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アベマシクリブが早期乳がんの新たな選択肢となる可能性

  • 2021年2月8日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

大規模試験の最新結果により、アベマシクリブ(販売名:ベージニオ)が、最も多い分類型の乳がん患者に対する新たな治療選択肢となることが示唆されている。

乳がんと診断される患者の約90%は早期乳がんであり、大半の場合、ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性のがんに分類される。このタイプの乳がんに対して現在利用可能な治療法の効果は非常に高いものの、一部の患者では治療後数年以内にがんが増悪または再発するリスクがきわめて高い。

monarchE試験から得られた新たな知見により、再発リスクの高い患者には治療レジメンにアベマシクリブを追加することで、再発の可能性が低くなることが示唆されている。

標準的な術後ホルモン療法に加えてアベマシクリブを2年間投与された患者は、標準的な術後ホルモン療法のみを行った患者に比べて、浸潤性のがんが再発する可能性が約30%低かった。

臨床試験責任医師であるピッツバーグ大学医学部のPriya Rastogi医師は、12月9日にサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で結果を報告した。

全体として、試験に参加した5,600人超の患者は、アベマシクリブの投与の有無にかかわらず、良好な生存転帰が得られた。大多数の患者は、短期追跡調査の期間中にがんの再発を経験しなかった。アベマシクリブを投与された患者では、ごく少数の患者で認められた血栓症や肺炎を含め、いくつかの副作用のリスクが高かった。

乳がんの治療を専門とする腫瘍医は、試験結果が有望であることに概ね同意したが、彼らはまたアベマシクリブが早期疾患の患者に広く使用できるかどうかはまだ明らかではないことを指摘した。

monarchE試験の初期の結果は「明らかに有望である」と、ウィスコンシン大学CarboneがんセンターのRuth O’Regan医師(同試験には関与していない)は述べた。O’Regan医師は「ただし、試験参加者をより長期的に追跡する必要がある 」と試験の知見に関するSABCSのセッション中に強調した。

NCIのがん治療診断部門の乳がん・メラノーマ治療科の責任者であるLarissa Korde医師/公衆衛生学修士は「アベマシクリブが一部の高リスク乳がん患者にとって重要な治療法になると信じている」と述べた。一方で、「いくつかの重要な不明点が残っている。未解明の問題の一つは、この治療法が実際に再発を予防しているのか、それとも再発を遅らせるだけなのかという点である」とKorde医師は述べた。

早期乳がんでのCDK4/6阻害薬の検討

主に過去数十年の治療の進歩により、HR陽性HER2陰性早期乳がんと診断された患者の長期予後は全体的に非常に良好である。

標準的な治療法としては、手術と放射線治療、その後のホルモン阻害薬による術後療法(内分泌療法とも呼ばれる)などがあり、多くの患者では化学療法も行われる。腫瘍を縮小して手術で完全に除去する可能性を高めるために、患者は術前に短期間の化学療法(術前化学療法)を受けることもある。

この一般的な治療法では、がんが再発する可能性はそれほど高くない。しかし、いくつかの因子がリスクを高めることが知られている。例えば、がんが乳房の近く(脇の下)にある複数のリンパ節に転移しているかどうか、乳房に大きながんがあるかどうか、「病期」の高いがんであるかどうか、つまりより悪性度の高いがんであることを(顕微鏡下で)示す腫瘍組織の物理的特徴があるかどうかが因子として知られている。

医師がリスク評価に用い始めるようになったもう一つの因子は、細胞分裂に関与するKi-67タンパク質を発現する腫瘍細胞が生検検体に占める割合である。しかしながら、このKi-67インデックスと呼ばれるマーカーは、すべての患者に対して日常的に評価されているわけではない。

Rastogi医師は、高リスク乳がん患者に対する新たな治療選択肢に対する「潜在的な需要」があると述べた。そこで、アベマシクリブが注目されるようになった

アベマシクリブは、がん細胞上の2つのタンパク質(CDK4とCDK6)の活性を阻害する薬剤として米国食品医薬品局(FDA)から承認された3種類の薬剤のうちの1つである。他の2つの薬剤は、パルボシクリブ(販売名:イブランス)とリボシクリブ(販売名:Kisqali)である。この3剤は大規模臨床試験のデータに基づき、いずれも進行性または転移性乳がんの治療薬として承認されており、試験では患者のがんを増悪させずに生存できる期間を大幅に改善できることが示されている。

進行乳がんに対する効果に基づき、CDK4/6阻害薬が高リスク早期乳がん患者の治療ギャップを満たすかを確認するために、複数の臨床試験が開始された。

肯定的な結果は得られたが、追跡期間は短い

monarchE試験に参加するためには、患者は腫瘍に最も近いリンパ節にがんが認められることに加えて、がんの再発リスクの増加に関連する他のいくつかの疾患特性のうち1つ以上をもっている必要があった。この試験は、アベマシクリブを製造しているイーライリリー社から資金を提供された。

患者は標準的な術後ホルモン療法のみまたはアベマシクリブとの併用療法に無作為に割り付けられた。また、多くの患者は何らかの術後化学療法を受けた。本試験のこれまでの患者の追跡期間の中央値は約19カ月であり、2年間の術後療法を完了した患者の割合はおよそ4分の1に過ぎない。

SABCSで報告された知見には、9月に発表された本試験の早期(中間)解析の3カ月間の更新データが含まれた。

アベマシクリブを投与された患者では、浸潤性がんの発症リスクが約30%減少したこと(無浸潤生存期間)に加えて、転移性がんが再発するリスク(無遠隔再発生存期間)も同様に減少したことが示された。

Korde医師は、転移がんが肝臓や肺など体の別の部位に再発すると、そのがんはもはや治癒可能とは考えられないため、転移がんの発生は早期乳がん患者にとって重要な指標である、と述べた。

また、Rastogi医師はKi-67インデックスのスコアが高い患者集団の結果も発表した(表参照)。

全体的に副作用はアベマシクリブ群でより多く認められたため、休薬または減量に至った患者数もアベマシクリブ群のほうが多かった。副作用のために投与を中止した患者の割合はホルモン療法のみの患者では1%未満であったのに対して、アベマシクリブ群では患者の約17%であった。

Rastogi医師は「アベマシクリブの投与を中止した患者の大半は、アベマシクリブの投与を開始してから5カ月以内に中止した。また、減量又は休薬した患者の大半は、投与を継続することができた」と説明した。

血栓と肺炎は、いずれも致死的となる可能性があり、ホルモン療法のみの群では1%未満に認められたのに対して、アベマシクリブ群では3%未満の患者に認められた。

プライムタイムの準備はできているか

アベマクリブは現在、進行または転移性乳がんの治療薬(単独およびアロマターゼ阻害薬との併用)としてFDAから承認されている。早期乳がんの治療薬としては承認されていないが、イーライリリー社は最近、早期乳がんを適応とする承認申請を行った。

しかしながら、複数の乳がん専門家は、早期乳がんの治療にアベマシクリブがどのように使用されるかはまだ明らかになっていないと指摘した。

その理由の一つに、同様の患者集団を対象とした他の2つの臨床試験で、CDK4/6阻害薬であるパルボシクリブを術後ホルモン療法に追加しても無浸潤疾患生存期間が延長しなかったことが挙げられる。このうちの1試験(Penelope-B試験)の結果もSABCSで発表された。

O’Regan医師は、Penelope-B試験とmonarchE試験の間には、治療期間の違いを含むいくつかの重要な違いがあることを指摘した。治療期間はパルボシクリブで1年、アベマシクリブで2年である。

さらに、Penelope-B試験の結果では、患者の追跡期間中央値は4年であった。しかしながらO’Regan医師は、この試験の追跡期間の2年時点では、治療群間の無浸潤疾患生存期間の差の大きさは、monarchE試験で報告された差と非常に類似していると指摘した。

このことは、monarchE試験の患者そより長期間にわたって追跡した場合、無浸潤疾患生存期間の改善が認められなくなってしまうのではないかという疑問を提起している、とベイラー医科大学Dan L. Duncan 総合がんセンターのC. Kent Osborne医師が記者会見で述べた。

Osborne医師は、monarchE試験の患者のより長期的な追跡が重要になることに同意した。早期がん患者は、治療を完了した5年後または10年後に再発する可能性があるからである。

さらに同氏は、CDK4/6阻害薬はがん細胞を殺すのではなく、がん細胞の成長を停止させたり遅らせたりすることで作用すると考えられている点が重要であると述べ、その理由として、CDK4/6阻害薬を進行がん患者に使用すると、治療を中止した後で腫瘍がより速く増殖するようにみえるとする複数の報告があることを挙げている。

FDAによるアベマシクリブの承認が早期乳がんにも拡大された場合、腫瘍医はこの治療法の長所と短所を患者と話し合う必要があるとKorde医師は述べた。

Korde医師は「いかなる治療法でも、薬剤のリスクは再発のリスクと慎重に比較する必要があると思う」と述べ、「非常にリスクの高い集団では、潜在的なベネフィットがリスクを上回るという議論もあるかもしれないが、私はこの決定は患者ごとに行う必要があると考える」と続けた。

翻訳岩見 俊之

監修原 文堅(乳がん/がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科)

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