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がんサバイバーの歩行機能は生存を左右する重要要因となる可能性

がんサバイバーは歩行機能が低下するリスクが高く、さらに歩行機能の低下が死亡リスク上昇に関連することが、米国がん学会の学術誌であるCancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention誌に掲載された研究で明らかになった。

乳がんや前立腺がんなど一般的な種類のがんでは、がんの診断と治療が機能的な健康状態の悪化につながることがわかっているが、その他のがん種における関連性はあまり知られていないと、Elizabeth Salerno医師(セントルイス、ワシントン大学医学部外科助教、公衆衛生学修士)は述べる。米国国立がん研究所で本研究を指揮した同医師は、「がんサバイバーが従来より長生きしていることを考えると、さまざまながん種の診断と治療が、潜在的に修正可能な危険因子である歩行機能にどのように影響するのか、それを解明すれば、がん患者の健康状態を改善する新しい治療法やリハビリテーション計画につながる可能性があります」とも説明する。

本研究でSalerno医師らは、歩行機能の低下とさまざまな種類のがんとの関連性、および歩行機能と生存率との関連性を検討した。同医師らは米国国立衛生研究所・アメリカ退職者協会(AARP)食事健康研究のデータを元に、51歳から70歳までの500,000人を超えるAARP会員を対象とした調査結果を分析した。AARP会員には1995年から1996年にかけて人口統計学的属性、病歴、食生活を評価する質問票を、2004年から2006年にかけては特に健康状態、ライフスタイル、歩行機能などを評価するフォローアップ質問票を渡した。歩行機能は自己申告の歩行速度と運動障害の程度で判定した。

質問票に不備があった個人を除外した結果、最終調査対象にはがんサバイバー30,403人と、がんと診断されたことのない202,732人が含まれた。参加者の年齢中央値は61.8歳で、白人(92.4%)、男性(56.7%)、非常に健康な人(56.4%)の割合が高かった。調査対象者には、乳房、呼吸器系、リンパ系、皮膚、泌尿生殖器系、消化器系のがんをはじめとして、さまざまながん種が含まれていた。

がんサバイバーは、がんの診断を受けていない人に比べると歩行ペースが最も遅いと報告する割合が42%高いことをSalerno医師らは明らかにした。また、人口統計学的属性、健康状態、がん種、肥満度で調整したところ、がんサバイバーは運動障害のリスクも24%高かった。歩行機能の低下は数種類のがんと関連があり、呼吸器がんまたは口腔がんのサバイバーで最も強い関連性が認められた。

歩行速度の遅さと運動障害は、人口統計学的属性とがん特性の調整後、がんサバイバーにおいてあらゆる原因による死亡リスクおよびがん特異的死亡リスクの増加にも関連していた。歩行が最も遅いペースであると回答したがんサバイバーは、早足で歩くと回答したサバイバーと比較して、あらゆる原因による死亡とがん特異的死亡の両方のリスクが2倍以上高かった。同様に、運動障害のあるサバイバーは、あらゆる原因による死亡のリスクは80%、がん特異的死亡のリスクは64%高かった。

歩行速度が遅いことや運動障害があることはがんのない人でも死亡リスクを高めるが、Salerno医師らは、歩行機能と死亡率との関連性は、がんでない人よりもがんサバイバーの方が大きいことを確認した。がんの診断を受けていない人で早足で歩くと報告した人と比較すると、歩行速度が最も遅かったがんサバイバーでは死亡リスクが10倍以上高かった。がんの診断を受けていない人で歩行速度が最も遅かった人では、死亡リスクが3倍以上高かった。

「今回の結果は、機能的な健康状態がさまざまながん種の診断によって悪影響を受けたり、生存を左右する重要な要因となったりする可能性があることを示唆しています」とSalerno医師は話す。「このような複雑な関係についてはまだわからないことも多いですが、今回の結果で、がん罹患後の生存率を高めるために、特に高齢サバイバーの歩行機能を観察し、注目することが重要となる可能性が浮き彫りになりました」。

Salerno医師らは今後の研究で、なぜ特定のがんが歩行機能と強い関連性を持つのか、なぜ歩行機能と死亡率の間に強い関連性があるのかを解明することを目指している。「特定のがん種におけるこれらの関連性をより明確にするためには、診断前、診断中、診断後そして治療後の行動的、生物学的、がん特異的因子に関する情報をより多く得ることが重要になるでしょう」と同医師は述べている。

本研究の限界として、歩行速度と運動障害に関するすべてのデータが自己申告であったことが挙げられる。自己申告は広く調査データを収集する上で重要であるが、臨床検査値ほど正確ではない可能性がある、とSalerno医師は説明する。同医師は今後、自己申告された歩行機能と客観的測定値との相関関係を、がんや死亡率に照らして検討することに関心を寄せている。その他の限界としては、包括的な治療データがないこと、サバイバー集団が比較的健康でありほとんどが疾患の初期段階であったこと、分析で調整されていない交絡変数が追加されている可能性があることなどが挙げられる。

本研究は、米国国立衛生研究所の一部である米国国立がん研究所のIntramural Research Programの支援を受けた。Salerno医師は利益相反がないことを宣言している。

翻訳白濱紀子

監修佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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