低リスクのHPV陽性頭頸部癌患者を対象とした低線量放射線療法は安全である

<患者、がんサバイバー、介護者のQOLを改善する新たな戦略が研究で明らかに(ASCO2014)>
(折畳記事)

*この要約には演題抄録に含まれない更新情報が含まれています。

ヒトパピローマウィルス(HPV)陽性中咽頭癌を有する特定の患者集団に対する低線量放射線療法は安全であることが、米国国立衛生研究所(NIH)が資金提供した新たな第2相試験で示された。この放射線療法は、導入化学療法への反応性や他の予後因子に基づいて放射線量を個別に変更する新たな方法である。放射線量を低減することで治療成績が悪化することはなかった。治療開始から2年生存している患者は95%にのぼった。

「頭頸部癌の治療は非常に困難ですから、悪性度が低く全体的な予後が良好な患者に対しては線量を弱めても安全なことがわかり大変勇気づけられました。特に、長期にわたる副作用と長く付き合っていかなければならない若年患者にとっては朗報です」と語るのは、本研究の主著者でテネシー州ナッシュビルにあるバンダービルト・イングラムがんセンターの放射線腫瘍学教授であるAnthony Cmelak医師である。「しかし、臨床においてこの治療を適用するように推奨するには、まだ第3相試験によるデータ確認作業をすると同時に、さらに長期フォローアップをする必要があります」。

中咽頭癌の新規症例のうち約70%がHPV関連であると推定されており、HPV関連腫瘍の罹患率は増加しているようである。HPV陽性癌はHPV陰性癌に比べ、治療成績が良好であることが多い。

この世界初の研究では、手術可能なIII期およびIVA期のHPV陽性中咽頭扁平上皮癌と診断された患者90人にパクリタキセル、シスプラチン、セツキシマブによる導入化学療法を行った。この療法によって、患者の癌は追加治療に対し反応性が高まり、転移リスクの低減や癌の放射線感受性の予測、癌関連副作用の軽減に役立つことがわかっている。導入化学療法後に臨床的完全寛解に達した、すなわち内視鏡検査で腫瘍が認められなかった患者62人が低線量(54グレイ)の強度変調放射線療法(IMRT)を受け、それ以外の患者は標準線量(70グレイ)のIMRTを受けた。IMRTは先端技術を用いて放射線ビームを腫瘍の形に合わせ調整する。全患者とも放射線と並行して、セツキシマブによる標準的な同時化学療法を受けた。

この研究の主要評価項目は無増悪生存率(PFS)であった。低線量IMRTを実施した症例の2年全生存率は93%、2年無増悪生存率は80%であった。生存率は、喫煙量が10パックイヤー(1日1箱を10年間吸った量に相当)未満の早期癌症例で若干高かった(2年全生存率が97%、2年無増悪生存率が92%)。標準線量IMRTを受けたハイリスク症例では、予想通り治療成績が悪かった(2年全生存率が87%、2年無増悪生存率が65%)。Cmelak氏によれば、低線量IMRTはHPV陰性腫瘍や比較的大きな腫瘍には適さないとのことである。

IMRT放射線量を低減することで、嚥下困難や口渇、味覚障害、項部硬直(首のこわばり)、甲状腺疾患といったしばしば長期にわたる消耗性の副作用リスクが低減し、患者のQOLが向上する。

この研究の対象となった患者には、晩期(遅発性)再発を捕捉するため5年間の追跡調査を行う予定だ。研究チームは、このほかにもランダム化第2相試験を1本計画している。HPV陽性の低リスク症例を対象に、初発時の肉眼的腫瘍部分にだけ照射野を絞ってIMRTを行うという、さらに強度を弱めた治療法を検討している。この治療法は、長期にわたる副作用のリスクをより一層低減するとともに、同等の生存ベネフィットをもたらすと期待されている。

この研究は米国国立衛生研究所(NIH)の支援を受けた。

ASCOの見解
ASCO専門家委員のGregory A. Masters医師は、「これまで私たちはHPV陽性口腔咽頭癌の予後は、HPV陰性よりも良好であることは知っていました。この研究によって、導入化学療法への反応性が高ければ放射線量を低減してもこの症例グループには有効であり、しかも安全性が高い可能性が指摘されました。癌の生態を理解することで、患者それぞれに合ったより的確な治療法を提供できるようになるでしょう。この研究は、毒性の少ない効果的な治療法を1つ増やし、患者のQOL向上に役立ちます」と述べている。

翻訳担当者 菊池明美

監修 河村光栄(放射線腫瘍学・画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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