのCost of Care Task Force委員長のLowell E. Schnipper医師は述べた。「一部の最もよく見られる癌での過剰な治療や検査の問題に取り組むことによって、米国における癌診療の質を大幅に向上させたいと思います。トップ5リストは、医師と患者のこれらの勧告の実施を支援する現在実施中のASCOの活動の第一歩にすぎません。」

癌におけるトップ5リスト

癌診療の価値を高める方法を模索する多分野にわたる腫瘍専門医の団体である、ASCOのCost of Cancer Care Task Forceのメンバーがトップ5リストを作成した。このリストは、ASCOやその他の組織が発表した研究やガイドラインの包括的なレビューに基づいている。リストは、州および地域の腫瘍学会代表やその他の主な腫瘍専門医および患者団体など、腫瘍関連団体の200人以上のメンバーの意見を反映している。

リストには以下の勧告が記載されている。

1. ベネフィットを得られないであろう進行固形癌患者への化学療法など不必要な抗癌治療を避け、その代わりに症状緩和や緩和ケアに注力すること。

多くの癌患者が人生の最期の2週間に化学療法を受けていることがデータで示されているが、一般的にそのような治療は、生存率やQOLを改善することはほとんどなく、副作用を引き起こし、費用の増加という予期せぬ結果を招く。10%~15%もの癌患者が、人生の最期の2週間に化学療法を受けているとデータは示唆している。そのような治療は患者がホスピスケアなどの緩和ケアを利用するのを遅らせることにもなる。

ASCOは、次のような特性のある固形癌患者には癌を標的とした治療を実施しないよう勧告している。パーフォーマンス・ステータスが低い(3または4)、エビデンスに基づくこれまでの介入でベネフィットが得られなかった、臨床試験に適格でない、抗癌治療を続ける臨床的価値を裏付ける有力なエビデンスがない。このような患者に対して治療を続けても有効であるとは考えられないため、QOLを改善し、一部の患者において生存率を延長させうる緩和ケアや支援的ケアに重点を置くべきである。

2-3. 転移のリスクが低い早期乳癌(2)および前立腺癌(3)では、高度画像技術(PET検査、CT検査、骨シンチ検査)を癌の転移判定に使用しないこと。

ASCOは、以下の患者の病期判定にこれらの画像検査を使用しないよう勧告している。

・ステージⅠまたはⅡの乳癌または非浸潤性乳管癌(DCIS)と新たに診断された患者。これらの患者は、診断時に乳房および周辺のリンパ節以外へ癌が転移している可能性が低い。(これらの患者の病期判定は、理学的検査、腫瘍および周辺リンパ節の大きさ、一般的な血液検査によって行う。)
・低グレードの前立腺癌(グリソンスコアが6以下)と新たに診断され、PSA値が10 ng/ml未満の男性。

これらの患者の癌の転移を検出するために高度画像技術を使用しても、別の腫瘍の検出を改善したり、生存率を延長させたりすることはないと示唆されている。むしろ、これらの検査は、誤診や偽陽性のリスクを増加させることが分かっており、必要のない侵襲的な処置や治療を受けることになり、最終的にはQOLを低下させ、さらには寿命を縮めることにもなりかねない。

4. 乳癌の根治的治療を終えた患者および再発の徴候が認められない患者には、高度画像検査(PET、CT、骨シンチ)および特定のバイオマーカー(CEA, CA 15-3、CA 27-29)の定期的な血液検査を癌再発のスクリーニングのために実施すべきではない。

今日乳がんと診断される人の大半は早期であり、また、治療の進歩により、ほとんどの人は、再発リスクが低く、平均寿命を全うする。現行のガイドラインでは、定期的な理学的検査およびマンモグラフィが最も安全で有効な再発検出法であると強調されているが、多くの人が、生存期間を改善しないことが分かっているにもかかわらず、追加的な血液検査や画像検査も受けている。

著者らは、これらの検査で結果が偽陽性になることはよくあることであり、QOLに重大な影響を与える侵襲的な処置や過剰な治療、誤診につながることに着目している。

5. 発熱性好中球減少症のリスクが極めて低い(20%未満)患者への白血球生成促進因子の投与は避けること。

白血球増殖因子は、コロニー刺激因子(CSF)とも呼ばれ、体内の白血球の生成を促進し、特定の化学療法レジメン中に破壊されることがある。白血球値の極端な低下は、発熱性好中球減少症と言われる極めて危険な化学療法の副作用を引き起こす可能性がある。

ASCOのガイドラインでは、白血球生成促進因子は、化学療法による発熱性好中球減少症リスクが20%以上で、他に有効な治療法がない場合のみ使用するよう勧告している。しかし、これらの薬剤はエビデンスに基づく指導による使用がなされていないことが多く、医療制度に何百万円もの費用がかかり、患者に不必要な副作用(例:骨痛、低グレードの発熱および倦怠感)を引き起こす可能性があるとデータで示されている。ある研究では、発熱性好中球減少症のリスクが低い(20%未満)患者の10%がこれらの治療を受けていた。別の研究は、メディケアは2005年に少なくとも4000万ドルをER陽性乳癌の女性のCSF療法に費やしたと示唆したが、そのような患者へのベネフィットは研究で実証されていない。

JOCの記事では、トップ5リストの5つすべてに重要な例外があることに注目している。たとえば、5番目の勧告の場合、ガイドラインでは、年齢、既往歴、疾患特性により化学療法にともなう発熱性好中球減少症のリスクが高い患者への白血球生成促進因子の使用を許容している。

トップ5リストの実施

ASCOは今後数ヵ月で、3万人以上のメンバーおよび癌関連団体のその他のパートナーと連携し、これらの勧告の実施を支援していく。ASCOはさらに、医師向けのツールや出版物、および患者がケアの質や価値について十分に説明を受けた上で主治医と話し合うことを支援する新たな情報ツールを作成している。

癌医療向上のためのASCOの取り組みについての詳細は、asco.org/topfiveで、患者向けのトップ5リストの情報はcancer.net/topfivelist.で閲覧できる。

ASCOについて
ASCO(American Society of Clinical Oncology)は、がん患者を治療する医師たちを代表する世界のリーディングプロフェッショナル組織である。会員数は約30,000人で、癌診療を改善するための学会、教育プログラム、ピアレビュー済みのジャーナルの発行を行っている。ASCOについての情報などは、 www.asco.org.を訪問のこと。患者向けの癌情報についてはwww.Cancer.Net.を参照のこと。

Journal of Clinical Oncology誌について
Journal of Clinical Oncology誌は、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の3ヵ月ごとに発行されるピアレビュー学術誌であり、ASCOは、がん患者を治療する医師たちを代表する世界のリーディングプロフェッショナル組織である。

翻訳担当者 吉田加奈子

監修 勝俣範之(腫瘍内科、乳癌・婦人科癌/日本医大武蔵小杉病院)

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原文掲載日 

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