2007/01/23号◆癌研究ハイライト「ゲムシタビン、膵臓癌」「カルシウムと結腸直腸腺腫」他

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米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年01月23日号(Volume 4 / Number 4)
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 がん研究ハイライト 

ゲムシタビンが膵臓癌患者の無病生存期間を延長

膵臓癌の術後化学療法における最大規模のランダム化臨床試験の結果が、Journal of the American Medical Association誌の1月17日号に発表され、治療薬ゲムシタビンが、過度の副作用を引き起こさずに、無病生存期間を延長させることが示された。

ドイツおよびオーストリアの試験医師らにより、354人の適格患者が本試験に登録された。患者は全員、膵臓癌の完全切除術を受けた。手術後、179人の患者がゲムシタビンによる化学療法を6サイクル受けた。1サイクルは、週1回の投与を3週と、その後1週間の休息期間とされた。また175人の患者は、経過観察のみのコントロール群に割り付けられた。

患者が重篤な副作用を経験した場合、投与量の変更が許された。患者全員に対して、定期的な身体検査、血液検査、画像化検査、生活の質(QOL)評価が、死亡するまでの間、試験医師らにより行われた。本試験の主要エンドポイントは無病生存期間であったが、毒性や全生存期間も観察された。

ゲムシタビン群の患者の62%が、予定されていた化学療法の全6サイクルの投与を受け、87%は最低1サイクルの投与を完了した。重篤な副作用はまれで、その発生率は化学療法が進んでいっても増加しなかった。ゲムシタビン群の患者では、コントロール群の患者よりも、有意に無病生存期間の中央値が長く(13.4ヶ月対6.9ヶ月)、生活の質(QOL)も低下しなかった。

ゲムシタビンの投与により、全生存期間も改善される傾向が観察されたが、統計的に有意ではなかった。しかし、著者らの説明によると、推定生存期間分析の観点からは「患者群間の全生存期間の違いは、今後観察期間が長くなるにつれ、統計的に有意になる可能性が高い。」という。

マイクロアレイ遺伝子発現試験にありがちな欠陥が論文調査により明らに

治療効果や生存期間を予測可能にする遺伝子発現プロファイル同定のためにマイクロアレイ技術を用いた癌に関する42試験を詳細に調査することにより、そのような試験の統計的分析におけるありがちな欠陥が明らかになった。Journal of the National Cancer Institute (JNCI)誌1月17日号に発表されたこの新規の報告では、2004年に発表された42の試験に関して、「批評的調査」が、パリ・セントルイス病院のAlain Dupuy医師およびNCIの Biometric Research Branch(生体計測研究部門の主任であるRichard M. Simon医師によって行われた。

著者らの説明によると、マイクロアレイを用いた試験の数は増加しているが、そのような試験結果の妥当性に関して疑問があがっていた。「マイクロアレイに基づいた臨床試験は、非現実的な過大評価と、過度の懐疑主義の両方を生み出した」ことを、著者らは指摘した。

Dupuy医師とSimon医師は、2004年中に発表され、マイクロアレイによる発現プロファイリングと臨床転帰を関連付けた90の試験を再調査した。2人は、試験を大きく次の3つに分類した。患者の予後によって発現が異なる特定の遺伝子を見つけようとする「臨床転帰関連の遺伝子発見」試験、腫瘍標本を遺伝子発現プロファイルの類似性によって分類するために統計的手法を用い、「クラス発見」に焦点をあてた試験、個々の遺伝子発現プロファイルに基づいて臨床転帰を予測するためのアルゴリズムを作成する「指導つき予測」に焦点をあてた試験の3つである。

その後2人は、2004年に発表されたこの多数の文献のうち、42試験を更に詳細に調査し、50%の試験で、少なくとも1つの基本的な欠陥を見つけ出した。例えば、転帰関連遺伝子発見試験では、23のうち9つで、「複数検査に関して、対照群が、記述されていなかったり、不明瞭だったり、不適切」であった。2人が見つけたその他の重要な欠陥には、クラスター(集団化)分析の使いすぎや不適切な使用、指導つき分類の予測精度に対する先入観を伴なった推定などがあった。

今後、マイクロアレイ・データの分析において、研究者が同様の問題を避けられるように、本論文では、この種の試験を行う際のガイドラインを載せている。

PTEN蛋白の新機序の発見

PTEN(ホスファターゼおよびテンシンの相同遺伝子)などの癌抑制遺伝子は、細胞増殖を抑制する上で重要な役割を果たしている。正常なPTEN蛋白は、損傷細胞に信号を送って分裂を止めさせる生化学的経路で作用を発揮し、この損傷細胞を自己破壊させる。スローンケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)および米国国立癌研究所(NCI)癌研究センター(CCR)の研究チームは、癌細胞がこの抑制作用を妨害する仕組みを明らかにした。『Cell』(1月12日号)で発表された研究チームの知見は、新しい臨床戦略をもたらす可能性がある。

1つめの試験でXuejun Jiang医師らは、NEDD4-1として知られているPTEN蛋白の主要な制御因子ユビキチン・リガーゼを同定しました。博士らは、マウスモデルの腫瘍細胞にNEDD4-1が高頻度に発現し、ユビキチンの添加によりPTEN蛋白を翻訳後修飾することを発見した。PTEN遺伝子に突然変異は起こりませんでしたが、ユビキチン化したPTEN蛋白の大部分が破壊され、その腫瘍抑制能力が失われたことから、NEDD4-1を癌原遺伝子と位置づけた。

2つめの試験でPier Paolo Pandolfi博士らは、細胞核におけるPTEN蛋白の新たな役割を明らかにしました。Pandolfi博士らはCCRのTom Misteli博士と協力し、正常なPTEN蛋白が細胞質で合成され、NEDD4-1リガーゼによる修飾を受けて核へ進入し染色体を安定させることを示した。PTEN遺伝子の癌性変異はPTEN蛋白を変化させ、この蛋白が核へ侵入し、癌抑制因子として機能するのを妨げる。「本研究は癌の新たな機序を明らかにし、まったく新しい治療戦略への道筋を示す見事な基礎研究の例です」とMisteli博士は述べた。

カルシウムは結腸直腸腺腫の予防効果を延長する

『JNCI』(1月17日号)で発表された試験結果によると、カルシウム・サプリメントは治療終了後5年間の結腸直腸腺腫の再発リスクを低下させる。

ダートマス医科大学(Dartmouth Medical School)のJohn A. Baron博士らは、1988~1992年に、結腸直腸腺腫の既往歴を有する被験者を対象としたカルシウム・サプリメントのプラセボ比較対照無作為化試験、カルシウムポリープ予防試験(Calcium Polyp Prevention Study)の参加者を追跡調査した。研究者らは参加者に対し、大腸内視鏡検査や薬剤、ビタミン、および栄養補助食品の使用等、医学的イベントに関するフォローアップ質問票を年1回送付した。最初の被験者930例中822例について、1999~2003年の治療後情報が得られた。

治療終了後の大腸内視鏡検査回数、初回および最終回の大腸内視鏡検査までの時間、ならびにカルシウム・サプリメントの使用回数は、カルシウム投与群とプラセボ投与群でほぼ同じであった。しかし、治療後5年間で、カルシウム投与群の参加者はプラセボ投与群の参加者よりも、あらゆる腺腫リスクが有意に低下した(31.5%と43.2%)。

研究者らは、「カルシウム・サプリメントの効果の持続は画期的ではあるものの、説明が困難な知見と言えます。この知見によって、4年間のカルシウム治療が、治療しなければ数年後に出現するかもしれない新たな腺腫を発現させないよう、結腸直腸粘膜を変化させることが示唆されました」と述べている。

将来の研究に向けて考え得る道筋としてアリゾナがんセンター(Arizona Cancer Center)のMaria Elena Martinez医師とElizabeth T. Jacobs医師は、同じ号の論説で「栄養摂取量が多い人よりも少ない人のほうが栄養補充から最大限の利益を得られる可能性がある。予防できる閾値をすでに超えている人は、さらなる予防効果を得ることはないであろう。また、腺腫再発に関する試験では、カルシウムとほかの薬剤の併用について検討すべきです」と述べている。

翻訳担当者 Oonishi、Oyoyo  

監修 林 正樹 (血液・腫瘍科) 

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原文掲載日 

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