ニボルマブとISA101ワクチン併用療法が中咽頭がんに有効

チェックポイント阻害剤ニボルマブ、およびヒトパピローマウイルス16(HPV16)に対する合成ロングペプチドワクチンISA 101の併用治療は、ニボルマブ単剤治療による過去のデータと比較して難治性中咽頭がん患者の奏効を改善したという知見が、スペイン、マドリッドでのESMO2017(欧州臨床腫瘍学会)にて発表された。

ISA101は、HPV16の発がんに関与するタンパクであるE6およびE7 に由来する13の合成ロングペプチドで構成される。HPV16はヒト子宮頸がんおよび子宮頸部上皮内腫瘍の50%、HPV陽性頭頸部がん、肛門がんおよびHPV誘発性の肛門前がん病変、または肛門上皮内腫瘍の 約80~90%に関与している。ISA 101は外陰部の上皮内腫瘍を退縮させ有効であるが、浸潤性子宮頸がんに対しては無効で ある。

上述の知見は 、がん免疫を抑制するがん微小環境が原因で、HPVワクチンの効果が限定的となっている可能性を示唆している。ニボルマブ(nivolumab)などの免疫チェックポイント抗体を用いた治療によってワクチン に誘導されたT細胞活性が増強されるのではないか、と米国ヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンター、Bonnie S. Glisson教授らは考える。

研究者らは、難治性HPV16陽性がん患者に対し、合成ロングペプチドHPV16ワクチンISA 101と ニボルマブを併用する第2相試験を実施した。本試験は参加者全員に対し非盲検で行われ、原発臓器に関わらずHPV16関連がんを有する患者24人(中咽頭がん22人、肛門がんおよび子宮頸がん各1人)が登録された。Cervista HPV16 / 18検査によって全腫瘍にHPV遺伝子16型が確認された。

患者らのECOGパフォーマンスステータスは0~1で、再発に対して 1レジメンまでの治療を受けていた [プラチナ製剤治療後6カ月以内の進行が18人(75%)、セツキシマブ投与歴ありの患者が12人(50%)で、プラチナ製剤治療未経験は1人のみ]。

登録患者24人のうち、ISA101とニボルマブの併用治療を初回治療として受けた患者が10人で、14人は二次治療として治療を受けた。すべての患者において、ISA(1回あたり100mcg )は1、 22、および50日目に投与され、ニボルマブ(3mg/kg)は8日目から開始して2週毎に最長1年間にわたって投与された。治療開始前、および開始後11週目、それ以降は6週間毎に画像診断をおこなった。

主要評価項目は全奏効率(ORR)でその期待値は30%とした。副次評価項目は忍容性、無増悪生存 (PFS)、および全生存(OS)であった。

ISA+ニボルマブ併用療法は、主要評価項目である奏効率を達成した

ORR33%は期待値よりも高く、よって主要評価項目は達成された。全患者中8人が奏効を示し、うち完全奏効(CR)2人、部分奏効(PR)8人で、PRのうち1人は未確定PRであった。3人(13%)が安定(SD)、13人(54%)は進行(PD)であった。奏効期間は中央値には到達しておらず、奏効した患者8人中5人が39週間以上(範囲21~59)奏効を持続している。PRに達した患者のうち6人は、プラチナ製剤による前治療から6カ月以内に進行した患者であった。

奏効した8人はすべて中咽頭がん患者であり、中咽頭がん患者22人における奏効率は36%であった。奏効は腫瘍細胞でのPD-L1発現陽性(1%以上)と正に相関した。

副次評価項目に関しては、追跡期間中央値8.6カ月の時点で、PFS中央値は2.7カ月(95%信頼区間[CI] 2.3、8.0カ月)で、OSは中央値には到達していなかった。

6カ月時点での無増悪生存率は33%(95%CI 16%、52%)、6カ月時点での全生存率は74%(95%CI 51%、87%)であった。

治療前に採取された腫瘍標本の39%(7/18)において、腫瘍細胞の1%以上にPD-L1発現が認められ、奏効割合と関連していた。

ISA 101ワクチン+ニボルマブ併用治療は忍容性が良好で、グレード1および2の軽度の毒性のみであった(発熱5人、注射部位反応6人、トランスアミナーゼ上昇、倦怠感および嘔気各3人)。グレード3のトランスアミナーゼ上昇、グレード4のリパーゼ上昇が各1人に生じた。

結論

本試験における中咽頭がん患者のORRは36%であり、Checkmate 141 試験でニボルマブ単剤治療を受けたp-16陽性のプラチナ不応性中咽頭がん患者のORR(16%)と比較して良好であったと研究著者らは指摘した。

今回のデータは、ワクチンにより誘導されたT細胞の有効性が抗PD-1療法によって増強され、免疫抑制性微小環境の影響を緩和するという仮説を支持する。研究者らは、これらの知見は計画中の大規模ランダム化試験において確証を得るに値する、と結論付けた。

本研究結果の議論において、ギリシャの国立カポディストリアコス・アテネ大学第一医学部腫瘍内科学教授Helen Gogas氏は次のように述べた。この研究の強みは、確固たる理論的根拠(HPV陽性の腫瘍微小環境は免疫抑制性であること)に基づいて、強力な橋渡し研究(治療前および治療後の再生検、経時的な採血検体、HPV特異的免疫応答、探索的バイオマーカー)とともに実施され、かつ有望な結果が得られたことにある。ただし、注意すべき点として、小規模の非ランダム化試験である点、前治療にばらつきがある点、そして橋渡し研究の観点から見るとデータの歪みや評価可能な腫瘍が少数である点が指摘された。概念実証(コンセプト実証;訳注:ワクチンと免疫チェックポイント阻害剤の併用は効果があるはずだという理論を、実際に臨床効果として証明すること)のために、ランダム化比較試験によって知見を確証する必要がある。

開示

この研究は、UT MDアンダーソンがんセンターの支援を受けた。

引用

1. Ferris RL、 et al.  N Engl J Med 2016; 375:1856-1867.

参照

1136O – Glisson B, et al. Nivolumab and ISA 101 HPV vaccine in incurable HPV-16+ cancer.

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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原文掲載日 

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