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腫瘍タンパク値が癌の進展の可能性を示す

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腫瘍タンパク値が癌の進展の可能性を示す

NIH (米国国立衛生研究所)ニュース
米国国立衛生研究所(NIH)の研究者らは治療方針の決定に役立つ検査法の開発を目指している

2011年2月1日

米国国立衛生研究所(NIH)と香港大学の研究者らは、ある特定のタンパク質の値が癌細胞で高いことが、今後の癌の転移を示す信頼性の高い指標であることを発見した。

 

患者から外科的に切除された腫瘍と周囲組織におけるあるタンパク質をコードする遺伝子レベルを測定することにより、研究者らは90%以上の確率で2年以内に癌が広がるかどうかを予測できた。

 

この知見は、癌が転移する可能性を評価する新たな検査法の開発や、最終的には癌の転移を防ぐことのできる治療法が生まれるかもしれないという長期的な可能性を拓くものである。

 

このたんぱく質はCPE-δNとして知られ、カルボキシペプチダーゼ(CPE)ファミリーの1つである。通常、CPEはインスリンその他のホルモンのプロセシングに関与している。CPEの変異体のひとつであるCPE-δN値は転移を起こす腫瘍では高かったが、周辺組織ではずっと低かった。

 

腫瘍細胞は原発巣から遊離して他の身体部位へ広がり(転移)、そこで新たな腫瘍を形成する。腫瘍の転移は致死的である場合が多いため、医療従事者は癌が転移する前に封じ込めたいと考えている。

 

「従来の診断手法と組み合わせれば、CPE-δNを検査することにより癌が広がる確率をより正確に推測できる可能性が生まれます」とAlan E. Guttmacher医師は述べた。同氏はこの研究を支援したユニス・ケネディ・ シュライバー米国国立小児保健発達研究所(NICHD)の所長である。「患者のCPE-δN値は、治療の個別化を通して治療成績を向上させるための鍵となる指標になりうると考えられます」。

 

研究者らは、肝癌患者(http://www.cancer.gov/cancertopics/types/liver/ )と褐色細胞腫および傍神経節腫という2種の稀な癌患者(http://www.cancer.gov/cancertopics/types/pheochromocytoma/ )から採取した腫瘍と周囲組織を用いて可能性を推定した。その結果、後に転移を起こした腫瘍を有していた患者からの腫瘍サンプルではCPE-δN値が高くなっていたことがわかった。

 

このタンパク質が高値であることを示す検査により、癌の進行度と重症度を評価する方法として従来用いられてきた病期分類では転移が起こりにくいとされた場合であっても、このたんぱく質の値が高い場合には転移が起こりうることを予測できた。この知見から、従来の病期分類に加えて更にCPE-δN値の検査を行うことにより、さらに的確な治療ができる可能性が生じてきた。例えば、従来の病期分類で癌の転移が起こりにくいとされた場合でも、腫瘍のCPE-δN値が高い場合には、患者は通常ならば病期の進んだ癌にしか用いられない強力な治療の実施を勧められるかもしれない。

 

研究の統括著者はNICHDの神経細胞生物学部門のY. Peng Loh氏と香港大学のRonnie Poon氏である。その他の著者は、NICHD、香港大学、カナダ・オンタリオ州Lawson Health Research Institute、米国国立癌研究所(NCI)、NIHのワレン・グラント・マグナソン臨床センターに所属している。この研究はNICHD、NCI、香港大学、カナダ政府より一部助成を受けた。

 

研究成果はJournal of Clinical Investigation誌に掲載された。

 

研究者らはこのタンパク質の生成に関与する分子の値を測定することにより、CPE-δN値を間接的に検査した。RNA(リボ核酸)は、ある遺伝子の情報をもとにして特定のタンパク質、この場合はCPE-δN、を生成する。肝癌患者99人から採取した組織をもちい、腫瘍におけるCPE-δNのRNA値を周辺組織におけるRNA値と比較した。この解析により、腫瘍におけるCPE-δNのRNA値が周辺組織における値の2倍を超える場合には2年以内に癌が再発もしくは転移する可能性が高いことが判明した。この閾値と同程度もしくは低値の場合(腫瘍でのCPE-δNのRNA値が周囲組織の2倍以下の場合は)、癌の再発はずっと起こりにくくなっていた。この閾値を用いて、研究者らは90%以上の症例において正確に転移や再発を予測することができた。反対に、今後2年間に腫瘍の再発が起こらないだろうとする予測の精度は76%であった。

 

次に研究者らは、稀な副腎癌である褐色細胞腫患者と傍神経節腫患者の14人から切除して保存しておいた腫瘍組織におけるCPE-δNのRNA値を測定した。傍神経節腫は主に副腎に発症する稀な癌であるが、その他の部位にも生じることがある。副腎はたいへん小さい臓器であるため、腫瘍周囲の組織を採取することが不可能であったため、研究者らは腫瘍組織のCPE-δNのRNA値のみを測定した。RNAコピー数は組織200マイクログラムあたり15万から1,500万であった。癌が再発もしくは転移した症例におけるCPE-δNのRNA値は、すべて100万超であった。RNAコピー数が25万未満の腫瘍では転移や再発は認めなかった。患者の状態は最長8年間追跡された。

 

また、研究者らが肝臓、乳、結腸、頭頚部の腫瘍から採取した細胞を調べたところ、最も悪性度が高く転移性であることがわかっていた腫瘍におけるCPE-δNのRNA値が最も高いことがわかった。

 

次に研究者らは、2つのマウスモデルを用いてCPE-δNの生成を阻害することにより、癌の転移を防ぐという戦略を試みた。この戦略は、RNAと結合してタンパク質の生成を阻むアンチセンスRNAを用い、転移性腫瘍を治療するというものである。

 

最初の実験モデルで、研究者らは高転移性肝癌細胞株をマウスの皮下に移植した。まず、移植されたマウスの半数に対してCPE-δNに特異的なアンチセンスRNAによる治療を行い、残りの半分には行わなかった。30日後、CPE-δNに特異的なアンチセンスRNAによる治療を行わなかったマウスの腫瘍は、治療を行った残りのマウスと比較してかなり大きくなっていた。次に、研究者らは、最初に腫瘍を移植しアンチセンス治療を行ったマウスと治療を行わなかったマウスのそれぞれから腫瘍を採取し、これを別のマウスの肝臓に移植した。すると、35日後には、アンチセンス治療を行わなかったマウスから採取した腫瘍のみに転移が認められ新たな腫瘍が形成された。

 

Loh医師はこの試験で用いられた手法がいつかヒトにおける癌治療に用いられる日が来るかもしれないと述べた。現在のところ、腫瘍細胞にアンチセンスRNAを運ぶ手段がない。可能性のあるアプローチとしては、細胞にアンチセンスRNAを運ぶことのできるウイルスの作製が挙げられるだろう。

 

同様にして、CPE-δNを阻害する薬剤その他の開発により癌の転移を防ぐという道筋もさらに広がっていくだろう。

 

NICHDは生前生後の発達に関する研究、母子や家族の健康に関する研究、生殖生物学や人口学的問題に関する研究、医学的リハビリに関する研究に対して支援を行っている。より詳細な情報に関しては、NICHDのウェブサイト(http://www.nichd.nih.gov/ )を参照のこと。

 

米国の国立医学研究機関である米国国立衛生研究所(NIH)は27の施設とセンターから構成されており、米国保健福祉省の1機関である。NIHは基礎的な医学研究、臨床研究、そして両者の橋渡し的研究を実施、支援する主要な連邦機関であり、よくみられる疾患や希少疾患に対してその原因や治療、治癒に関する調査を行う。NIHやNIHの行っている研究に関するより詳細な情報に関してはwww.nih.gov を参照のこと。

 

転移の過程を示す上掲の図では、左側にはめ込まれた肝癌細胞が腫瘍組織から離れ、周辺組織を通過してリンパもしくは血管に入っている(中央および右側)。その後、これらの癌細胞は体中を回り他の部位に腫瘍を形成する。

 

研究者らは、各病期ごとに癌が転移する場合(赤)、転移しない場合(緑)を調べた。色が濃い方は腫瘍組織におけるCPE-δNのRNA値が高いことを示す。各病期において、CPE-δNのRNA値が高い腫瘍における癌(周辺組織と比較して2倍超)は他の部位に転移しやすかった。白黒表示でコントラストをつけた同内容の表はhttp://www.nichd.nih.gov/news/releases/images/020111_Metastasis_Tumor_Bar_Graph_b&w.jpg で入手可能である。

 

[グラフの右上の説明]
CPE-δN低値:転移なし
CPE-δN高値:転移なし
CPE-δN低値:転移あり
CPE-δN高値:転移あり

原文掲載日

翻訳窪田美穂

監修田中 文啓 (呼吸器外科)産業医科大学第二外科教授

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