全身照射による乳がんリスク上昇:血液骨髄移植サバイバー研究

幹細胞移植および骨髄移植の長期転帰を検討した新たな研究で、30歳以下で全身照射(TBI)を受けた患者は、一般集団と比較して、後の人生で乳がんを発症するリスクが4.5倍に増加することがわかった。2020年7月16日にJournal of Clinical Oncology誌に発表されたこの研究では、幹細胞/骨髄移植の一環としてアルキル化剤やアントラサイクリン系薬剤に曝露された女性で乳がんのリスクが増加していることも明らかになった。

著者らによると、「全身照射を受けた女性は、一般集団と比較すると全体で乳がんリスクが1.5倍、30歳以下で曝露を受けた場合では乳がんリスクが4.5倍であった」。30歳以前に全身照射に曝露された女性は、50歳までに乳がんと診断されるリスクが13.9%であった。これに対し、アメリカがん協会によると、米国の平均的な女性が50歳で乳がんと診断されるリスクは2.38%である。

「この研究結果から、われわれは、30歳未満で全身照射を伴う移植を行った患者に対して、乳がんを早期に発見するため、マンモグラフィと乳房MRIによるスクリーニングを受けることを推奨する予定です」と、本研究の統括著者であり、アラバマ大学バーミンガム校のInstitute for Cancer Outcomes and Survivorshipの責任者であり、同大学のO’Neal Comprehensiveがんセンターの上級研究者でもあるSmita Bhatia医師は述べる。

「われわれは、全身照射の線量と照射技術のさまざまな側面が二次がんとどのように関連しているか、さらに研究していく予定です」と、本研究の筆頭著者であり、放射線腫瘍学部助教のAndrew McDonald医師は述べる。「われわれの長期的な目標は、将来がんケアの一環として血液骨髄移植を受ける患者さんのために治療技術を向上させることです」。

「独特の脆弱性がある」サバイバー

本研究は、1974年から2014年の間に移植を受け、少なくとも2年間生存した1万人以上の患者がアラバマ大学バーミンガム校、シティ・オブ・ホープ、ミネソタ大学の各医療センターから登録された、幹細胞/骨髄移植サバイバー研究に基づいている。幹細胞/骨髄移植後の生存率は、10年ごとに10%の割合で改善しているが、これらの幹細胞/骨髄移植サバイバーには「長期的な健康問題に対して独特の脆弱性がある」とBhatia医師は言う。

国際血液骨髄移植研究センター(Center for International Blood & Marrow Transplant Research)の最新の数字によると、2018年に米国で骨髄移植または幹細胞移植を受けた患者は約2万3000人。これらは主に白血病や骨髄腫、リンパ腫などの血液腫瘍が進行しているか、再発のリスクが高い患者である。全身照射や、アルキル化剤やアントラサイクリンなどの化学療法的曝露は、幹細胞/骨髄移植の準備のために行われる。

「幹細胞/骨髄移植患者全体の約50%が全身照射を受けており、その中には若年患者が高い割合で含まれている」と、Bhatia医師は言う。血液骨髄移植の一環として全身照射を行うかどうかの決定は、「治療を受けている原発がんと、実施される移植の種類に基づいている」とBhatia医師は指摘した。「全身照射は、自分の幹細胞を移植する自己移植と比較して、兄弟や血縁関係のないドナーから受ける造血幹細胞移植でより頻繁に使用されています」と同氏は述べた。

リスクのある患者の同定

Bhatia医師の研究所では特に、長期的な問題のリスクが高いがんサバイバーにおける、予測特性の同定に関心を持っており、これにより医療従事者は、この集団に合ったスクリーニングやその他の介入を行うことができるようになる。

Bhatia医師によると、幹細胞/骨髄移植を受けたサバイバーにおいて、十分に研究されていない転機のひとつとして、年齢を問わず全身照射を伴う治療を受けた女性の乳がんリスクの程度がある。早期発見は乳がんの転帰を改善することが知られており、放射線関連の乳がんを発症するリスクが非常に高い女性のデータがあれば、医療提供者はこういった女性を早期にスクリーニングすることが可能となる。

研究の詳細

幹細胞/骨髄移植前に乳がんの既往歴があった女性、移植前に胸部放射線照射を受けた女性、または移植前に乳房切除を受けた女性は、この研究コホートには含まれなかった。研究者らは計1,464人の女性の幹細胞/骨髄移植サバイバーを調査したが、そのうち788人が同種移植を受けた患者、676人が自己移植を受けた患者であった。これらの患者の46%(660人)で全身照射が行われていた。追跡期間の中央値は9.3年であった。最も多かった診断は、急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群(27.5%)、非ホジキンリンパ腫(23.3%)、形質細胞異常増殖症(18%)、慢性骨髄性白血病(10.3%)であった。

研究期間中に乳がんを発症した女性は37人で、そのうち19人が同種移植、18人が自己移植を受けていた。女性の乳がん発症は幹細胞/骨髄移植後、中央値で9.1年であった。非浸潤性乳管がんを含む乳がんは、骨髄移植後サバイバー研究(BMTSS:Bone Marrow Transplant Survivor Study)の調査から同定した。

「われわれの知る限りでは、これは、自己移植を受けた女性の幹細胞/骨髄移植サバイバーにおける、全身照射後の乳がんリスク増加に関する最初の報告です」と著者らは述べる。「アルキル化剤やアントラサイクリン系薬剤への曝露が、その後の乳がんリスク増加と関連しているという知見は、小児がんサバイバーを対象とした長期転帰研究で指摘されていますが、今回の研究は、われわれの知る限り、幹細胞/骨髄移植サバイバーにおいてこのような関連性を報告した初の研究です」。

研究者らは、「本研究では、全身照射の投与量とその後の乳がんリスクとの関係は観察されなかった」としている。「しかし、本研究において、女性に使用された全身照射用量の分布は狭く、全身照射とその後の乳がんとの間に用量反応関係が存在するかどうかを明らかにするためには、さらなる研究が必要です」

McDonald医師とBhatia医師の他に、”Total Body Irradiation and Risk of Breast Cancer After Blood or Marrow Transplantation: A Blood or Marrow Transplantation Survivor Study Report”の共著者は以下のとおりである: Yanjun Chen, Jessica Wu, Lindsey Hageman, Liton Francisco, Michelle Kung, Emily Ness, Wendy Landier, Ph.D., Kevin Battles, and Donna Salzman, M.D., of UAB; F. Lennie Wong, Ph.D., Saro H. Armenian, D.O., and Stephen J. Forman, M.D., of City of Hope; and Daniel J. Weisdorf, M.D., and Mukta Arora, M.D., of the University of Minnesota。

この研究は、米国国立がん研究所(R01 CA078938およびU01 CA213140)および白血病リンパ腫協会(R6502-16)からの助成金によって一部支援された。

翻訳担当者 平沢沙枝

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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