進行大腸がんに対する免疫療法薬の有効性を高める新戦略

2つのがん関連遺伝子が相互作用して転移を促進する仕組みと、それにより免疫チェックポイント阻害薬の効果を高められる可能性が示された。

切除不能な大腸がん患者の多くが免疫チェックポイント阻害 (ICB)療法に奏効しない原因は、変異頻度が高いがん遺伝子であるKRAS遺伝子によって説明が可能であることをテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが見出した。

3月21日付のCancer Cell誌電子版で発表された研究で、大腸がんにおいて重要な変異遺伝子であるKRAS遺伝子が、腫瘍微小環境の免疫抑制能を制御し転移を促進する仕組みが示された。本研究結果は、KRAS遺伝子およびその下流の標的遺伝子の相互作用機序を解明し、免疫チェックポイント阻害療法を向上させる新たなアプローチの研究を裏づけるものになる。

世界的に、大腸がんはがん死の主要な原因である。診断時には約20%の患者が転移性の病態を有しており、治療法の向上にもかかわらず、5年後まで生存する患者は約12%である。新たに有効な治療または標準治療の改善を探究し続けることが非常に重要である。

「大腸がん患者の大半は免疫チェックポイント阻害薬が奏効しないため、免疫チェックポイント阻害療法の作用機序および分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用レジメンを研究する必要性が高まっています」とRonald A. DePinho医師(がん生物学教授)は述べる。「われわれの研究は、KRAS遺伝子が進行性大腸がんにおける免疫微小環境の調節、および免疫チェックポイント阻害薬への初期耐性に対して重要な役割を担っていることを示しました」。

DePinho氏のチームは、KRASの制御を受ける遺伝子であるインターフェロン制御因子2(IRF2)が大腸がんにおいて免疫抑制および免疫療法抵抗性を起こす仕組みを、遺伝子操作をしたマウスモデルを用いて実証した。KRASがIRF2発現を抑制すると、その結果として、タンパク質をコードする遺伝子の一つ、CXCモチーフ・ケモカインリガンド3(CXCL3)の高発現が起きることを研究チームは示した。CXCL3が結合するCXCR2受容体は、免疫抑制および転移を促進する骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の表面に確認できる。研究者らは、IRF2発現の回復、あるいはCXCL3-CXCR2シグナル伝達を標的とするMDSC阻害療法によって、免疫チェックポイント阻害薬に対する大腸がんの感受性が高まることを見出した。

「このKRAS-IRF2-CXCL2-CXCR3軸は、どの患者が免疫チェックポイント阻害薬に対してより良好に反応するかを見極めるとともに、免疫チェックポイント阻害療法の有効性を高める可能性がある併用療法を特定する際の枠組みとなります」とDePinho氏は述べた。「切除不能な大腸がんにおいてKRAS遺伝子変異の有無は、IRF2抑制により起こる免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性の予測因子となる可能性があります。今日の標準免疫療法に奏効しない進行大腸がん患者に対するCXCR2阻害剤と免疫チェックポイント阻害療法の併用治療の可能性をわれわれの研究は示唆しています」。

MDアンダーソン研究チーム参加者は以下のとおりである:Wenting Liao, Ph.D.; Adam Boutin, Ph.D.; Xiaoying Shang, Ph.D.; Di Zhao, Ph.D.; Prasenjit Dey,, Ph.D.; Jiexi Li; Guocan Wang, M.D., Ph.D.; Zhengdao Lan; Shan Jian, Ph.D.; Xingdi Ma; Peiwen Chen, Ph.D.; Deepavali Chakravarti, Ph.D.; Andrew Chang; Denise Spring, Ph.D.; and Y. Alan Wang, Ph.D., all of the Department of Cancer Biology; Jun Li, Ph.D.; Ming Tang, M.D., Ph.D.; and Jianhua Zhang, Ph.D., of the Department of Genomic Medicine; Riham Katkhuda, M.D.; and Dipen Maru, M.D., of the Department of Pathology; Michael Overman, M.D.; Krittiya Korphaisarn, M.D.; and Scott Kopetz M.D., Ph.D., of the Department of Gastrointestinal Medical Oncology; and Qing Chang, M.D., of the Institute for Applied Cancer Science.

その他の参加施設:Southern Medical University, Guangzhou, China; and Syntrix Pharmaceuticals, Auburn, Wash

本研究全体に関して利益相反を完全に開示している。

本研究は米国国立衛生研究所(CA084628および01 CA117969):中国国家基礎研究プログラム(2015CB554002):中国国家自然科学基金(81672886、81773101、および81872401):テキサス州がん予防研究所(RP170067)から資金提供を受けた。 また同研究はMD アンダーソン・ムーンショットプログラムの一部であるColorectal Cancer Moon Shotからも資金提供の支援を受けた。ムーンショットプログラムは、科学的発見から患者の生命を救う臨床段階へと進化を加速するための共同作業である。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

大腸がんに術後化学療法が必要かをctDNA検査で予測できる可能性の画像

大腸がんに術後化学療法が必要かをctDNA検査で予測できる可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ転移が始まった大腸がんに対する手術の後、多くの人はそのまま化学療法を受ける。この術後(アジュバント)治療の背景にある考え方は、がんが体内の他...
認識されていない大腸がんの危険因子:アルコール、高脂肪加工食品、運動不足の画像

認識されていない大腸がんの危険因子:アルコール、高脂肪加工食品、運動不足

オハイオ州立大学総合がんセンター仕事中にあまり身体を動かさず肥満率が上昇している現代アメリカでは、何を飲食し、どのくらい身体を動かすかによって大腸がん(30〜50代の罹患者が増...
若年成人の大腸がん罹患率増加に肥満とアルコールが関与の画像

若年成人の大腸がん罹患率増加に肥満とアルコールが関与

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024年におけるEUと英国のあらゆるがんによる死亡率を専門家が予測

欧州連合(EU)と英国における25〜49歳の大腸がんによる死亡率の上昇には、過体重と肥満...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...