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HER2標的トラスツズマブ デルクステカンが乳がんと胃がん以外の固形がんに有望

HER2標的抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン[fam-trastuzumab deruxtecan-nxki](販売名:Enhertu[エンハーツ])は、第1相試験において乳がんおよび胃がん以外の複数のがん種に臨床的活性を示したことが、米国がん学会(AACR)誌のCancer Discoveryに掲載された。

ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)は、変異または高発現が認められた場合、がんの進行を促進する可能性がある遺伝子である。HER2の高発現は、乳がん、胃がん、肺がん、大腸がんを含む多くのがん種で認められている。HER2過剰発現の乳がんの治療では数種類のHER2標的治療薬が承認されているのに対して、胃がんではそのうちの1つが承認されている。

「HER2標的療法は、乳がんや胃がんの患者に効果があることが証明されているが、他のHER2過剰発現またはHER2変異を伴う悪性腫瘍の患者に対しては、承認済みのHER2標的療法はない」と、スローンケタリング記念がんセンターの腫瘍内科医であり、本試験の上級著者であるBob Li医師は述べ、「HER2過剰発現を伴うその他のがんに対する従来の治療薬は、有効性が限られており、副作用も大きい傾向にある。これらの患者では、別の治療選択肢が早急に必要とされている」と続けた。

「HER2標的療法は、HER2を過剰発現しているがん細胞やHER2変異を伴うがん細胞に選択的に作用させることができるため、有効性を高め、正常細胞に対するオフターゲット効果による毒性を軽減することができる」と昭和大学先端がん治療研究所(東京都)の腫瘍内科医であり、本試験の代表著者である鶴谷純司医学博士は述べた。さらに、「診断検査の進歩により、臨床医が腫瘍のHER2状態を判断する能力が向上したため、HER2標的治療の恩恵を受ける可能性のある患者の数が増えた」と鶴谷氏は説明した。

この第1相試験では、鶴谷氏、Li氏および両氏の共同研究者らは、HER2を標的とした抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の安全性と臨床的活性をHER2過剰発現またはHER2変異を伴う数種類の進行固形がん患者を対象に検討した。T-DXdは、DXdと呼ばれるDNA複製を阻害する細胞障害性薬剤とHER2に対する抗体を結合させた薬剤である。抗体がHER2を発現するがん細胞に選択的に結合した後、DXdが標的細胞に放出され、DXdのDNA複製阻害作用が細胞死を誘導する。またDXdは細胞膜を通過するため、隣接するがん細胞にも侵入して死滅させることができる。昨年公表された研究結果では、HER2過剰発現を伴う乳がんおよび胃がんにおけるT-DXdの有望な抗腫瘍活性が示された。2019年12月、T-DXdは、転移性の乳がんに対してHER2標的療法を2つ以上受けたHER2陽性の手術不能または転移性乳がんを有する患者の治療薬として、米国食品医薬品局から迅速審査のもとで承認された。

最新の発表では、HER2過剰発現を伴う固形がん(乳がんと胃がんを除く)ならびにHER2変異を伴う固形がん患者の計60人のデータが報告されている。60人の患者のうち、20人が大腸がん、18人が非小細胞肺がん(NSCLC)、22人が「その他」のがん種に分類された。「その他」のがん種には、唾液腺腫瘍(8人)、食道がん(2人)、子宮内膜がん(2人)、胆道がん(2人)、パジェット病(2人)、膵臓がん(1人)、子宮頸がん(1人)、骨外性粘液型軟骨肉腫(1人)、小腸腺がん(1人)が含まれた。さらに、HER2変異を伴う乳がんの2人がこのカテゴリーに含まれた。

全ての患者(60人)を対象に効果を評価した。全体の奏効率は28.3%であり、無増悪生存期間中央値は7.2カ月、全生存期間中央値は23.4カ月であった。奏効率は肺がん(NSCLC)で最も高く、患者の55.6%で奏効率が確認された(10人の部分奏効)。HER2変異を伴う肺がんでは、奏効率は72.7%であった(8人の部分奏効)。大腸がんと「その他」のがん種の奏効率は、それぞれ5%(1人の部分奏効)と27.3%(5人の部分奏効、1人の完全奏効)であった。

治療中に発現した有害事象(TEAE)の頻度は、各がん種間で同様であった。全体では、患者の62.7%でグレード3以上のTEAEが発現し、患者の30.5%で重篤なTEAEが発現した。多く認められたTEAEは、貧血、好中球減少、白血球数減少、血小板数減少、食欲減退、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ上昇(肝障害のバイオマーカー)、発熱性好中球減少症、および血中ナトリウム値の低下であった。5人の患者で試験薬と関連のある間質性肺炎が認められた。5人の患者で死亡に至る有害事象が発現し、そのうち2件は試験治療と関連があると報告された。試験治療と関連のある死亡のうちの1件は試験薬と関連のある間質性肺炎が死因であった。49名の患者が、疾患の進行、有害事象、死亡、患者による参加の撤回、その他の理由で治療を中止した。

「この第1相試験におけるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の安全性プロファイルは、過去に報告された乳がんと胃がんの患者群と一致している」とLi氏は述べ、「間質性肺炎は重要な有害事象として認識されている。重篤または致死的な転帰に至る可能性があるため、モニタリングと迅速な介入が必要である。このリスクを最小限に抑え、管理するためには、さらなる研究が必要である」と続けた。

「トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、多様な患者集団において有望な抗腫瘍活性を示した」と鶴谷氏は述べ、「これらの結果は、HER2過剰発現またはHER2変異を伴う固形がん患者の治療選択肢として、T-DXdをより大規模な試験で検討すべきであることを示している」と続けた。

Li氏は「今回の予備的試験の結果に非常に興奮している。T-DXdは、早期臨床試験でHER2過剰発現またはHER2変異を伴うがん患者の標準治療に取って代わる有望性を示したので、われわれは今後の臨床試験でもこの重要な研究を継続していきたいと考えている」と述べた。

本試験の限界として、試験全体および各がん種内の症例数が少ないこと、本試験に含まれるHER2変異の多様性が限られていること等が考えられる。より大規模な臨床試験が進行中である。

別のHER2標的ADCであるトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)による治療後に再発した肺がん患者に対して、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が部分奏効を示したことが、Cancer Discovery誌に掲載されたLi氏らによるもう一つの研究により報告された。この試験ではT-DM1治療により、HER2変異またはHER2増幅を伴う肺がん患者の臨床的奏効が得られること、T-DM1と不可逆的なHERキナーゼ阻害剤を併用すると細胞培養時に細胞の薬剤取り込みが増強されることが示された。さらに、T-DM1と不可逆的なHERキナーゼ阻害剤の併用により、T-DM1による治療後の再発乳がん患者で部分奏効が得られた。以上の点を考慮して、この2つ目の試験の結果から、T-DM1治療後に再発した患者の治療選択肢として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)またはT-DM1とHERキナーゼ阻害剤の併用療法が今後検討されうることが示唆された。

この研究は、研究室での発見を基にした治療、および臨床現場の所見を活かした研究によりトランスレーショナルサイエンス(橋渡し研究)の力を示している」とLi氏は述べ、「このチームアプローチは、作用機序への理解を深めさせ、肺がんやその他の固形がん患者のための新しいクラスの薬剤として、ADCを開発するのに役立った」と続けた。

両試験は第一三共株式会社により資金提供を受けた。2つ目の試験は米国国立がん研究所(NCI)他、以下から資金提供を受けた:National Cancer Institute, the AACR-Conquer Cancer Foundation of ASCO Young Investigator Award for Translational Cancer Research, the Carol Lowenstein Fund, a gift from Mr. and Mrs. Peter Pritchard, MORE Health, Genentech, and Puma Biotechnology。また、Li氏の所属情報は以下のとおりである:Li has served as an advisor for Biosceptre International, Guardant Health, Hengrui Therapeutics, Mersana Therapeutics, Roche/Genentech, and Thermo Fisher Scientific, and he has received research grants to his institution from AstraZeneca, BioMed Valley Discoveries, Daiichi Sankyo, GRAIL, Guardant Health, Hengrui Therapeutics, Illumina, Amgen, Eli Lilly and Company, MORE Health and Roche/Genentech. Li is an inventor on two pending institutional patents at Memorial Sloan Kettering Cancer Center. Li is an inventor on two pending institutional patents at Memorial Sloan Kettering Cancer Center. 鶴谷氏の所属情報は以下のとおりである:Tsurutani is an advisor for Daiichi Sankyo, Eli Lilly and Company, and Asahi Kasei. Tsurutani has received honoraria from Daiichi Sankyo, Eisai, Taiho Pharmaceutical, Chugai Pharmaceutical, Kyowa Kirin, Nihon Kayaku, Novartis, Pfizer, AstraZeneca, Ono Pharmaceutical, and MSD. Tsurutani has received funds for travel from Daiichi Sankyo and research funds from Boehringer Ingelheim, Eli Lilly and Company, Eisai, and Ono Pharmaceutical.

翻訳岩見 俊之

監修上野 直人(乳がん、幹細胞移植/MDアンダーソンがんセンター)

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