PCV化学療法が有効な脳腫瘍患者をゲノムバイオマーカーで特定

オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC-James)の研究者らが行った研究によると、特定のゲノムバイオマーカーが、放射線治療後に化学療法を上乗せすることによって効果が期待できるグリオーマ(神経膠腫)患者を特定し、全生存期間および無増悪生存期間の重要な予測因子となる可能性があるという。

本研究結果は、グリオーマと診断された脳腫瘍患者に対し、ゲノム特性に基づいた治療体系を提示し、標準治療を変えていく可能性を示唆している、と主任研究者であるArnab Chakravarti医師は話す。

分子生物学に基づいた低悪性度グリオーマ予後分類の研究が進み、2016年に改訂されたWHO中枢神経系腫瘍悪性度分類には、解剖学的特徴と分子生物学的特徴を統合して策定された新リスク分類が取り入れられた。改訂された悪性度分類による転帰予測の有用性を評価する追跡調査が進行中だが、希少疾患であるグリオーマにおいて有意な対象患者数を満たすには限界がある。

そこで、OSUCCC-Jamesの研究者らは、NRG Oncology/RTOG 9802第3相臨床試験にて治療を受けた106人の患者を対象に、新たな後ろ向き研究を行った。WHO分子分類によるサブグループと対応する遺伝子変異が、予後および治療反応性に及ぼす影響を明らかにすることが目的であった。これらの患者の、WHO分子分類に基づく包括的な遺伝子解析および臨床転帰に関する情報が研究に使用された。

「本研究は、WHO分子分類によるグリオーマ、イソクエン酸脱水素酵素(IDH 1/2)遺伝子変異サブグループにおいて、放射線単独療法と比較して、放射線療法へのPCV(プロカルバジン(P)、ロムスチンとして知られるCCNU(C)、ビンクリスチン(V))化学療法の上乗せ効果を示唆する、初めての前向きランダム化国際第3相臨床試験となります」と、本研究の主任研究者であり、オハイオ州立大学放射線腫瘍学部長のChakravarti医師は言う。「PCV化学療法レジメンは非常に効果的ですが、同時に、高リスクの低悪性度グリオーマ患者に重篤な毒性が発現する危険性があります。したがって、PCV化学療法の効果が期待できる患者を事前に特定することが非常に重要になります。効果が期待できないと考えられる患者への副作用を回避することができるのです」。

Journal of Clinical Oncology誌6月23日号に研究結果が掲載された。

研究者らは、IDH 1/2変異型腫瘍と、無増悪生存期間および全生存期間との関連を調査した。その結果、IDH 1/2遺伝子変異は、臨床変数および治療法調整後、全生存期間および無増悪生存期間の両方において有意な予測因子であることが明らかになった。

「WHO分類による低悪性度グリオーマ患者において、放射線療法への化学療法上乗せによる全生存期間および無増悪生存期間の延長とIDH遺伝子変異には関連がみられました」と、Klotz Family Chair of Cancer Researchおよびオハイオ州立大学医学部教授であり、脳腫瘍プログラムディレクターのChakravarti医師は語る。「これらの新しい情報は、正確な予測バイオマーカーの分類および低悪性度グリオーマ治療に関連する議論の一部に対する答えとなるでしょう。これからは、放射線療法への化学療法の上乗せ効果を最も期待できる人を分子バイオマーカーにより確実に特定することができ、効果が期待できない人は必要のない治療を受けることがなくなるのです」。

翻訳担当者 為石万里子

監修 西川亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

脳腫瘍に関連する記事

髄膜腫の治療選択に遺伝子シグネチャーが役立つ可能性の画像

髄膜腫の治療選択に遺伝子シグネチャーが役立つ可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ物事を見かけで判断してはならない。腫瘍も顕微鏡で見た細胞の様子だけでは判断できないことが、次第にわかってきている。

成人の原発性脳腫瘍の中で最...
膠芽腫に対する効率的な第2相アダプティブ(適応型)臨床試験の画像

膠芽腫に対する効率的な第2相アダプティブ(適応型)臨床試験

ダナファーバーがん研究所膠芽腫の新たな治療法を見出すことを目的とした革新的な第2相臨床試験が、ダナファーバーがん研究所の主導のもと、全米の脳腫瘍センター主要10施設との協力で行なわれ、...
ベムラフェニブとコビメチニブの併用は稀少な頭蓋咽頭腫の治療に有効の画像

ベムラフェニブとコビメチニブの併用は稀少な頭蓋咽頭腫の治療に有効

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ稀少であるが致命的な、乳頭型頭蓋咽頭腫と呼ばれる脳腫瘍の患者の有効な新治療の選択肢が、小規模な臨床試験の結果を受けて間もなく登場する可能性が...
ボラシデニブは一部の低悪性度神経膠腫に有望の画像

ボラシデニブは一部の低悪性度神経膠腫に有望

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ脳腫瘍患者のために特別に開発された初の標的薬が、低悪性度神経膠腫と呼ばれる腫瘍の治療薬として有望であることが示された。

大規模臨床試験において...