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COVID-19のパンデミックに対するNCIの迅速かつ確固たる対策

  • 2020年4月24日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

Norman E. Sharpless医師(NCI所長)

先週末、筆者は米国国立がん研究所(NCI)の2つの重要な諮問委員会、科学諮問委員会と国立がん諮問委員会の緊急会議を招集した。

この会議は、これら2つの諮問委員会初のオンラインネットワーク上の会議であった。これは、NCIの幹部陣が諮問委員会メンバーにCOVID-19の世界的流行に対するNCIの対応について最新の情報を提供するため、また、NCIが世界的流行対応計画について諮問委員会から助言を受けるために開催された。会議の全内容は録画で視聴可能である。

今回の会議は多くの点で異例だが、最も重要なのは、このような状況ではこうした会議が必要であるという点である。言うまでもなく私たちは今、重大な人命の喪失、前代未聞の経済不況、日常生活の想像を絶する大混乱など、非常に困難な時期の只中にいる。

NCIでは、これらの問題ががん患者とその家族にとって特に深刻であることを知っている。がんやその治療によって体が弱り、合併症に対してより脆弱になっているため、COVID-19による重症化のリスクが高くなっている患者がいる。さらに、緩和化学療法、外科手術、放射線治療などの多くの種類の有効ながん治療は、ウイルスへの曝露のリスクを最小限に抑えるために延期または中止され、これらの患者はがんで苦しむリスクが高くなっている。

筆者は米国各地のがんセンターの多くのスタッフと話をしてきたが、彼らは深い懸念を抱いている。彼らとその施設もまた、患者のニーズを満たすだけでは必ずしも十分ではないことを承知の上で、状況に応じて可能な限りの対策を講じている。

NCIでも状況に応じて、米国のがん研究事業を可能な限り最大限に運営し続けるための対策を講じている。先週の会議で、私は諮問委員会メンバーに、NCIの最優先事項は、現在もそして今後も、がん研究の進展とがんの負担軽減のためにできる限りのことをすることであると強調した。

しかしながら、さらに、世界最大のがん研究組織であるNCIには、膨大な専門知識と独自の研究能力があり、この世界的流行への対応に参加する道義的な義務があることへの再認識を促した。

実際には、NCIは組織として、以下のように多くの事業を展開している。

▪          HIVの発見や初のAIDS治療、HPVワクチンの開発・大規模試験など、長い歴史を持つウイルス学の研究

▪          一流の専門家、経験豊富な臨床医、複雑な臨床試験を実施してきた実績のある大規模な学術機関を含む国家規模の研究基盤の整備

▪          政府・保健機関や民間企業との大規模なパートナーシップや協力関係の構築

▪          ウイルスの世界的流行に直接かつ即時に関連する先端技術と研究資源を提供するフレデリック国立がん研究センター(FNLCR)

諮問委員会では、過去4~6週間にNCIが着手した世界的流行に特化した活動の一部の概要を説明することに主眼が置かれた。これまでに行われた作業の膨大な量とそのスピードには驚かされるばかりである。

フレデリック国立がん研究センター(FNLCR)のリソースと専門知識の方向転換

FNLCRは、生物医学研究に特化した唯一の米国連邦政府資金提供による研究開発センター(FFRDC)である。FNLCRは、メリーランド州フレデリックに位置し、一流の科学者と最先端技術を有する精力的な研究所である。先週の諮問委員会でNCI副所長のDoug Lowy医師が説明したように、FNLCRはコロナウイルスの世界的流行のような危機に対応するのに完全に適している。そしてNCIではそのリソースをCOVID-19に対応するために投入している。

血清学的検査、免疫反応の評価

FNLCRの研究者らは、予想外によく知られるようになった単語である血清学に焦点を当てた取り組みを開始した。血清学とは、血液中の抗体で感染症に対するヒトの免疫反応を測定する検査法である。

FNLCRのHPV血清学研究所は、がんの原因となるHPV型に対する抗体の血清学的検査の開発と標準化を支援する上で、長い間中心的な役割を果たしてきた。この研究所は、米国食品医薬品局(FDA)と協力して外部の科学者や企業からFDAに申請された血清学的検査を検証することを含め、一時的に新型コロナウイルスの血清学的検査の用途で利用されている。

HPV血清学研究所のスタッフはまた、米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)、米国疾病対策予防センター、そしてニューヨークのようなウイルスの被害が大きかった地域の施設を含むいくつかの学術医療センターのスタッフと密接に協力している。

血清学的検査は、特にCOVID-19に感染したことがあり、COVID-19に対する免疫獲得のエビデンスを有する人々を特定することによって、国が一応の平静さを取り戻すために必要なものである。血清学的検査はまた、重篤な疾患を有する他の人々のための潜在的な治療法である回復期血漿の生産を目的としてCOVID-19に感染し回復した人々の血液をスクリーニングするためにも使用されている。

COVID-19の転帰の遺伝学的理解

NCIはまた、COVID-19の転帰良好および不良に関連する遺伝子変化を同定することを目的とする一連のゲノミクス研究を開始した。ある研究では、特にがん患者に焦点を当てる予定である。

この取り組みは、NCIのがん疫学・遺伝学部門長であるStephen J. Chanock医師が主導し、NIAIDおよび米国国立ヒトゲノム研究所の研究者らと協力して、FNLCRを中心として行われている。新型コロナウイルスに感染した人から採取したサンプルを用いて、各人の感染の転帰に関連する遺伝的変異体を迅速に同定することを目標としている。

他ならぬこのコロナウイルス感染の生物学への理解を深めるだけでなく、新しい治療法の標的を同定し、スクリーニング目的で使用できる可能性への見識を提供することが期待されている。

この取り組みの重要な側面は、これらの研究から得られたデータを研究コミュニティと迅速かつ広く共有することである。

COVID-19の新たな治療法の可能性を探る

FNLCRは、NCIのRAS構想、RAS遺伝子の変異型、特にKRASによって引き起こされるがんの新しい治療法を開発する取り組みの本拠地でもある。このようながんには、膵臓がんや肺がんのような致死性の高いがん種が含まれるため、RASを標的とした治療法を開発する取り組みは、がん研究コミュニティにとって高い優先度を持っている。

FNLCRは現在、COVID-19の新しい治療法を特定する目的でRAS構想による成果の一部を利用している。この取り組みの一部には、スクリーニングライブラリーとして知られるリソースが含まれており、これを用いて腫瘍の増殖を促進する変異KRASタンパク質の活性を阻害することができる化合物を同定することに成功している。

このスクリーニングライブラリーは、現在、プロテアーゼとして知られる重要な酵素の活性を阻害する可能性がある潜在的な化合物を同定するために使用されている。新型コロナウイルスは、感染した細胞内でより多くの自身の複製を作成するためにプロテアーゼに依存している。

シカゴ大学アルゴンヌ国立研究所(別のFFRDC)と共同で、プロテアーゼの活性を阻害するこれらのスクリーニングで同定された化合物については、COVID-19の潜在的な治療薬として開発する目的で追加の試験と改良が行われる予定である。

がん臨床試験を柔軟に適応させ、新たな試験を開始

驚くことではないが、COVID-19のパンデミックは、がん臨床試験に大きな影響を与えている。筆者はNCI指定がんセンターの部門長や他のスタッフと話をしたことがあるが、これは深刻な懸念である。

NCI副所長のJim Doroshow医師が諮問委員会で報告したように、NCIが資金提供している治療の臨床試験への登録は半減しており、この傾向は今後も続くと予想されている。特定の試験(救命治療を提供する試験や他に治療法の選択肢がない患者を対象とした試験など)への登録は継続しているが、その他のほとんどの種類の試験への登録は急激に減少している。

これを受けて、NCIはFDAおよびNCIの臨床試験プログラムと協力して、試験の中断に歯止めをかけるための数々の対策を実施してきた。これらの措置は、以下のように試験運営の柔軟性を大幅に向上させることを必要としている。

▪          試験中の経口投与薬を患者または地域の医師に直接出荷する

▪          通常患者が試験実施施設に直接来院する必要がある標準検査や評価を、患者の地元の医師が実施し、その結果を治験責任医師に送付することを可能とする

▪          追跡試験の実施やデータ報告のために臨床試験で規定されている要件の準拠における柔軟性を大幅に向上させる

これらは、試験を進めて意味のあるデータを生み出すために、多くの変更が行われてきただけのことである。

現在進行中のがん試験への変更に加えて、NCIは共同研究者らと協力して、COVID-19に感染したがん患者に特化した臨床試験を開始している。これには、COVID-19に感染し、サイトカイン放出症候群として知られる過活動性免疫反応によって引き起こされると考えられる重度の呼吸器合併症を有するがん患者を対象とした薬剤トシリズマブ(商品名:アクテムラ)の「例外的使用」プロトコルが含まれている。

この試験のプロトコルは、製造元のジェネンテック社が実施中の第3相臨床試験に登録することができない最大200人の患者にこの薬剤を使用することができるように、NCIの研究者が4日間で作成したものである。この試験の参加資格基準は、治療(幹細胞移植や免疫療法を含む)を受けている成人および小児の両方の患者が対象となるように調整される予定である。NCIはジェネンテック社と協力して、できるだけ早くプロトコルを開始できるように取り組んでいる。

さらに、NCIのすべての臨床試験プログラム(NCTN、NCORPなど)を含めたCOVID-19に感染したがん患者の大規模な臨床コホート研究の計画が確定している。

この研究では、あらゆる年齢層の2,000人以上の患者から、がん種、受けている治療法、症状などの包括的な記録を収集し、ウイルスががん患者に与える影響への理解を深めるために、長期間にわたって追跡調査を行う予定である。

この取り組みは、FNLCRで行われている血清学およびゲノミクスの研究にも貢献するはずである。

希望の光と次なるステップ

筆者が注目している点は、このひどい状況からいくつかの積極的な展開が出てきたことである。

その中で、テレヘルス(遠隔医療)がその瞬間を迎えていることを見てきた。筆者が会議で述べたように、実装科学に携わる研究者らは、この世界的流行の間にテレヘルスが患者ケアを管理する能力に与えた影響、今後テレヘルスを最も効果的に利用し、拡大する方法について分析する、またとない機会を得ることができるだろう。

がん治療を受けている患者には、テレヘルスによってケアの一部が提供されることを好む患者もおり、世界的流行が終わった後も、ケアのいくつかの面でテレヘルスを使い続けたいと思う患者も多いだろうと予測している。

また、本当に必要な時に政府の保健機関がどれだけ迅速に動けるかを目の当たりにしたことも感銘を受けた。新しい研究の取り組みが驚くほどのスピードで開発され、開始されている。何カ月もかかることもあれば、それ以上かかることもあるプロセスが、時には数日のうちに実現している。

諮問委員会で聞いたようにNCI指定がんセンターも大胆かつ迅速な行動をとっている。多くのがんセンターは、独自に、または他のがんセンターと共同で、COVID-19に感染したがん患者を対象とした臨床試験をすでに開始している。

筆者の考えでは、NCIは、研究計画、研究実施、患者ケアの在り方を良い方向に変えていくだろう重要な教訓を学んでいると思っている。

NCIは、がん研究の進展を図るとともに、COVID-19に対処するための世界的な取り組みに貢献するための活動を継続しているため、多くのコミュニケーション・チャネルを利用して、コミュニティにNCIの活動を知らせ続けていく。これには、ここで述べている取り組みやその他の取り組みに関する詳細な情報、さらにこの世界的流行がNCIにとって優先度の高いグループである若手研究者らを含む研究コミュニティに与える影響の変化などが含まれる。

当面は、安全に過ごすこと。また、物理的な距離などの公衆衛生当局者からの対策に関する指示に引き続き従うこと。そうすることで、この世界的流行の曲線を平板化することができる。そして、うまくいけばやがて、そこから抜け出すことができるはずである。

 

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翻訳会津麻美

監修遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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