2007/06/26号◆クローズアップ「術前化学療法の最先端」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2007年6月26日号(Volume 4 / Number 20)
____________________

◇◆◇クローズアップ◇◆◇

術前化学療法の最先端

当初の乳癌の術前化学療法は、進行して手術不能な腫瘍を乳房切除可能な程度まで縮小させる方法として報告された。この手法が有効であったことから、研究者らは、手術によって切除可能になるとみられる腫瘍を有する女性において、術前化学療法の試験を行うに至った。今日、いくつもの大規模な臨床試験で、乳癌における術前化学療法の安全性と有効性が示されており、「当の治療法を必要とする人なら誰でも」手術前にこの治療を受ける候補者となる。そう述べるのは、フレッド・ハッチンソンがんセンターのDr. Julie Gralow氏とダナファーバー癌研究所のDr. Eric Winer氏である。これはNIHの構内で3月26日、27日に開催された、NCIカンファレンス「浸潤性乳癌の術前療法:科学的現状の概観と新たな研究の方向性の模索」での発表による。

現在においては、このカンファレンスで議論されたように、臨床試験によりいずれは乳癌治療は患者ごとに個別化できるのではないかと期待されている。「手術前に薬剤が投与されると、腫瘍が弱っているまさにその時に、その腫瘍にアクセスできることになる。」とNCIのDivision of Cancer Treatment and Diagnosis(癌治療および診断部門)で乳癌を専門とするDr. Jo Anne Zujewski氏は説明した。手術前の状況では、研究者らは新しい治療に対して個々の腫瘍が直接どのようにレスポンスするか測定でき、その反応により、腫瘍に見られる分子特性や遺伝子変異を関連づけることができる。最終目標は特定の種類の腫瘍に目標を絞って治療を行い、患者の治療結果を改善することである。さらに、腫瘍が小さくなれば、往々にして手術の切除範囲を小さくでき、治療後の外見の向上や、手術による死亡率低下の可能性がある。

乳癌は単一疾患ではではなく多様な疾病の集合で、種々の変異により引き起こされたものであるため、各治療法に対してそれぞれ異なった反応を示す。このような理解が乳癌治療と新しい分子標的薬研究の両方に革命を起こした。医師は日常的に、エストロゲン受容体が過剰発現する腫瘍の女性にはタモキシフェンやアロマターゼ阻害剤のようなエストロゲン阻害薬を、腫瘍マーカーHER2が過剰発現する腫瘍の女性にはトラスツズマブを投与する。手術前に新しい薬剤を試すことで、治療への反応と一般的な腫瘍の特性とを関連づける機会が生まれ、「実地医療でも、さらに高いレベルで将来の患者の治療の個別化ができるかも知れない。腫瘍や患者を分類することで治療の有効性を最大にし、毒性を最小にできるかもしれない。」と、Dr. Winer氏は述べた。

新しい治療に反応するとみられる乳癌のサブグループを特定するために術前化学療法を用いることに加え、研究者らは、新世代の臨床試験によって標準的な化学療法に反応しない腫瘍を有する患者への治療法を明確に特定できるのではないかと期待している。現在、化学療法を術前に実施する場合、研究者らは薬剤が腫瘍に効果があるかどうか調べることができる。ただし、腫瘍が反応しない場合、治療途中で別の化学療法のレジメンに変更するベネフィットは証明されていない。

「化学療法に対して、腫瘍が反応する場合もしない場合もあるとみられる。化学療法に感受性のある腫瘍である場合もあれば、抵抗性の腫瘍もある。」とDr. Gralow氏は述べた。新しい臨床試験により、血管新生阻害剤のような分子標的薬剤が術前化学療法抵抗性の腫瘍を有する女性の助けとなるかが調べられている。

会議の参加者らによって力説された見解は「患者のケアにも、研究にも、多様な専門分野が関与する集学的医療の必要性が大いにある」ということであった。これは、手術前ですら腫瘍の縮小や消失を引き起こしうる治療を行うことから発生する複雑性のためであるとDr. Winer氏は説明した。「臨床腫瘍医、外科医、病理医、放射線腫瘍医、画像診断技師、腫瘍専門看護師が密接に協力して働かない限り、最善の臨床ケアを提供できない。また、これらの臨床家すべてに加えて、基礎研究やトランスレーショナルリサーチの研究者グループの一方ならぬ尽力がなければ研究は遂行できない。また、生物統計学の専門家が果たす重大な役割を決して忘れてはならない。」

科学の声明を含むカンファレンスのビデオ放送は、http://videocast.nih.govで視聴できる。カンファレンスのポッドキャストやスライド発表に使われたPDFファイルをダウンロードするには、カンファレンスのウェブサイトを参照のこと。

— Sharon Reynolds

******
大國 義典 訳
小宮 武文(NCI研究員)監修 

******

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...