2011/10/04号◆特別リポート「薬剤不足の原因と対策を探るワークショップ」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年10月04日号(Volume 8 / Number 19)

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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

薬剤不足の原因と対策を探るワークショップ

先週開催された米国食品医薬品局(FDA)出資のワークショップにおいて、多数の薬品不足が深刻となりつつあり、患者医療に影響が広がっているとの声が多数聞かれた。供給不足の薬剤には抗生剤、麻酔薬、静脈栄養剤などがあり、その中でも抗癌剤が一番不足しており、それによる癌医療への影響が終日議論の中心であった。

米国保健福祉省次官補のDr.Howard Koh氏が会議聴聞会の参加者に対して、抗癌剤の不足、とりわけ、多くの癌治療の中心的な役割を担う、従来行われている治療に用いられる抗癌剤の不足によって、多くのNCI出資の臨床研究が遅れたり中止されたりしていることが述べられた。そのわずか数日後、このワークショップは行われた。

9月26日のワークショップでは主要な関係者である医師、病院グループ代表、患者、製薬会社代表などが集まり、薬剤不足の原因を理解し、記録に残る限りこれまでで一番大規模で、いくつかの薬剤については一番長く続く(薬剤)不足の解決策を話し合った。

多くの参加者が、薬剤不足による患者への影響が広がっていると報告したが、FDAからは良い報告もなされた。製薬会社と協力し、今年は99の新たな薬剤不足を防ぐことができたということであった。

癌医療への影響

薬剤不足は10年以上前から日常的に起こり始めたが、近年悪化している。FDAによると、不足する薬剤数は2005年以降3倍になった。2010年は178の薬剤が不足し、2011年はさらに悪化するだろうと、FDA薬剤不足プログラムの調整役のDr. Edward Cox氏は述べた。

現在不足している化学療法剤には、数十年前からある5-FUビンクリスチンダウノルビシンシタラビンロイコボリンなどがあり、それらの薬剤は白血病、精巣腫瘍、大腸癌の標準治療で用いられてきた。それらのほとんどは無菌注射剤であり、後発品も利用可能である。実際多くの場合、ブランド薬品はもはや生産されなくなっていると、ジェネリック薬品協会代表であるDr. Ralph Neas氏は述べた。

有効な化学療法剤が使用できない場合、腫瘍内科医は代替薬として効果が少なく、しばしば副作用が多い薬剤を使用せざるを得ないと、ジャクソンビルにあるメイヨークリニックのDr. Lawrence Solberg氏は述べた。結果として、患者の苦痛は増大していると同氏は続けた。

Diane Hamlin氏と16歳の娘であるAbagale氏が経験したことは、薬剤不足が患者にとってどういう意味を持つのかを分かりやすく示している。Abagale氏は2011年3月に急性骨髄性白血病(AML)と診断された。AMLに高い効果を持つ薬剤のひとつであるダウノルビシンが不足しており、Abagale氏の主治医は代わりにドキソルビシンを使用せざるを得なかった(ただしドキソルビシンも現在不足している)。

彼女の口腔、喉、胃において薬によって起こった粘膜炎は重度であり、Abagale氏は常に痛みにさらされたため大量の鎮痛薬を服用し、静脈から栄養を補給しなければならなかった。ほぼ1カ月感続いたこの試練は「私にとって非常につらい時期」であったとAbagale氏は語った。

原因と影響

経済力、規制、生産など全ての問題が薬剤不足に影響しているとFDAの医薬品評価研究センターの所長補佐であるDr. Douglas Throckmorton氏は述べた。不足の54%を占める最大の原因は、 医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(good manufacturing practices)の不適合や薬剤バイアル中の粒子状物質など、品質や生産に関するものである。

その他の要因としては、生産中止や業界再編(不足中の無菌注射剤を生産している会社は7社のみ)、薬剤合成に必要な天然原材料の供給不足、生産能力不足などがある。

例えばJohnson & Johnson社は9月23日に同社ウェブサイトにおいて、ドキシル(ドキソルビシンが脂肪の殻であるリポソームに包まれている)の供給が数カ月の間制限されると発表した。理由は現在の生産会社が今後数年間の生産サービス契約から脱退する意向を示したため、新しい生産会社との契約に移行するためである。

先週のワークショップにおいてNeas氏などの生産会社代表者たちは、生産会社再編が薬剤不足に対して重大な影響を与えたかどうかを議論した。無菌注射剤の生産会社大手Teva Pharmaceuticals社のJonathan Kafer氏は過去2年間の不足のピークは複数の会社での生産問題と同時に起こっていると指摘した。

ただし生産問題が対処されても、薬剤はすぐには供給されないとKafer氏は強調した。無菌注射剤は生産工程が複雑であり、生産が再開されても広く普及するには数カ月かかると同氏は述べた。

薬剤不足による厄介な問題として、いわゆるグレーマーケット(主流の供給プロセスに属さない二次流通業者)の拡大が多くの参加者から聞かれた。これらの業者から入手した薬剤の安全と信頼性には疑問があり、またそのような業者はしばしば法外な値段を請求することがあると、複数の参加者が注意を促した。

プレミア・ヘルスケア・アライアンスのBryant Mangum氏は、同団体の42の急性期病院で調査を行ったところ、18のグレーマーケット業者が取り寄せ注文あるいは利用できない薬剤の提供申し出を1,750回程度行っていたと報告した。そのような薬剤の平均利幅は650%であり、最大では(血圧の薬に対して)4,553%、またシタラビン(3,980%)やロイコボリン(3,170%)も劣らず高かった。

FDAスタッフやその他の参加者は、病院や開業医にグレーマーケット業者から薬剤を購入しないようにし、疑わしい業者は州の薬事委員会、FDAのMedWatchプログラム、州や地元の機関に報告するように注意を求めた。

解決策を求めて

薬剤不足に関する2010年11月のサミット後、現在の不足への対処法と将来の不足の回避や軽減について提言を行うために代表者によるワーキンググループ(検討会)が招集された。

提言のひとつとして、FDA、産業界、病院、臨床医の間で潜在的な薬剤不足についてしっかりと早期に連絡を取り合うことがあげられた。また、不足しやすい薬剤を特定する基準や、そのような薬剤の代替の供給源を確保するプロセスを確立することも提言された。先週の会議では、小児ワクチンに対して疾病管理予防センターで用いられている方式のように、重要な薬剤は国が在庫をストックすることが提言された。

多くの参加者が、FDAが今年だけで100程度の薬剤の不足を回避したことを称賛した。また製薬会社は、生産における問題を早期に当局に報告し、重要な薬剤の適切な供給を確保するために規制審査を早めることを要求することで大きな役割を果たしたと、FDAの薬剤不足プログラム副主任のCapt. Valerie Jensen氏は述べた。

下院と上院に提出された生命に関わる薬剤へのアクセスを確保する法案(Preserving Access to Life-Saving Medications Act)が可決されれば、生産障害や生産中止を早期に通知することが求められるようになるであろうと、米国医療薬剤師会のJoseph Hill氏は述べた。

薬剤不足を緩和するためには多くの関係機関の協力と変化が必要であると、ユタ大学薬剤情報サービス所属のDr. Erin Fox氏は述べた。「この問題を解決するためにはひとつの方法だけでは無理です。非常に複雑な問題なのです」と同氏は語った。

—Carmen Phillips

関連記事:「化学療法剤の継続的な不足による懸念

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野長瀬 祥兼 (農学/医学) 訳
後藤 悌 (呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科) 監修 
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