新治療の普及により、肺がんの死亡率が急激に低下

NCIプレスリリース 2020年8月12日

最も一般的な肺がんである非小細胞肺がん(NSCLC)の死亡率が米国で急激に低下しており、主な原因は最近の治療の進歩であるとの新規研究が報告された。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)の一部である国立がん研究所(NCI)の研究者らの主導で行われ、その研究結果が2020年8月12日のNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
 
「米国において男性は1990年頃から、女性は2000年頃から、たばこ消費量の減少と肺がんによる死亡数の激減に関連がみられています。しかし、新規治療が最近の治療改善にいくらか寄与しているかどうかはこれまで不明でした」と、NCI副所長であり本研究の共著者であるDouglas R. Lowy医師は述べている。「今回の解析で初めてわかったのですが、最も一般的な肺がんに分類されるNSCLCの全米死亡率はその罹患率よりも速いスピードで低下しており、この進歩は近年、このがんに対して複数の分子標的治療薬が米国食品医薬品局(FDA)に承認されたことに関連しています」。

この研究では、米国の肺がんの76%を占める非小細胞肺がん(NSCLC)と、13%を占める小細胞肺がん(SCLC)についてデータを調査した(残りの割合を占める他の種類の肺がんは本研究の対象に含まれていない)。この10年間で、一部のNSCLC腫瘍病変にみられる遺伝的変異を標的とした治療や、免疫系の腫瘍攻撃能を高める免疫チェックポイント阻害薬も含め、NSCLCに対する新しい治療が利用可能となった。それとは対照的に、SCLCに対する治療の進歩はあまりみられていない。

死亡記録では、NSCLCとSCLCのどちらの肺がんが死亡に起因したのか区別していないが、NCIのSEERがん登録プログラムの診断記録は、この2つの肺がんを区別している。そのため、研究者らは、患者ごとの肺がん死亡記録をSEERがんデータベースにある患者の罹患率データに関連させることにより、肺がん死亡率の傾向をその組織系ごとに推定することができた。

近年、NSCLCによる死亡数はその罹患率の低下よりも速いスピードで減少し、死亡数の減少は生存率の大幅な改善と関連していることが研究で判明している。具体的には、男性のNSCLCによる死亡数は2006年から2013年まで年率3.2%、2013年から2016年まで年率6.3%低下したのに対して、罹患率は2001年から2008年まで年率1.9%、2008年から2016年まで年率3.1%の低下であった。

男性のNSCLCの2年生存率は、2001年診断患者の26%から2014年診断患者の35%へ改善した。女性でも同様の改善がみられている。さらに、新規治療の費用はそのほとんどが高額になるため、格差が広がるという懸念があったにもかかわらず、すべての人種や民族において2年生存率の改善が認められた。

研究者らは当初、NSCLC死亡率の低下の理由として肺がん検診があるかもしれないと考えていたが、調査の結果、肺がん検診の受診率は低く横ばい状態であったことが判明し、死亡率の低下を説明するには至らなかった。むしろ、死亡数の激減は、罹患率の低下(主として喫煙の減少による)と治療改善の両方を反映している。
 
他方、SCLCによる死亡数の減少は罹患率の低下と一致し、2年生存率はほとんど変化がなかった。具体的には、男性死亡数は年率4.3%減少し、罹患率も年率3.6%低下していた。女性においても同様の所見が認められた。したがって、長期にわたってSCLCによる全死亡率が低下したのは、主に罹患率の低下を反映しており、これも主に喫煙の減少によるものである。

研究者らは、NSCLC死亡率の加速的な低下が2013年から始まっており、これは、新たに承認された薬剤が標的とする遺伝子変異の検査を臨床医が患者の通常検査で実施し始めた時期と一致していることに注目した。2012年、米国国立総合がんネットワーク(NCCN)は、すべての非扁平上皮肺がん患者が遺伝子検査を受けることを推奨した。その後、新規治療の標的とされている上皮成長因子受容体(EGFR)変異と未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)融合遺伝子の遺伝子検査が大幅に増加した。免疫チェックポイント阻害薬は解析期間中には広く使用されていなかったため、生存期間の有益性の大部分は、効果的なEGFRまたはALK阻害薬、または他の治療の進歩に起因するものではないかと著者らは推測している。免疫チェックポイント阻害薬のNSCLC生存率への効果は有意であり、この生存率の改善傾向は2016年以降も続くはずであることを示唆している。

 「NSCLC患者に対して分子標的治療を行うことの生存利益は臨床試験で実証されていますが、今回の研究で、集団レベルでのこれらの治療の効果が浮き彫りになりました」と、本研究を主導したNCIがん対策統計部門(DCCPS)のNadia Howlader博士は述べている。「そして、肺がん治療の進歩が生存率に影響を与えていることがわかりました」。

参考文献:
Howlader N, Forjaz G, Mooradian MJ, et al. The effect of advances in lung-cancer treatment on population mortality. N Engl J Med. August 13, 2020. DOI: 10.1056/NEJMoa1916623

翻訳担当者 山本哲靖

監修 稲尾崇(呼吸器内科/神鋼記念病院 呼吸器内科)

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