HPV関連中咽頭がんに線量低減放射線療法が有効な可能性

ヒトパピローマウイルス(HPV)陽性中咽頭がん患者において、予防的治療領域への照射線量および照射体積を減らした根治的同時化学放射線療法(CCRT)は「同等の」病勢コントロールを可能にし、かつ毒性も低いことが後ろ向き単一施設研究で示された。

このデータは、予防的治療領域における放射線療法の「大幅なデ・エスカレーション(線量低減/低侵襲化)」が「局所領域腫瘍コントロールを維持しながら実現可能である」ことを示していると、研究者らはJAMA Oncology誌で報告している。

スローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)は、2017年3月より、同時化学放射線療法を受けるHPV陽性中咽頭がん患者に対してデ・エスカレーション戦略を採用している。この戦略は、選択された腫瘍転移のみられない頸部、後咽頭、レベル1B(顎下)およびレベル5(後頸部)リンパ節領域を温存しつつ、予防的リンパ節領域と顕微鏡的病変に対する照射線量を減らすというものである。

C. Jillian Tsai博士らは、後ろ向き研究において、2017年から2019年にかけて同時化学放射線療法を連続的に受けた局所進行HPV陽性中咽頭がん患者276人を対象に、これらの変更の影響を評価した。

すべての患者が、予防的治療領域に照射体積と照射線量を減らした放射線療法として30Gy/15回の照射を受け、その後、肉眼的病変に対しては照射野を縮小し、40Gy/20回、総線量70Gyの照射を受けた。

中央値26カ月の追跡調査で、局所領域再発は8人(3%)にしかみられなかった。そのうち1人は30Gy照射領域での再発であり、これは、以前に肉眼的病変が確認されていなかったリンパ節であることが判明した。他の7人は、総線量70Gy照射領域内での再発であった。

Tsai博士らの報告によると、デ・エスカレーション戦略による24カ月局所領域コントロール率は97%、無増悪生存率は88%、無遠隔転移生存率は95%、全生存率は95.1%であった。

デ・エスカレーション戦略はいくつかの好ましい毒性指標と関連した。指標には経管栄養やQOL(生活の質)転帰が含まれ、経管栄養が必要となった患者は17人(6%)であった。

「長期追跡調査データから、デ・エスカレーション戦略が初回同時化学放射線療法によるHPV関連中咽頭がん治療の治療オプションとして有効であることが確認できるだろう」と研究者らは述べている。

リンク先の論説の著者らは、このデータについて、「有望であるが、いまだ仮説の域を出ていない。予防照射線量を大幅に低減するというコンセプトを、さらに前向き試験で検討する必要がある」と述べている。

Philip Schaner博士(ダートマス-ヒッチコック・メディカルセンター、ニューハンプシャー州ハノーバー)とRaci Chandra博士(オレゴン健康科学大学、ポートランド)は、「個別化導入療法や他の全身療法による腫瘍細胞減量、バイオマーカー(例:血中循環腫瘍DNA)、画像検査(例:フルオロミソニダゾールによる低酸素評価)、適応放射線治療や粒子線治療の使用など、他のデ・エスカレーション方法を検討している数ある戦略の中からどのように最善のものを選択するかについては明確になっていない」と補足する。

「これらのさまざまな戦略を用いたデ・エスカレーションをどのような患者に安全に施行できるか、また、さまざまな程度のデ・エスカレーションがどのような患者に利益をもたらすかを決定するには、さらに多くのデータが必要である」と警告する。

原典:https://bit.ly/35dovVEおよびhttps://bit.ly/3AvJYEZ、JAMA Oncology誌 オンライン版2022年1月20日

翻訳担当者 工藤章子

監修 河村光栄(放射線科/京都医療センター放射線治療科)

原文掲載日 

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