子宮頸がん一次検診においてHPV検査が細胞診よりも正確

「従来の検診(細胞診)の代わりに新しい検査方法(HPV検査)を実施すれば、年間何百人もの女性が子宮頸がんを免れることができるでしょう」と、デイリーメール電子版が伝えた。

カナダで行われた研究により、子宮頸がんのほぼ全症例の原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)に対する一次検査が、従来の細胞診(スメア検査)と比べてより多くの前がん病変の発見につながることが示された。

細胞診では採取した頸部の細胞の変化を見るのに対し、HPV検査はウイルスの存在(HPV感染)を調べる検査である。

現在、子宮頸がんに対する英国医療サービス(NHS)検診プログラムは細胞診から始まる。細胞診の結果、細胞の低悪性度病変または境界病変の可能性が示された女性は、HPV検査を受ける。低悪性度の病変があり、かつHPV陽性の女性は、続いて精密検査(コルポスコピー)を受けることとなる。

これに対して、NHSの一部の地域では、HPV検査を最初に行うシステムを試験的に実施している。これが成功すれば、NHSはHPV検査を一次検査に切り替える可能性がある。

今回の研究は、この変更により現行システムに基づく検査よりも多くの前がん病変の症例が発見されるであろうと示唆している。

研究の出典

本研究は、カナダの子宮頸がん検診プログラムに従事した医師および研究者によるもので、その所属先は、ブリティッシュ・コロンビア大学、ブリティッシュ・コロンビア州疾病管理センター、ローワー・メインランド・ラボラトリーズ、ブリティッシュ・コロンビア・キャンサー・エージェンシー、およびマギル大学である。

本研究は、カナダ保健研究機構から資金提供を受けており、査読済みのJournal of the American Medical Association(JAMA)誌にオープンアクセスとして発表されたもので、オンラインで自由に閲覧できる。

デイリーメール電子版での報道は正確だが、新方式への変更に伴う一つのリスクとして「偽陽性」判定の増加が想定されることが説明されていなかった。偽陽性判定の場合、すなわちHPV陽性であるが、がん化していない細胞変化のある女性は精密検査に紹介される。

試験方法

これは、48カ月の期間中に二つの検査方式の結果を観察するランダム化比較対照試験であった。この試験法は、通常、複数の方法を比較して、どれがもっとも効果的であるかを調べるのに最良の方法である。

研究の内容

この研究では19,009名の女性を約半数ずつHPV検査群または細胞診群に無作為に分け、一次検診としてそれぞれの検査が行われた。

HPV検査で陰性と判定された女性に対しては、48カ月後にHPV検査と細胞診が行われた。一方、細胞診陰性の女性に対しては24カ月後に再び細胞診が行われ、48カ月後に両検査が行われた。

HPV検査または細胞診が陽性の女性に対しては、すぐにもう一方の検査法を使って組織分析が行われ、HPV陽性および細胞の変化が判明した場合、コルポスコピーが行われた。

細胞診は、液状検体細胞診(liquid-based cytology:LBC法。NHSで用いられる標準的な方法)を使って実施された。HPV検査は、DNAサンプルを基にして行われた。また、試験結果が検査群間における対象者背景の違いによるものでないことを確認するために、対象者の生活習慣および性感染症歴を質問票により調査した。

本研究は、25~65歳で、過去12カ月間に細胞診を受けておらず、妊娠していない、過去5年間に子宮頸がんまたは前がん病変の病歴のない女性を対象とした。

研究者らは、1回目の検査の結果と48カ月の終了時点での結果を比較した。主に、子宮頸がんにつながる可能性のある子宮頸部細胞の中等度または重度の変化(前がん性病変)に焦点が当てられた。これらの変化に対する医学用語は、「頸部上皮内腫瘍グレード3以上」(CIN3 +)である。

基本的な結果

本研究の開始当初の初回検査では、HPV検査を受けた女性(女性1,000人あたり7人)では、細胞診を受けた女性(女性1,000人あたり4.4人)よりもCIN3 +症例が多く見つかった。

しかし、研究開始から48カ月後では、HPV検査を受けた女性におけるCIN3 +症例数は、細胞診群よりも少なくなった。これはおそらく、初回検査で発見され、治療されていたためと思われる。

最終の48カ月時点検査結果は以下のとおり。

・当初HPV検査を受けた女性1,000人あたりのCIN3+は2.3人(95%信頼区間[CI] 1.5-3.5)。
・当初細胞診を受けた女性1,000人あたりのCIN3+は5.5人(95%信頼区間[CI] 4.2-7.2)。

研究開始時のHPV検査陰性の女性は、研究開始時に細胞診陰性だった女性よりも48カ月以内でのCIN3+発症の可能性がかなり低かった。  

研究結果は以下の通り。
・HPV検査で陰性であった女性1,000人あたりのCIN3+は1.4人(95%信頼区間[CI] 0.8-2.4)。
・細胞診で陰性であった女性1,000人あたりのCIN3+は5.4人(95%信頼区間[CI] 4.1-7.1)。

研究開始時のHPV検査後にコルポスコピー検査に紹介された女性は、1,000人あたり57人で、細胞診後での1,000人あたり30.8人と比較して多かったが、48カ月時点では逆転した。

コルポスコピーへの合計紹介数は、両群でほぼ同じで、HPV検査群では1,000人あたり106.2人で、細胞診群では1,000人あたり101.5人であった。

研究者らの考察

研究者らは、この結果から、「一次のHPV検査は、細胞診よりも早期かつ正確に子宮頸部腫瘍を検出する」ことがわかったと述べ、さらに一次HPV検査は「初回スクリーニングでCIN3 +およびCIN2 +の症例を有意に多く検出し、48カ月後にはCIN3 +およびCIN2 +の割合が大幅に低下した」と付け加えた。

研究者らはまた、検診モデルの変更による経済的影響を評価するためには、さらに多くの研究を行う必要があると警告した。

結論

この研究結果は、HPV検査が子宮頸部細胞診に代わる一次検査としてうまく機能する可能性があることを示唆する非常に興味深いものである。しかし、HPV検査が侵襲性子宮頸がん罹患数や同疾患による死亡数に影響を及ぼすかどうかを示す、より長期的な結果は出ていない。

したがって、「何百人もの女性ががんを免れるかもしれない」というデイリーメール電子版の主張が必ずしも正しいかどうかはわからない。

しかし、子宮頸がんの検出が早ければ早いほど治療が容易になるため、それを可能とする検査が必要とされることは間違いない。現時点で不明な点は、その結果としてコルポスコピーのような精密検査を必要とする女性が増える可能性があるかどうかである。

現在、少女や若い女性に対するHPVワクチン接種が勧められているが、子宮頸がんの症例の大多数を予防するにはまだ時間がかかる。女性は、ワクチン接種を受けているか否かにかかわらず、引き続き子宮頸がん検診を受けるべきである。

NHSの子宮頸がん検診プログラムの詳細についてはこちら

翻訳担当者 石塚啓司

監修 前田 梓(医学生物物理学/トロント大学)

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原文掲載日 

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