OncoLog2014年6月号◆House Call「癌患者の睡眠障害」

MDアンダーソン OncoLog 2014年6月号(Volume 59 / Number 6)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

癌患者の睡眠障害

睡眠障害は管理可能

十分な睡眠をとることはどんな人にも大切であるが、とりわけ、病そのものや治療からくる疲労を経験することの多い癌患者にとっては特に重要である。

睡眠障害は癌患者のQOL(生活の質)の低下を招き、治療効果を損なう可能性さえある。しかし、幸いにもこうした睡眠障害はたいてい管理可能である。

睡眠障害とその影響

米国国立癌研究所(NCI)によれば、癌患者の半数が何らかの睡眠障害を訴えているとのことである。

睡眠障害には主に以下の5つのタイプがある。

・不眠症:入眠困難(寝つけない)や中途覚醒(睡眠を維持できない)
・睡眠時無呼吸:睡眠中の10秒以上の呼吸停止
・過眠症:日中の覚醒困難
・概日リズム睡眠障害:望ましい時間帯での入眠や覚醒が困難
・睡眠時随伴症:入眠時、睡眠中、あるいは睡眠からの覚醒時にとる異常行動(例:歩行、発話、飲食)

癌患者に最もよくみられる睡眠障害のタイプは、概日リズム睡眠障害と不眠症である。実際、癌患者は癌を患っていない人に比べ、不眠症を経験する可能性が2倍にものぼる。睡眠時無呼吸は、一般の人々に比べ癌患者で多く、腫瘍がある部位や薬物治療による副作用が原因になることがある。

睡眠障害は、痛みや不安、鬱、治療による副作用、入院など、多くの癌関連要因により悪化することがある。

残念ながら、睡眠不足は癌治療に悪影響を及ぼす。睡眠不足が続いている癌患者は、十分に睡眠をとっている患者よりも、痛みをより強く感じることや一部の治療に対しより一層耐えられなくなることがある。睡眠は免疫系に影響を与えるため、睡眠障害は身体が持つ感染と闘う力を低下させることもある。

睡眠障害を管理する

癌患者における睡眠障害の有無を調べる目的で、医師は、日中の活動や睡眠習慣、運動習慣、薬の服用歴について問診しながら、身体診察をおこない病歴を確認する。睡眠ポリグラフィーと呼ばれる睡眠検査をすることもある。これは、睡眠センターに1泊2日入院して検査を行い、患者の睡眠段階、血中酸素濃度、呼吸、筋緊張の状態、心拍、総合的な睡眠行動について情報を収集する。

幸い、睡眠障害の多くは治療が可能である。

睡眠時無呼吸症候群は、持続性気道陽圧装置を用い治療できる可能性がある。これは、睡眠中の気道確保を助ける顔面用マスクである。他の睡眠障害は、薬の服用や、睡眠の質の改善につながるライフスタイルへの変更、睡眠障害の要因となる疾患の治療、睡眠を妨げる癌関連副作用あるいは癌治療による副作用を軽減する、などの対策を施して対処できることもある。

不眠症に対する薬物療法は通常、短期的な治療法である。長期的に効果を発揮するのは、ストレスや不安の管理と患者の疲労を治療することだ。

癌患者に対する睡眠薬の投与を半減しつつ、認知行動療法(CBT)を実施することも、不眠症治療に効果があることがわかっている。認知行動療法は、十分な睡眠がとれるだろうかといった不安を和らげる効果がある。

認知行動療法には、患者のニーズに応じて、寝る時のみ寝室に入るというルールを設ける刺激制限療法や、筋緊張とストレスを緩和する目的でおこなう漸進的筋弛緩法やイメージ誘導法などのテクニックを教える弛緩療法、健康的な睡眠につながる行動パターンを指導する睡眠衛生教育を組み込むことも可能だ。この行動パターンには、気持ちをくつろがせる就寝前の習慣をつくる、眠れないときにはベッドから出て眠くなったときにだけベッドに戻る、照明や温度、音の管理によって寝室環境やベッドを眠りにより適した環境に整える、といったことが挙げられる。

米国癌協会では、癌患者が夜ぐっすり眠るのに役立つ、次のようなヒントを紹介している。

・身体が要求する睡眠量を取りましょう
・一日最低一回の運動をしましょう
ただし、就寝時間が迫ってからの運動は避けましょう
・夜の飲酒、就寝時間の6~8時間前以降のカフェイン摂取は控えましょう
・就寝前は、温かいミルクやカフェイン抜きのお茶など温かくカフェインを含まない飲み物を摂りましょう
・毎晩同じ時間帯に、静かな環境で就寝しましょう
・毎日同じ時間帯に、痛み止めの薬や睡眠薬を服用しましょう
・シーツは清潔なものを使い、きちんとマットレスの下に折り込みましょう
・就寝時間前には、背中をさすってもらったり、足をマッサージしてもらいましょう

癌患者は、睡眠障害についてどのような問題でも担当の医療チームに相談しておきたい。睡眠問題を解決すると、患者の癌治療に対する反応が改善する可能性があり、また高血圧など関連する健康問題にも対処することができる。さらに、規則正しい回復睡眠をとることは、患者の日常のQOL向上や免疫系の改善、認知能力の向上につながることもある。

– K. Stuyck

For more information, talk to your physician and request a consult with a sleep physician or call askMDAnderson at 877-632-6789.

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翻訳担当者 菊池明美

監修 東 光久 (総合内科、血液癌、腫瘍内科領域/天理よろづ相談所病院)

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