2006/11/21号◆癌研究ハイライト「PSA検査」「進行性前立腺に術後補助放射線」「子宮頸癌、放射線併用」他

同号原文

NCI キャンサーブレティン2006年11月21日号(Volume 3 / Number 45)
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癌研究ハイライト

ガイドラインに反してPSA検査が高齢退役軍人で一般的に実施されている

米国退役軍人局の医療システムにおいて、多くの医師が、高齢男性に対する前立腺特異的抗原(PSA)検査を実施している。前立腺癌検査による弊害が潜在的利益を上回ることが知られているため、大半のガイドラインが推定余命が限られている高齢男性に対する血液検査しないように推奨しているにもかかわらず、2003年には、600,000人近い高齢退役軍人男性の56%がPSA検査を受けた。

このような人達でのPSA検査受診率は、現行のレベルよりずっと低い方が望ましいとサンフランシスコ、カリフォルニア大学のLouise Walter博士らは、Journal of the American Medical Association (JAMA)誌の11月15日号で報告した。健康状態の良くない男性の多くにとって、検査は、彼らの役に立つよりも、害となることのほうが多い。この試験では、前立腺癌の既往歴、高いPSA値や前立腺癌症状のない70歳以上の退役軍人が対象となった。彼らは104の退役軍人局施設で診察を受けた。

健康状態が悪化している男性は、良好な健康状態の男性とだいたい同じ割合で、検査を受けていた。検査を受けるかどうかの決定には、婚姻状態や米国内の地域などの因子の方が、健康状態よりも重要であった。健康状態が最も悪いグループの男性では、受診率は60%を超えていた。

雑誌の論説で、高い受診率の理由の一つに、大半の男性が自身の寿命に関して、過度に楽観的であることを指摘されている。もう一つの理由として、「患者はしばしば前立腺癌によるリスクと治療の有効性を共に過大評価している」と、コネチカット大学健康センターのPeter Albertsen博士は述べている。

若い女性の方が高齢の女性よりも卵巣癌に対する闘病に有利

卵巣癌罹患後の年齢および予後に関しては、相反する研究結果が示されてきた。しかし、今月オンラインで先行してBritish Journal of Cancer誌に発表された試験の結果が、若い女性の方が高齢の女性に比べて明らかに生存に関して有利であることを示したNCIのSurveillance, Epidemiology, and End Results (SEER)プログラムによる統計解析の正しさを支持することとなった。更に、子宮温存治療を受けた若い女性も、この疾病の治療のため標準的な手術を受けた女性と同じような結果を示した。

この試験では、1988年から2001年の間に、上皮性卵巣癌と診断された女性28,165人の国民代表サンプルが対象となった。女性は、人種、癌の病期、組織グレード、受けた治療の種類(子宮温存手術か、子宮摘出術や積極的な減量手術か)の他に、年齢グループとして「非常に若い(30歳以下)」、「若い(30から60歳)」、「高齢(60歳以上)」に分けられた。

非常に若い女性、若い女性、高齢の女性に対する5年全生存率は、それぞれ78.8%、58.5%、35.3%で、初期、進行期の疾患ともに同様の傾向がみられた。若い女性の方が、高齢の女性よりも疾患が初期の段階で診断される傾向があり、通常は子宮温存治療であるが,手術を受ける頻度も高い (71.2%対14.1%および15.6%)。16歳から40歳の子宮温存治療を受けた女性は、同じ年齢層の標準的手術を受けた女性と同様の生存率を示した(93.3%対91.5%)。「若い年齢が、人種、組織学的な細胞種、診断後の年数を越えて、良好な予後の判断材料になることに変わりはありません。」と著者は述べ、「生殖能のある年齢の女性が手術を受ける場合は、子宮温存手術によって保存的治療を受けるべきであり、積極的に治療を受けるべきである。」と助言している。

術後補助放射線療法が進行性前立腺癌の再発率を減少

病理学的に進行した前立腺癌患者が、前立腺全摘出術の直後に術後補助放射線療法を受けると、PSA再発のリスクを有意に減少させることが、Journal of the American Medical Association (JAMA)誌の11月15日号に発表された。

全部で425人の男性が、南西部腫瘍研究グループ(Southwest Oncology Group)の実施する多施設共同試験に登録され、外照射療法を行う群または通常のケアと観察を行う群にランダムに割り付けられた。患者は、1988年から1997年の間に登録され、中央値10.6年間フォローアップされた。

癌が遠隔部位へ転移するリスクの減少は2群間で有意な違いはなかったが、術後放射線療法により、PSA値上昇で示される癌の再発のリスクは有意に減少した。PSA無再発生存期間の中央値は、観察グループでは3.1年であったのに比べ、術後補助放射線療法を受けたグループでは10.3年であった。

PSA再発は疾患再発の早期の指標となる可能性があり、患者に強い不安を与えることにもつながる。NCIの癌治療および診断部門(DCTD)、臨床放射線腫瘍科(Clinical Radiation Oncology Branch)主任のBhadrasain Vikram博士は「手術後に、癌が、前立腺を越えていてもリンパ節に到達していなければ、放射線治療が再発率を減少させる可能性があります。しかし、放射線は副作用のリスク、特に排尿に関する問題も増加させました。」と述べた。

この試験により提起された更なる研究課題には、放射線療法を手術直後に行う方がよいか、不必要な治療を避けるためにPSA再発の時点で行うのがよいか、また一部の高リスクの患者の同定および治療により、転移性疾患が有意に影響を受けるのかどうか、などがある。

Vikram博士はまた「この試験が開始された1988年には、癌が本当に前立腺に限局している患者を手術の対象として選ぶ手術医の能力はずっと劣っていました。今日、手術に先立ち入手可能な情報を総合すると、前立腺以外の部位に癌が見つかる男性はとても少ないはずです。前立腺以外の部位に癌が見つかった患者にとっては、この試験は、どのようなことが予測されるのかに関して貴重な情報を提供し、どのような行動が最良であるかを決定するのに役立つでしょう。」と述べた。

プライマリーケア医はタモキシフェンをあまり処方しない

1998年に承認されて以来、乳癌予防のためにタモキシフェンを処方したプライマリーケア医はごく一部であり、タモキシフェンによる女性の子宮内膜癌や血栓のリスクの上昇は、他の要因に比べ、処方の決定にあまり影響を与えない、という研究結果が、11月13日にオンラインでArchives of Internal Medicine誌に発表された。

乳癌のリスクが高い女性に対し、タモキシフェンは乳癌の罹患率を顕著に減少させることが示されているが、同時に、静脈血栓塞栓症および子宮内膜癌のリスクを2倍に増加させるなど、重大な有害事象も引き起こす。

350人の初期治療を行う医師の処方動向を調べることで、ペンシルベニア大学の研究者らは、過去12ヶ月に乳癌予防のためにこの治療薬を処方したのは27%だけであることを見いだした。この結果は、プライマリーケア医によるタモキシフェンの処方は、患者の要求や患者が乳癌を発症するリスクを判断する医師の能力などの要因と、強く関連することを示している。加えて、「家族に乳癌患者(通常、母親)のいる医師は、いない医師に比べて、2倍多くタモキシフェンを処方する傾向にある。」と研究者らは報告した。

タモキシフェンを処方する決定は、子宮内膜癌や血栓塞栓症に対する懸念とは相関しないことを、研究者らは見いだし、「我々は、この食い違いに対する理由は追求しなかったが、子宮内膜癌が多くの場合治癒可能な疾患であるという認識を反映している可能性があり、この結果は異なる有害事象を持つ他の治療薬には当てはまらないだろう。」と、指摘した。

子宮頸癌に治療法の組み合わせが有望

フィラデルフィアで開催された米国放射線腫瘍学会(American Society for Therapeutic Radiation and Oncology)の2006年度総会で、ピッツバーグ大学による新たな試験が発表され、子宮頸癌に対して、骨盤照射療法に加え、大動脈周囲リンパ節(骨盤の上部に位置する)照射と化学療法の両方を行う治療法が評価された。以前にこの組み合わせで行われた試験では過剰な毒性がみられたため、今回の試験では、照射領域に大動脈周囲リンパ節を含むため強度変調放射線治療(IMRT)が使用された。IMRTは、近くの正常組織に対する放射線による障害を減少させる。

研究者らは、この試験に36人の子宮頸癌患者を登録した。そのうちの19人の患者では、癌は近傍のリンパ節へ転移していた。患者は全員、骨髄照射療法(2人を除く全員においては近接照射療法を含む)、大動脈周囲リンパ節照射、週1回の低用量シスプラチンによる化学療法を受けた。

1人の患者が、重度の消化管障害を示し、もう1人の患者は、重度の泌尿生殖器毒性を示した。骨髄における重度の疾患は10人の患者にみられた。患者は全員、放射線療法を完了したが、3人だけは最終回の化学療法を完了できなかった。

33人の患者が治療に完全奏効を示したが、そのうちの11人はフォローアップ期間中に、最終的には再発した。再発はどれも大動脈周囲リンパ節においてではなく、ほとんどが遠隔転移によるものであった。

「これらの結果は有望ですが、決定的なものではありません。」と、NCI・DCTDのBhadrasain Vikram博士は述べた。「更なる試験においては、標準放射線療法と安全性を比較するためのコントロール群が必要です。その後、大動脈周囲リンパ節照射の追加が、化学療法と骨髄照射のみの治療に比べて、生存期間を延長するかどうかを判断する試験も行われなければなりません。」

翻訳担当者 Oonishi 、、

監修 瀬戸山 修(薬学)

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